・人力車を魔改造しよう - 屋根裏部屋 -
時刻はもうじき夕刻に差し掛かる頃。
俺とカナちゃんは今日一日の政務をようやく終わらせて、やっと一息をつけることになった。
「ごめんね、遅くなって。いつも通りこの書類束を父上のところに、こっちを母上にお願い」
近衛兵のお兄さんに書類束と、母上への手紙を渡した。
「殿下、我ら近衛兵にそんな遠慮は要りません。殿下のご命令とあらば、我らは凍える雪の日の真夜中であろうとも、喜んで殿下の手足となりいずこにでも参りましょう」
前者は予算や物資の迅速なる調達のために、後者はひとえに母上のご機嫌のために、1日たりとも遅らせるわけにはいけない書類であり家族の交流だった。
「ありがとう。僕もがんばって、貴方のその忠誠に報いるよ」
「我々近衛兵は、常に! 一丸となって殿下にお支えいたします所存です! アリク殿下、万歳! それでは、失礼したします!」
近衛兵(連絡員さん)の後ろ姿を見送ると、忠臣と社畜の差異について少しだけ考えたくなった。
この両者に、大きな差異はあるのかな、って……。
「カナちゃんも今日1日ありがとう」
「いえ……好きで、していることですから……。それよりあの……今日は、あしを引っぱってしまって、ごめんなさい……」
「え? ううん、そんなことないよ。カナちゃんが手伝ってくれなかったら今日は徹夜確定だったよ」
「そうですか……? ほんとうに、そうだと、いいのですが……」
カナちゃんは良い子だけど、やや後ろ向きなところが困ったところだった。
俺はそんな彼女を励ましたくなって、うつむく彼女の手を驚かせないようにゆっくりと引いた。
「ぁ……っっ」
結局、驚かせちゃったんだけど……。
「遅くなっちゃったけど、今から屋根裏に遊びに行こうよ」
「あ……! いい、のですか……?」
「夕焼けはまだかもしれないけど、今ならなかなかいい眺めなんじゃないかな」
俺はそのままカナちゃんを子供みたいに引っ張って、彼女を屋根裏部屋へと連れて行った。
そこでふと思ったんだけどこれって、普段リアンヌが俺にすることと逆なのかもしれない。
こんなふうに同い年の女の子の手をぐいぐい引けるのだって、リアンヌ・アイギュストスの影響を強く受けているからこそだと思う。
きっと彼女のあの分け隔てのない社交性が俺にこうさせるんだ。
廊下を進んで屋根裏部屋の真下までやってくると、俺は2階と屋根裏を、木製の小さな階段で繋いだ。
それからカナちゃんの手を引きながら一列横隊がやっとの階段を進めば、上開きの木戸を開いたその先が屋根裏部屋だ。
兄上はこの屋根裏部屋をよく使っていたみたいだ。
それはきっと、アグニアさんと一緒に。
だって屋根裏には西と東に大きな窓が1つずつ取り付けられていて、西側の窓の手前には素朴なラウンドテーブルが1つと、イスが2つ置かれていた。
この屋根裏もだけど、そのイスもまた独特だった。
ここのイスは足の長さが1つずつ微妙に異なっていて、とても職人の仕事とは思えない。
だけれどなんだか温かみがあって、俺はこのイスが好きだ。
このイスとテーブルを作った人は、未熟なりに一生懸命がんばって、これを丁寧に丁寧に作ったんだろうなって、そう感じさせる何かがある。
「ありがとうございます……」
カナちゃんのためにイスを引いてそこに座ってもらうと、俺は外開きの窓を大きく開けて、向かいのイスに腰掛けた。
背筋を痛めてしまいまして、なかなか執筆に時間を回せません。
このエピソードを含めて5話、少しボリュームが薄くなります。