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・1年ぶりのグリンリバーにて - エクストリーム人力車 -

 アイギュストスからグリンリバーに向かうには、最短距離に当たる山を迂回して、曲がりくねる山道を抜けなければならない。


 このせいで二つの領地は隣接しているのに、決して近いとは言い切れない位置関係となっている。


「だから僕はあの山に、グリンリバーとアイギュストスを繋ぐ道を造りたいんだ。これから架ける大橋とその道が繋がれば、アイギュストスも貿易港としてさらに発展する」


 グリンリバーに向かう道中、俺はみんなにそのことを語った。

 人力車の動力となって、俺とカナちゃんを引いてくれるリアンヌにも。


「アリクって、そういうところは男の子だね!」

「頭のてっぺんから足の先まで全部僕は男だよっ!」


「でも私たちの領地のことまで考えてくれるなんて、やっぱアリクはいいやつ! ついてきてよかったーっ!」


 今回の計画にリアンヌという不確定要素は計算に入れていなかった。

 だけど今朝、彼女は父親を説得してグリンリバーでのバカンスに出ることになった。


 グリンリバーでアリク王子と過ごしたいと彼女がわがままを言うと、大公様が即決で了承してくれていた、とも言う。


「ところでリアンヌ、そろそろ交代――」

「やだ! これ楽しいからアリクにはさせてあげない!」

「お、おそれおおい……です……っ」


 護衛のトーマと近衛兵さんたちが俺たちのやり取りに聞き耳を立てて微笑んでいた。

 生前の人生がどうであろうと、今の俺たちはアリク王子とリアンヌ公女だ。


 俺たちはこうして皆に愛され、成長を期待されて、沢山の人たちの手で育まれている。

 こんな温かい目で見てもらえるだなんて、俺とリアンヌは恵まれている。


「とーちゃくっ!」


 リアンヌの引く人力車は登り坂なんて物ともせずにぐいぐいと進んで、やがて山道の頂上に導いた。

 そして俺はその先に見た。


 黒煙を上げる製鉄所と、鉄材と木材に恵まれたことで大地に強く根付いた工業地帯を。

 近隣の山々は樹木が切り倒されハゲ山――もとい、草だけのボウズ山となり、砂鉄が得られる辺りでは露天掘りにより山がえぐれていた。


「植林をさせないと……。このままだと土砂崩れが心配だ……」


 そうだ、それよりも今はカナちゃんにこの情景を教えてあげないと。

 そう思いながら町並みを見下ろして言葉を探した。


「あのねっ、木がなくなっちゃった! でもお花とかいっぱい咲いてて凄く綺麗! あとあとっ、なんか工場とか超増えてっ、製材所もおっきくなっちゃってる!」

「わぁ……そうなんだ……」


 結局、言葉を選んでいるうちにリアンヌに先を越されてしまっったけどね……。


「あとあと、馬車とか荷車も増えてる! 家もいっぱい! 1年前の倍くらいいるんじゃないかなー!」


 カナちゃんは赤い布に覆われたその目で、想像力の翼を広げて微笑んでいた。


「においがします……。少しけむたいような……ふしぎなにおいの町……」

「それは製鉄所の木炭の匂いだよ」


 確かにちょっと煙い。

 電化を急がないと、このままだと公害や災害が起きかねない。


 やっぱり報告任せになんかしないで、自分の目で見ることが大事だ。

 橋の建設と平行させて、対策をさせないと……。


「さて……では2人とも、覚悟とかはおっけー?」

「え……かくご、ですか……?」

「ちょ、ちょっと、リアンヌ……? ま、さ、か、君……っっ」


「ごめんっ、なんかもうテンション上がって止まんないっ! 屋敷まで直行するねっ!!」

「ひ……っっ?!」


 その悲鳴はカナちゃんのものではない。

 無意識に漏れた俺の悲鳴だった。

 盲目のカナちゃんは涼しい顔で、坂道を駆け下る人力車の中で吹き付ける強風を受け止めていた。


「落ちるっ、落ちるよリアンヌッッ!!」

「とうっっ、ドリフト走行ッッ!!」


 走るというより、重力の上を滑るように俺たちは落っこちていって、彼方にポツンと見える懐かしい領主邸まで、何がなんだかわからないうちに運ばれていった……。


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