・アーチ橋を架けてここを交通の要所にしよう - 書類では一瞬で終わる仕事 -
「じゃっ、私そろそろ行くね!」
「公女様が行くんなら、俺も行かねぇわけにはいけねぇな。カナ、飯作んのずいぶんと上手くなったな」
だけどリアンヌも八草さんも今は土台工事に夢中みたいだ。
食堂を出て行こうとしたので、俺は席を立って道を阻んだ。
「待ってよ、リアンヌ。少しはゆっくりとしていいきなよ」
「かまってほしいの?」
「そうだね、そうだよ。だってせっかくのバカンスじゃないか。昨日は不在にして悪かったけど、僕は一応、君との休暇を楽しみに――」
「ごめん、今いいところなんだから後でねっ!」
何かに夢中になるとリアンヌはいつもこうだ。
周りが見えなくなって、彼女は体力が尽きるまで止まらなくなる。
すり抜けてゆこうとするリアンヌを、両手を広げて俺は阻んだ。
「わかったっ、わかったよっ! 認めるよっ、かまってほしいんだ! 僕をかまってリアンヌ!」
「えーっ、そんなの後でもいいじゃん」
「よくないよっ! こうして一緒にいられる時間は凄く貴重で、限られてるじゃないかっ!」
そう俺が主張すると、リアンヌは不思議そうにアリク王子の顔を真顔で見た。
それから急にニヤニヤし始めて、俺の鼻をからかうようにつまむ。
もちろん、バカにされたような気がして俺はそれをはねのけた。
「言ってなかったっけ? 私、もう半月はここに滞在する予定だからよろしく!」
「え……」
「へへへーっ、なんかアリクって弟みたいでかわいいところもあるんだねーっ! お姉ちゃんが帰っちゃうと思って、不安になっちゃったんだーっ!?」
そんな言い方しなくてもいいじゃないか……っ。
言われて俺は顔が熱くなって、反論の言葉を詰まらせてしまった。
「そうならそうと言ってよ……。普通、半月も滞在してくれるなんて、思わないし……」
「よしよし、仕事が終わったらお姉ちゃんが遊んであげるからね、アリク」
「こ、子供扱いするなぁーっっ! リアンヌなんてさっさと現場に行っちゃえっ!」
「あはははっ、アリクが逆ギレしたーっ!」
リアンヌは力仕事のためにポニーテールにしている後ろ髪をなびかせて、俺の真横をすり抜けていった……。
「と、尊い……っ、すねる殿下も……良いっっ」
「殿下には悪ぃけど、子供らしい側面に俺ぁホッとしちまったわ。いてっ、何すんだよぉ、カナァ……!?」
今日まで何があっても俺は落ち込んだりしなかったのに、たかが好きな子に子供扱いされただけで、絶望にも等しい精神的ダメージを負っていた……。
「アリク様……アリク様は、ただのこどもじゃないです……。うちがそんけいする、さいこうの、かっこいい王子さまです……」
「カナちゃん……」
カナちゃんが両手を取って慰めてくれた。
リアンヌのやつ、たかが2歳年上だからってお姉ちゃんぶって! 生前は俺の方が年上なのに!
「でも……リアンヌ様が、うらやましい……」
悔しくなってしまった俺は食事を平らげると政務室に戻って、残りの仕事をどんどん終わらせていった。
自分も土台工事に加わってリアンヌを見返してやるために!
なのにリアンヌは俺がいざ現場を訪れると、さっきのことなんてすっかり忘れて元気に迎えてくれた。
リアンヌは工事の仕事を俺に教えてくれて、俺はリアンヌと一緒に働いて現場のみんなを驚かせた。
得意のアースウォールの魔法は使わなかった。だってこれは土台造りなんだから。
橋の左右の土地を高く造成して、砂利を埋めて水はけを良くし、杭を打って盤石にする。
大きなハンマーを使って土を均等に均し、その上を舗装しても陥没したりしないようにする。
リアンヌと一緒に、俺はシャツとズボンだけの粗末な作業着姿でがんばった!
書類で一言命じるだけの1分足らずの作業は、たくさんの汗と時間と人を費やして実現される大変なものだった!