・古巣サザンクロスギルドを襲う父の陰謀
・豪腕のレスター
「どうしたよ? 顔が青いぜ、ギムレット」
どうせすぐに耳に入ることだ。
俺は久々に古巣に戻り、ヤツに現実を突き付けてやった。
サザンクロスの本部には、サーシャとその旦那のリーガンもいた。
リーガンの方は親父と同じように青ざめて表情を失っている。
アリク王子とリアンヌ公女の婚約は、宮廷のパワーバランスをひっくり返す大事件だ。
いいや、それは冒険者ギルドからしたって例外じゃねぇ。
王家の力が強くなるということは、ルキの天秤に多くの仕事が斡旋されるようになる、ということだ。
国家予算の用途を決めるのは、議会だからな。
「横暴だ! 王は何を考えている!」
「おう、リーガン、お前も久しぶりだな。ただ微笑ましいカップルが生まれただけだろ?」
「こんなことをして……っ、諸侯が黙っていないぞ!」
「諸侯? 主語がでっけぇなぁ。困るのは、お前らと癒着してる汚職官僚どもだけだろ?」
あの王様が危ない橋を渡っているってのは、マジだけどな。
けどそこも含めて俺はロドリック王が好きだ。
王族や政治家なんていけ好かないって思ってたけどよ、仲良くなってみれば良い男だった。
「お義父様もリーガンも何をそんなに慌てているの? わかりやすく説明しなさいよ」
「お、お前っ、まだ状況がわからないのかっ!? 国からの依頼を、こいつらにごっそりと横取りされるってことだっ!」
サーシャが口を挟むと、リーガンが責めるようにそう叫んだ。
冒険者の大半はサーシャ同様に状況をまるで理解していなかったため、それがきっかけとなって辺りが大きくどよめいた。
「なんでよっ!?」
「なんでこのくらいのことがわからない! このバカ女!」
「はぁ!? 偉そうにする前に稼いでから言いなさいよっ! なんで私がっ、朝から晩まで奴隷みたいに働かされているのよっ!」
そりゃ、ギルド職員スキルを持つ他の連中に、愛想を尽かされたからだな……。
ルキの天秤が生まれる前は、職員たちはギムレットどものパワハラを甘んじて受け入れるしかなかった。
「ってことでよ、お前らも見限るなら早い方がいいぜ。無罪のアリクを売ったこいつらのことだ、次は誰を生け贄に捧げるかわかんねーぜ」
ここの裏切り者によると、サザンクロスの利益は黒字と赤字の間を行ったり来たりだってよ。
つまりはこれで、ほぼ確実にサザンクロスギルドは大赤字に転落するってことだ!
「おい、どうする……? レスターの話が本当なら……」
「どうするも、こうするも……依頼が減るなら、生活のために移るしかないんじゃないか……?」
冒険者たちのどよめきに、ギムレットは顔を真っ赤にして怒った。
少年少女の婚約一つで、こうも状況がひっくり返るとは俺も驚いた。
アリクのやつが己の人生を王家に捧げたこともな……。
「こ、殺せ! お前らっ、今すぐレスターを殺せ!!」
「お、いいぜ。かかってきな」
アリクをハメやがったギムレットは、泡吹いて目を白黒させていた。
ケンカは大歓迎だ。
いや、大歓迎だったんだが……。
残念だがよ、誰もギムレットの命令に従おうとはしなかった。
「なんだよ、来ねぇのかよ? ……お?」
いや、ギムレットの取り巻きたちが俺の前に迫って来た。
さあいっちょやろうぜと、俺は腕をまくった。
けどよ、そいつらは足下にひざまずいちまった。
「レスター、今日までのことは詫びる。どうかお前のギルドに入れてくれ」
「おい待てテメェらっ、うちを裏切るのかよっっ?!」
「サザンクロスはもうダメだ。お前の予言通りだった」
「待てやっ、てめぇら俺たちに逆らったら干すぞっ! わかってんだろうなぁっ!?」
ははは、いい気分だ。
夢にまで見た光景だ。何度これを妄想したかもわからねぇ。
「いいぜ、移籍したいってやつは俺に付いて来い! 裏切られる前に、裏切っちまった方がいいぜ!」
俺がサザンクロスギルド本部を出ると、今日まで移籍をためらっていた連中がぞろぞろと後を付いて来た。
ギムレットたちは軒先まで追って来て、ご丁寧にも俺たちをお見送りしてくれたよ。
「調子に乗んじゃねーぞっ、レスターッ!! 王が失脚すればお前らは消されるんだっ、覚悟しておけよっ!!」
そうならねぇように、俺ががんばらねぇとな。
アリクだって婚約の道を選んだんだ。
おっさんが退けるわけねぇ……。
こうしてこの日を契機に、ルキの天秤への冒険者や職員の移籍が急加速した。
宮廷の方もきっと、下々の俺たちどころじゃない大騒ぎになっているんだろうな……。
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