・人力車を魔改造しよう - 空想の瞳 -
「こんな時間に言うのもなんだけど、今日は凄くいい天気だよ。一日中、屋敷に閉じこもっていたのが惜しいくらいだ」
「はい……。うちにも、きれいなうす黄色の、光が見えます……」
この窓は西側に向けて取り付けられている。
つまりこの窓からは、グリンリバーの大きくて美しい川と、その彼方に広がる広大な森林と、土台工事の現場や製材所が見える。
建設予定地の土地が日に日に隆起していって、それが平らに造成されてゆく姿はとても見応えがあった。
この楽しみのおかげで書類仕事漬けの生活にも堪えられたし、地形を変化させることを得意とする人類の底知れなさを感じた。
もちろん、俺はそのことを余すことなく目の前のカナちゃんにも語った。
「ふふ……よかったですね、アリク様……」
「うん! だってこれこそが、謹慎中に僕がずっと夢見てた光景だからっ!」
「でも……やっぱり、リアンヌ様にもうしわけないです……」
「え? ああ、2人でこうしてること?」
「はい……」
「そんなの気にすることないよ! だって、僕たちを置いて飛び出してったのはリアンヌだよ! おまけにあいつ、トーマまで持って行った! ……まあ、正しくは僕がトーマを貸したんだけどさ……」
後ろめたそうにしていたカナちゃんが、俺の抗議をおかしそうに笑ってくれた。
カナちゃんが笑ってくれると、なんだかこっちも嬉しい。
「うちは……おかげで、いい日になりました……。せいむのおてつだい、とても、たのしかったです……」
「こっちはいつも手伝ってもらっている気がするけど……。あ、そうだ、たまにはトーマと役割を交代するのもいいかもね」
「それは、トーマ様にうらまれてしまいます……」
「そうかな……?」
あれもこれもそれも、人手不足が原因だ。
もう少しここに人がいれば、カナちゃんとトーマとゆったりと仕事ができるのに。
……うん、結局仕事が基準なんだなと、自分でも今思った。
「はぁ……っ。それにしてもリアンヌのやつ、せっかく一緒に休暇を楽しめると思ったのに……。思い付いたら即行動なんだよな、あの子……」
「あの……アリク様も、そこはたいがいかと、おもいます……」
思い付いたら猪突猛進。それはリアンヌだけではないと、カナちゃんにまで言われてしまった。
昔、兄上にも似たようなことを言われたかな……。
「僕はあそこまで無計画じゃないよ」
「はい……。アリク様は、れいせいに、むちゃをする方です……」
反論にカナちゃんの同意は得られなかった。
まあそうかもしれないかなって、逆にこっちが納得させられてしまった。
それから俺は、グリンリバーの輝きや、彼方に浮かぶ雲の形や、それを運ぶ風の速さをカナちゃんに語った。
カナちゃんは風景を言葉で見るのが好きだ。
想像の翼を広げて、俺の言葉の1つ1つにうなずいて、とても楽しそうに興奮に少し上擦った声を上げる。
「それは、なに色、ですか……?」
「少しくすんだ感じの赤い屋根だよ。それにこうしてじっくり見てみると、なかなかおしゃれな家かも」
「わぁ……」
こっちも彼女のおかげで、普段あまり注意することのない世界の細部まで、細やかに注目を送れる。
そしてそれを身近な人と共有できる。
ちょっとしたそれを話相手が楽しんでくれる。
これは言わば、カナちゃんとしかできないとても楽しい特別な遊びと言ってもよかった。
「あ……おわった、みたいです……」
「え、終わった? 何が?」
そんなカナちゃんが急に立ち上がった。
「アリク様とうちの、おもい出の品の、かいぞうです……」
「え、本当っ!?」
「いってみましょう……」
人力車の改造のこと、実はすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
俺はカナちゃんを追い越して下り階段の前に立ち、後ろ歩きで彼女を見守りながら一緒にハシゴを下りた。
余計なお世話なのはわかっている。
でも盲目の女の子が階段を下る姿は、お節介と言われようとどうしても見ていられなかった。