・自然か、天然か - 太く短くたくましく! -
「そのボールね、海の向こうの南の国のね、オモチャなんだって」
「ああ、どうりで見つからないわけだね」
「私もそう思った! まさかオモチャとして入ってきてるとは思わなかったもん!」
「でもよく子供から譲ってもらえたね」
「へへへー! 南の国の友達からもらったんだけど、公女様にならあげてもいいって、その子譲ってくれたの! すっごくいい子だった!」
「ああ、その光景が目に浮かぶようだよ。性格はともかく、君は明るく綺麗なお姫様だからね」
こんな返ししかできないから、ツンデレって言われてしまうのだろう。
だけどリアンヌは超ポジティブなやつだから、ツンデレ王子の言葉にニヤニヤと笑うばかりだ。
これはこれで、なんか見透かされてるようでちょっとだけムカつく……。
「ででっ、これってやっぱり、自然ゴムってやつだよねっっ!?」
でもそんな感情は彼女の愛嬌に吹っ飛ばされた。
「まあ、意味は間違っていないし、別にいいけど……。でも僕たちの世界の言葉で言い直すなら、天然ゴムね」
「そうそれっ!」
ずっと触っていたせいか、最初は硬めだったゴムの感触がやわらかくなってきていた。
たとえるならばこれは、チューインガムみたいな感触だろうか。
これは加工しないとゴムタイヤにはなってくれないだろう。
「まあちょうどいいかな」
「え、何が?」
「明日、王都に行こうかと思っていたんだ。父上への報告もあるけど、共同研究者のコンラッドさんに合うのが目的」
「えーーっ、せっかく帰ってきたのに!」
「実は今日の夕方、ベアリングシステムが完成したんだ。そうなると次のステップは、コンラッドさんに任せていた電池の開発が鍵になる」
俺の話を聞いているんだかいないんだか、そう言ってもリアンヌは何も言わずに厨房へ入っていった。
しばらく待つと、彼女はニンジンを馬みたいにかじりながら戻ってきた。
「リングフットだっけ? えっと、それなんだっけ?」
「ベアリングだよ。君がパチンコ玉と呼んで譲らないあれだよ」
「あ、思い出したっ! くるくる回る面白い輪っか!」
「今日のことのはずだけど……。どうやら、君はずいぶんと濃い午後を過ごしてきたみたいだね」
あんまりわかってないリアンヌに、ベアリングの真価について語りたくなったけれど、俺はそこであることを思い付いた。
リアンヌ・アイギュストスを納得させたかったらら、説明よりも実践が正しい。
見せつけてやればいいんだ、あの快速と快適性を!
「よかったら僕と一緒に王都に行かない?」
「アリクと?」
「アグニアさんがあの人力車を改造してくれたんだ。走らせると自転車みたいにシャーッて涼しい音が鳴ってね、すごく快適な乗り心地なんだ」
「おお、それ楽しそう! 行く行くっ、私がその車を引っ張ればいいんだよねっ!?」
「僕が引くよ」
「ううん、私が引く!」
「いや、あれは僕が発明させたんだ。だから僕がやるべきだな」
「アリクじゃスピード出なくてつまんないし、私がやる!」
10歳の男の子と、12歳の女の子はつまらないことで言い合った。
端から見れば、どっちが先に滑り台を使うかどうかくらいの、些細な張り合いでしかないのだろう。
「カナちゃんとトーマも乗せたいね」
「あはは、トーマとカナちゃん、どっちもあたふたしそう!」
「そうだね。でも僕たちからするとそれが楽しい」
「わかるー! 『お止め下さい公女様!』って言われるの、私嫌いじゃないし!」
「いや、たぶんそれは本気で『お願いだから止めてくれ……』と、相手は思っていると思うけど……」
まあともかく、カナちゃんとトーマを連れて都まで遊びに行く。この路線は確定だ。
「じゃ、今から1ゲームしよっか!」
「……え…………?」
この子、今、何時だと思っているのだろう……。
彼女の無限の体力とバイタリティは、確かに王者や英雄の資質だ。
しかしそのパワーに、周囲の者が付いていけるとは限らなかった。
「だってだって、これを楽しみに無理して帰ってきたんだよっ! ここまでできあがっちゃったら、やらずに寝れるわけないよ!」
「……いいけど、限界がきたら僕は寝るからね。君のペースに付き合ってたら、30を迎える前にきっと死ぬ」
「へーきへーき、太く短くたくましく生きようよ! どうせ来世があるんだし!」
もう、どうにでもしてよ……。
ニンジンをヘタまで食べる馬みたいな女の子と、その日は意識がなくなるまでボードゲームをして夜を過ごした。