・アリク7歳 婚約成立、もう逃げられない
その晩、王宮の舞踏場で行われた婚約記念パーティでリアンヌと白銀の指輪を交換した。
リアンヌもまた貴族としての自分の役割を認めて、婚約の道を選んでくれた。
「なんか意外……。アリクって、実はJKとかが超好きだったり……?」
「そうかもね」
「え、マジ……? うわぁ……ドン引き……」
「リアンヌが気に入ったんだ」
「それっ、ロリコンってことじゃん……っ!?」
諸侯はそれぞれのもくろみを腹に、王子と公女の婚約を祝福した。
互いに耳打ちをする少年少女の姿は、親しさを演出することになったと思う。
「ちょ……っっ?!」
俺は諸侯の前でリアンヌの手を取り、掲げて関係をアピールした。
愛はまだない。だが好意や親近感は十分にある。
この華やかなようで恐ろしい貴族社会で生き残るには、こうして転生者同士で手を結ぶしかない。
「リアンヌも同じなんでしょ。育ててくれたアイギュストス大公のために、この話を受けたんでしょ?」
「うん……。私、前世の記憶はあるけど、公女だし……。お父様の娘でもあるから……」
「じゃあ同じだ」
婚約記念パーティは大成功で終わろうとしていた。
主に、政治方面で。
宮廷のパワーバランスが大きく変わり、父上や大公に擦り寄る貴族が増えた。
同時に敵意を向ける者もまた、たくさん増えた。
ぶどう酒と猜疑の香りが舞踏場に充満していた。
「貴族令嬢って、思ってた感じと違う……」
「同感だよ」
「まあ、悪役令嬢ものにいるようなクソ王子が相手じゃなくてよかったーっ、私ラッキーッ! と思うことにする!」
「リアンヌは隠れて冒険者をするつもりなんでしょ」
「まあね! そう考えたらアリクでよかったのかも! あ、私あの森の覇王になりました! どやーっ!!」
「あ、うん、そう……。大公様をあまり泣かせないようにね……」
「大丈夫、いつか認めさせるから!」
こうして俺たちは婚約した。
父上と大公様の関係が壊れない限り、もうこの契約からは逃げられなかった。
・
それから数ヶ月が経ったある日、今度は母上に庭園へ呼ばれた。
ちょうど書庫にこもっていた俺は、本を5冊ほど借りて離宮に戻った。
「あ、来たわ。アリク、こっちよ」
庭園に入り、いつもの東屋を訪れると、母の隣に見ない顔があった。
それは目を見張るほどの美少年だった。
彼は席を立ち、俺を正面にして庭園に片膝を突いた。
水色の綺麗な髪と、トパーズのような瞳をしたその人は小姓のお仕着せを着ている。
ということは、新しい小姓さん……?
「アリク王子ですね。自分はタイス伯爵の二男、トーマと申します」
「あ、はじめまして、トーマさん」
「いえ、トーマとお呼び捨てて下さい」
「え、でも、初対面の人にそれはちょっと……」
「ふふふ……」
リドリー母上は当惑する俺が面白いのか、楽しそうに微笑んでいた。
「母上、これって……どういうことなの……?」
「んーー。彼はね、あなたのジェイナスなのよ」
「へ……?」
「トーマは、あなたの小姓よ」
「え……っ、ぼ、僕のっ、小姓っ?!」
「歳は3つ上の10歳ですって。トーマくんと仲良くしてあげてね」
初めての小姓は、3つ年上の美少年だった。
彼はひざを突いたまま顔を上げて、生真面目な熱い目でこちらを凝視していた。
「そうだわ。一緒に城壁に行って、鷹の目を貸してあげたらどうかしら?」
あの、母上……?
犬猫じゃないんだから、急に小姓をくれると言われても困るよ……。
でもここで要らないって言ったら、トーマさんが可哀想だ。
「わ、わーい……。お、おにいちゃんができたみたいで、うれしいなー……?」
それにタイス伯爵といえば、最近父上と仲のいいおじさんだ。
つまりこれも、リアンヌとの婚姻と似たような案件なのだろう……。
王子の小姓ともなれば、将来の出世や重用が約束されたも同然らしいし……。
しかし頭では理解出来ても、心の方が追い付かず俺はつい首を傾げてしまっていた。
「か、かわいい……」
「え……?」
「はっ?! な、なんでもありませんっ! このトーマ、殿下の行くところならば、風呂でもトイレでも水の中でも喜んでお供いたしましょう!」
大学生やってた頃は、自分に小姓が付くなんて想像もしなかった。
しかも相手は3つ年上の、綺麗で誠実そうなお兄さんだ。
少し、言動が怪しいような気もしてきたけれど……。
「さ、行ってらっしゃい。ロドリック様は、トーマと一緒ならば王宮のどこを歩いても構わない、とおっしゃっているわ」
「えっ、それほんとうっ!? なら城下には!?」
「それはダーメ♪ アリクがもっと大きくなってからにしなさい」
「うん、そうだよね……。すごく、残念……」
俺がリアンヌが羨ましくなった。
あの元JKは、屋敷を脱走しまくっては大公様を泣きに泣かせているらしい。
だけど自由に王宮を歩けるようになるのは嬉しい!
俺はひざを突いたままのトーマの手を引いて立たせて、早速城壁へと遊びに誘った。
「こ、ここは……天国だ……」
「天国?」
「はっ、つい思っていたことが口に……っ! アリク殿下っ、今日より誠心誠意仕えさせていただきます!」
「えっと……ふつうにしてくれると、うれしいです」
「すみません、殿下の小姓になれたことが嬉しくて、つい舞い上がってしまいました……っ!」
しかしこの小姓さん、大丈夫だろうか……。
年上のお兄さんは、王子様に手を引かれながらだらしない顔を浮かべていた。
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8万字完結の予定でしたが、ざまぁ展開終了後ももう少しだけ続けてみることにしました。
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