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・人力車を魔改造しよう - 子供にはわからない話 -

 エントランスホールまでエスコートすると、その先はカナちゃんが案内をしてくれた。

 聴覚や嗅覚に優れる彼女は、こういう時はとても優秀な先導者だった。


「おおっ、ちょうど今呼びに行くとこだったわ! ほれ見てみぃっ、こらええ感じやっ! するっするっ進むでーっ!」


 カナちゃんに導かれて屋敷の出口へと進むと、屋敷の外からアグニアさんが人力車を引いて帰ってきた。

 アグニアさんは元気はつらつな明るい笑顔と一緒に、俺たちの目の前に人力車を停車させた。


「おとが……ちがいます……!」


 そう、音からしてもはやまったくの別物だった。

 旧来のこういった乗り物は車輪が回るとガタゴトとか、ギィギィとか、何かがぶつかり合ったりきしむ音が聞こえる。


 だけどベアリングの音はそうじゃない。

 まるで自転車のようなシャーッといった爽快な回転音で、車輪を高速移動させていた。


「凄いのは音だけやないで。ガタガタゆわへんし、引いた分だけシャーーッッと進みおる! こらオモチャやないっ、大・発明やっ!!」


 期待以上の結果に、俺も無意識に口元がニヤニヤとしてしまった。

 ベアリングシステムの有用性が彼女に認められ、ここに実現した。

 この車輪の美しい音色は俺たちが作り出したものだ。


「じゃあアグニアさん、次は試乗もしてみたくないかな?」

「おおっ、もちろんや!」


「じゃあせっかくだし、ターニャさんも呼ぼうか。カナちゃん、お願いできる?」

「あ、あの……もしかして、また、ですか……?」


 カナちゃんの口元から興奮の笑みが消えた。

 なぜならカナちゃんには侍女という立場がある。


 役職は違うけど、父親の八草さんとは同じ職場の人間でもあるわけで、ますます彼女には譲りがたい立場があるのだろう。


「うん、僕が引く。だってそうしないと、試運転にならないじゃないか」


 でも僕まだ10歳の子供だし、そういうのはわかんないなっ!


「日が傾いてきたで。早く呼んではよ行こや」

「ターニャさんには、新発明の人力車の負荷テストをしたいからって手伝ってって伝えて」

「ですが、ターニャ様も、こまるとおもいます……」


「ベアリングシステムの導入で、どれだけ荷物を効率的に運べるようになるか、検証したいんだ。今すぐ!」

「わ、わかりました……。こまりますけど、いってきます……」


 わがまま王子上等で強引に押し切ると、カナちゃんはターニャさんを呼びに行ってくれた。


「あんなー、王子様。繰り返すけどこら、想像してたよりえらい大発明や。同じ馬の数で、運べる荷物が増えるんやで? こら大革命やで!」

「そうだね。王都の荷運び屋さんには、恨まれちゃいそうだけどね……」


 技術の進歩で昔ながらの職人が仕事を失ったり、時代の変化で人が職を失うのは仕方ないこととはいえ、それを俺たち王族があっさりと肯定してしまうのも傲慢だ。


 あぶれた労働者の働き口を考えないと、いつか足下をさらわれるかもしれない。


「ハハハッ、そういうのはギルやオトンの仕事やろ。そういうのは兄貴たちに任せとき!」

「……アグニアさんには敵わないな」


 慕われながらも恐れられる国王ロドリック・カナンを、まさかのオトン呼びするところが特に敵わない。

 俺とアグニアさんはその後も、ベアリングシステムの応用性についてしばらく語り合った。


「ターニャ様を、おつれしました……」

「アリク様? 人力車の実験とは、どういう……?」


 やがてカナちゃんがターニャさんが連れてやってきた。

 アグニアさんは有無を言わせぬその強引さで、二人の背中を押して人力車に乗せた。


「あ、あのっっ、まさかっ、これっ、アリク様が引くのですかっ!?」


 そしてその人力車にアグニアさんまで乗り込むと、ターニャさんが大きな声で驚いた。


「そうだよ、ギルベルド兄上じゃなくてごめんね。さ、行こう!」


「お、降りますっ、降ろして下さいっ!」

「あはは、ごめんね。僕子供だから、細かい事情なんてよくわかんないよ」


 2人の立場はわかってるけど、こっちはもう我慢の限界だった!

 俺はハンドルを握り、弾む心のままに大地を蹴った!

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