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・謹慎解除、リアンヌのいるアイギュストスへ - 一年ぶりの僕の塩田 -

 水運をやや阻害する古くて大きな橋を越え、グリンリバーに繋がる南の道を右手に横切って、リアンヌが俺たちを待つアイギュストス領内に入った。


 その道中、たくさんの馬車とすれ違うことになった。

 近隣の農村からやってきた露天商が、通りで野菜や果実を売っていたり、それが道の分岐点では小さな市ができていた。


 一年前まではあり得なかった光景だ。

 俺は自分が開拓した土地の発展を肌で感じながら、車両が行き交う幹線道を領内を進んだ。


 そしてリアンヌが暮らすあの町までやってくると、息を呑んで驚くことになった。

 だってたった一年で、町が一回りも二回りも大きくなっていたのだから!


「港の方はもっと大きくなっています。殿下が離宮から、地道に助言をされてきたその成果でしょう。ああっ、さすがは我が君です……っ」

「がんばったのは実際に働いたみんなだよ。現場の人たちがいなければ、何も動かないんだから」


 大げさに褒めてくれるとトーマにそう返して、俺はさらに強く大地を蹴った。

 席でカナちゃんが小さな悲鳴を上げたけど、ごめん、今は少しでも早く会いたい!


「殿下っ、そんなに急がなくともリアンヌ様は逃げませんよっ!」

「あの子の場合、そうとは限らないから困るんだ! 先に行ってるねっ!」


 俺は通りを爆走して、リアンヌの暮らすお屋敷に突っ込んだ!


「リアンヌ様が……うらやましい……」


 昨日会ったばかりだけど、1秒でも早くまた会いたかった!

 だって、このお屋敷でリアンヌと遊ぶ一時は俺にとって特別だったから!


 お屋敷の門衛さんは、突然突っ込んできた人力車と王子の姿に声を上げて驚いていた。



 ・



 幸いリアンヌは屋敷で俺を待っていてくれた。


「あははっ、絶対今日くると思ってた! おやつ食べたら一緒に塩田に行こっ、あの人力車、私が引いたげる!」


 お茶と言わずおやつと言うところがリアンヌらしかった。

 彼女は塩田を見に行きたい俺の気持ちをすぐに見抜いてくれて、大公様を交えたお茶会の後に、俺たち2人だけで海辺に行くことになった。


「カナも一緒にきたらよかったのに!」

「気を使ってくれたみたいだね……」


「そんなのいらないのに! あの子もさー、八草おじさんとおんなじで、損な性格してるよねー……」

「でもだからこそ信頼できる。帰ったらカナちゃんと一緒に遊ぼうね、リアンヌ」


 そう俺が言葉を返すと、人力車で俺を引いて爆走するリアンヌがちらりこちらをいぶかしむように見た。


「アリクって……」

「え、何?」


「時々……年上なんだか年下なんだかわかんない! なんでそんなに頭イイのに、こんな簡単なことすらわかんないの?」

「……主語がないよ。何が?」


「もっと幸せにしてあげなよっ!」

「だから主語がないってば……。あっ!?」


 町を出て、彼方に広がる塩田が目に入ると、その話題はうやむやになった。

 アイギュストスのカラッとした乾いた日差しの下に、薄緑色に輝くプールがいくつも見える。


「どやっ! お父様と近隣の領主さんと一緒に、がんばっちゃったんだから!」

「すごい……こんなに大きいなんて、知らなかった……」


「あれの図面を引いたのはアリクでしょ?」

「そんなの関係ないよっ! 人間の力って、凄いんだな……」


 塩田を築ける土地にあらかた使い尽くした後は、少し造成をがんばれば塩田が作れる土地に手を出した。


 少し高くなっていた砂浜や、岩場となっていた場所が新たに拓かれ、均されて、そこに緑のプールと水門が築かれていた。


 付近には製塩を行う作業場と小さな倉庫が作られていて、大倉庫と繋がる道に人が引く荷車が走っている。


 大倉庫から街道に繋がる道も、見違えるほどに整備されていて、産業の流通網、サプライチェーンが目に見える形となって現れていた。


 おまけにあの遠く彼方に見えるアイギュストス港の大きいとこ!

 下手をしたらあの発展は、リアンヌたちが暮らす町を超えるほどの規模にすら見える!


「これ、ぜーーんぶっ、アリクがやったんだよ!」

「違う、現場の人が――」


「それはそうだけどっ、アリクががんばったからこうなったんだってば! みんな言ってるよっ、アリクに足向けて寝れないって!」


 塩田の開発を始めたのは、ざっくりで今から2年くらい前だろうか。

 たった2年で町がこんなに発展するだなんて、人間のたくましさに驚かずにはいられない。


 それにやっとわかった。

 王宮で遠巻きに俺を囲むあの欲望の瞳や、広場でのあのお祭り騒ぎの実体がやっとわかった。


「あ、コッホさんだ」

「お……おお、アリクくん……。しばらく見ないうちに、大きくなったなぁ……」

「おおっ、発明殿下じゃねぇですか!」


 元サザンクロスギルドのトイレの主コッホさんと、塩田開発の現場指揮をしてくれた親方さんとも会えた。


 俺はずっと見たかった塩田と、町の発展をその目に収めて、リアンヌと明るく語らいながら道を引き返していった。

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