・アーチ橋を架けてここを交通の要所にしよう - 僕は普通じゃない転生者? -
予想以上に人と物資が順調に集まってくれたので、予定を早めてその日から橋の建設工事に入った。
といっても、さすがに石造りのアーチ橋が1日やそこらで建つはずもない。
場合によっては途中で予算が尽きて、工事が中断される可能性すらあった。
「なんでさー」
「ん、急に何、リアンヌ?」
俺は俺で裏方の仕事、政務ってやつがあったんだけど、どうしても居ても立ってもいられなくて、今はリアンヌと工事を見にきていた。
「アリクって、なんで橋の作り方まで知ってんの……?」
「ああ、そんなこと? そんなの簡単だよ、実はあんまり知らないんだ」
「嘘臭ーっ! アリクが知らないわけないじゃん!」
「なんか君の主張がいきなり矛盾しているような気がするけど……でも、本当に詳しくは知らないんだ」
リアンヌは俺の返答を信じなかった。
アリクならきっと上手くやるって疑ってすらいない。
「実は本で読んだんだ。この世界の、橋建設についての技術書をね。そこに僕が知ってる現代知識を加えた物が、これから架ける橋の設計図になる」
「はいはい、普通の転生者はそんなことできないから。アリクのやってる知識チートは、アリクが普通じゃないからできるの」
小声でリアンヌはそう返し、現在土台工事中の建設予定地を見回した。
「岸、だいぶ遠いよね……?」
「測ったもらったけど、向こう岸まで73mあるみたい」
「73mって……50m走の1.5倍じゃんっ!」
「正確には土台部分も加わるから、橋の全長はさらに広がるよ」
「ええっ、ヤバ……ッ?!」
本当にそんな大きな橋を架けられるの?
リアンヌにそういう顔をされた。残念だけどそれは俺にもわからない。
もしも失敗すれば、この橋は国家を傾かせる巨大な不良債権となる。
「見ての通り、今は土地の整地をお願いしている。まずは左右の岸を盤石にするんだ」
「へー、なんでー?」
少しもかみ砕こうともせずにリアンヌはそう聞き返した。
「これはアーチ構造の橋なんだ。この場所と対岸のあの場所には、橋の全重量がかかることになる。土台が崩れたら橋が傾くんだよ」
「ただの元大学生がなんでそんなこと知ってるし」
「少し考えればわかることだよ」
「少し……? アリクってさ、ナチュラルにマウント取ってくるところあるよね……」
そう言われてしまった。
なまじ瞬間記憶スキルの恩恵で頭の回転や切り替えが速い分、こうなってしまうのかもしれない。
「あれ、あれって八草さんっ? 何やってんの、あの人っ!?」
リアンヌの大きな声でそう叫ばれては、現場で指揮をする八草さんもこっちにやってこないわけにはいかなかった。
「よう、お嬢ちゃん。何やってるも何も、こっちは無理難題やらされてるところだっての」
今日の八草さんはシャツ一枚に長ズボンに、額に手ぬぐいを巻いた労働者モードの八草さんだ。
「どういうこと? アリクの護衛は?」
「僕が頼んだんだ。橋建設の指揮を任せられるのは、八草さんしかいないって」
「は、マジ無理難題じゃん!? 八草さん、ケンゴーだよ、ケンゴー! 才能のムダづかいじゃん!」
「剣豪は言い過ぎだが、まあ、通常の業務じゃねえことだけは確かだ……」
でも向いているんだから仕方がないじゃないか。
八草さんが渋い顔で俺を見ようとも、この配役を変える気は俺になかった。
やらかしが多くてすみません。
これからもどうか本作をご愛顧ください。