表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/271

・アーチ橋を架けてここを交通の要所にしよう - 怪奇・足音が足りない女 -


 ターニャさんはカナちゃんに特に親切だった。

 控えめなカナちゃんも素朴なターニャさんと気が合うようで、2人は一緒に流行歌を歌ったり、人形劇の話をしたりして、よく楽しそうに笑い合っているのを俺は何度も目撃した。


 そんなカナちゃんとターニャさんが仕事中の政務室を訪れた。


「アリク様、昼食の準備ができました。キリが付きましたら食堂へお越し下さい」

「う、うちも……ターニャ様の、おてつだい、少し、させていただきました……」


 カナちゃんはいつだってかいがいしい。

 頬を赤らめてそんなふうに言われたら、なんだかとても嬉しい気分になってくる。


「ありがとう、ごちそうになるよ。あ、だけどトーマ――」

「リアンヌ様と八草様ですね。すぐに呼んでまいります」


「う、うん、そうなんだけど……。トーマは僕の考えていることなんて、なんでもお見通しなんだね」

「日常的なことに限れば、ですが」


 トーマは急ぎ足で政務室を出ると、慌ただしく階段を駆け下りてエントランスホールを出ていった。

 それから厩舎に飛び込んで自分の馬で出て行ったことくらい、いななきと蹄鉄の音だけでもわかった。


「ごめんね、リアンヌたちが戻るまで、2人とも少しこっちを手伝ってくれる?」

「う、うちにできることなら……」


「大丈夫。さ、こっちだよ」

「は、はい……」


 カナちゃんの手を引いて、決済済みの書類の前に誘導した。

 書類を1枚ずつ油紙で巻いてから、封筒に入れて、蜜蝋をたらしてアリク王子の印を押す作業をお願いした。


「ターニャさんは完成した手紙を地域ごとに仕分けしてくれる?」

「かしこまりました、アリク様」


「助かるよ」


 俺の仕事は書類の制作と筆記だ。

 誰かに任せるより自分でやった方が早いし、間違いがない。


 昔の偉い人は『役所は書類でできた城』だって言ってたけど、俺もその通りだと思う。

 何をするにも書類書類書類。人とお金と物資がまつわるところには、書類仕事という厄介な呪いがかかっている。


 文官任せにできる仕事もあるんだけど、残念ながら現在は空前の文官不足。

 それに人に任せるよりも自分でやってしまった方が、人件費もかからないし、汚職や情報漏洩の心配もなかった。


 書類仕事が終われば俺も暇になる。

 そしたらリアンヌと八草さんと一緒に、俺も一緒にガテン系になってみるのも悪くない。

 その時を楽しみに書類仕事をがんばってゆくと、思ったよりも早くエントランスホールが騒がしくなった。


 間違いない、リアンヌだ。

 その足音は木造の階段を踏み抜きそうなほどの大きな物音で、常人並外れた4段飛ばしの尋常ならざる脚力でこの2階に駆け上がってきた。


「おかえり、リアンヌ」

「ただい――えーっ、なんで私だってわかったのーっ!?」


 リアンヌがこの政務室に飛び込んだ瞬間に、俺はペンを滑らせながら彼女を声だけで歓迎した。


「誰だってわかるよ。君は階段の足音が大きい上に、奇妙なほどに少なすぎるんだ」

「凄いっ、名探偵みたい!」


「だったら君は、力業でトリックを実現させる名探偵泣かせの真犯人かもね」


 下の階からトーマと八草さんの声がすると、俺たちは食堂へと下りた。

 そこで八草さんは娘手作りの昼食をニコニコの笑顔で平らげた。


 俺も政務で疲れた頭と肩を癒しながら、みんな一緒の幸せな食卓を楽しんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ