・転生者リアンヌと森に行こう
翌日、昼食を終えると本当にリアンヌは森へと王子を連れて行った。
本当にそこには小さなスライムがいて、俺たちは木陰から相手をうかがうことになった。
「前衛はお姉ちゃんの私がやるから、アリクは弓をお願い」
「本気で狩るの……?」
「だって私もチートスキル欲しいもん」
【女傑】スキルは筋力&敏捷性を200%に補正するスキルだった。
十分すぎるほどチートだと言ってやりたいところだったけど、言ったら言ったで調子に乗りそうだ。
転生前の人格が女子高生だったのもあって、彼女は無邪気で前向きだった。
「じゃ、行くよ、王子様!」
「本気なの、公女様……? あ」
ドレスをまとう8歳の大公令嬢が、木剣を片手にスライムへと飛び込んだ。
俺は慣れない弓を引き、こちらに気付いたスライムへと先制攻撃を入れた。
「ナイスッ、王子!」
「あ、当たった……」
ショートボウの矢はスライムを貫いた。
矢に動きを封じられたスライムに、リアンヌが木剣を叩き付けた。
「やった、やっつけた! スキルスキルッ、スキルを早く抜き取って!」
「あ、うん」
じきにスライムは消滅する。
その前にスライムのスキルウィンドウを開いて、そこにあった固有スキル【物理耐性◎】を盗み取った。
本当に抜き取れてしまった……。
「【物理耐性◎】!? それってだいたいのゲームで神スキルなやつじゃない!?」
それからそれをすぐにリアンヌのスロットに移してあげた。
「キターーッッ、私の時代が、くるっくるっくるっ、くるくるぅーっっ!!」
「大公様が今の姿を見たら泣くかもね……」
「じゃ、その剣で私を殴って!」
「出来ないよ、そんなこと」
「じゃあ、えーっと、よし、頭突き!!」
見た目は可憐なお姫様なのに、リアンヌが目の前のセイヨウモズの木に頭突きを入れていた。
痛そうに見えたけど、彼女はケロッとした顔で、続けて楽しそうにケラケラと笑った。
「やっばっっ、マジやっばいよこれっ! 私、新世界の神になれるかも!!」
「痛くないの?」
「全然! ほらほらっ!」
リアンヌの頭突き5連発!
ミス。セイヨウモズの木はリアンヌにダメージを与えられない!
相手は子供でも倒せる雑魚スライムなのに、スキルは超優秀だった。
「それ、俺も欲しいな……。母上にもおみやげに持って行きたい」
「じゃ、もっとスライム探そ! マジで来てるよ、私たちの時代!」
スライムを探して、また見つけるとさっきと同じ手口でやっつけた。
【物理耐性◎】スキルを抜き取り、自分の物にした。
もちろん、続けて母上の分も確保した。
「どうしたの、アリク?」
「これ、ありだね……」
「ありも大ありだよっ!」
「リアンヌお姉ちゃん、その木剣で俺を力いっぱい殴ってみて」
「え。さすがにそれはちょっと、痛いと思うけど……」
「実験してみたいんだ。お願い」
お姉ちゃんは迷った。
けどテンションが上がっていたのか、明るく笑ってから、迷い迷いに剣を俺の頭に叩き付けた。
俺の思った通りになった。
【物理耐性◎】は、複数を所持しても重複で効果が現れる。
「やっぱりだ。【物理耐性◎】スキルは、2つ持てばその分だけ効果が出るみたいだ」
仮にダメージ9割カットなら、2つで9割9分カットになるのだろうか。
「ヤバいね、それってもうゲームバランス崩壊してるじゃん……!」
「ゲームっぽいけどゲームじゃないんだと思う。だからバランスとか、そういうのはないんじゃない? バランスっていうのは、ゲームの都合なんだから」
「ふーん! それよりスライム探そう! もっとスキルを取ろうよ!」
「いやこれ以上、森に深入りするのはどうかと思う」
「ずるいよ、自分だけ! もう1匹だけ狩ろうよ!」
そう言うのでもう少しだけ進んだ。
スライムを1匹見つけて、倒して、彼女にも【物理耐性◎】の2つ目をスキルスロットに移した。
「あ、熊さんだ……」
「熊……? く、熊ぁっっ?!」
だが俺たちは引き際を間違えたようだ。
飢えた熊が、いきなりにこちらに突進して来た。
乗用車並みの超スピードから、熊ブローが少年の顔面を狙った。
「痛……。さすがに少しだけ痛い……」
「お、おお……2つ付けると、熊さんのガチパンチも平気になっちゃうんだーっ!」
熊は当惑した。
首が吹き飛ぶほどのクリーンヒットを入れたのに、その餌はピクリともしなかった。
「あ、でも問題ありあり! その熊、どうやって私たちの攻撃力でやっつければいいの? あ、痛た……」
熊はリアンヌを狙った。
熊パンチはリアンヌにもほぼ無効だった。
この状況で、俺が出来ることと言ったら……。
熊からスキルを抜き取るくらいだろうか。
少しは弱体化出来るかなと思い、実際に抜き取ってみた。
俺は自分のスロットに、奪った【動物特効◎】をセットした。
「えい!」
コツンと木剣を振ると、熊さんともあろう者が悲鳴を上げて怯んだ。
さらに迫り寄って、もう1回コツンと当てると、熊は目を回してひっくり返った。
6歳児は、熊を木剣2発で退治していた。
「いいなぁ……それ、いいなぁ……」
「俺は別に冒険者になるつもりないし、王宮暮らしだからモンスターと縁もない」
「じゃ、じゃあっ!」
「よかったらリアンヌの【物理耐性◎】と入れ替える?」
「欲しい! それがあったら私、この森の覇者になれるっ!!」
「なられても、大公様が泣くだけだと思うけど……」
欲しいと言うので交換してあげた。
母上の空きスロットに【物理耐性◎】が欲しかったから、悪くない取引だ。
王族としては、【毒耐性◎】なんかもあったらぜひ欲しい。
「次は熊じゃ済まないかもしれない。帰ろうよ」
「私は満足だけど、アリクはいいの?」
「母上をあまり心配させたくない」
「じゃ、帰ろ! 今日はありがとうアリク! 私、立派な冒険者になるね!」
このことで大公様に恨まれたらどうしよう……。
だけどもう後の祭りだった。
俺たちは屋敷へと引き返していった。
「アリク様、リアンヌ様、なぜこのような森に……?」
道中、森の中でジェイナスと遭遇した。
子供の脱走は親たちにもうバレていた。
普段あれだけやさしいジェイナスの目が、その時だけは笑っていなかった。
弁解しても、顔色一つ変えなかった。
ジェイナスはやさしいけど敵には苛烈だ。
怒ると凄く恐い……。
「ジェイナス、ぼくがさそったことに、してくれない……?」
「え、なんでっ!? だって私が――」
「事情はわかりませんが、それが無難でしょう。お説教からは、かばってあげられませんが」
リアンヌのせいだけど、今日はそれ以上に大きな成果があった。
俺はリアンヌに感謝の笑顔を送った。
それから屋敷に連れ戻されて、母上の大目玉を食らった。
リアンヌも大公様にこっぴどく叱られて、さすがに半泣きになっていた。
だけど……。
「へへへ、アリク。また冒険しようね!」
「懲りてないんだね……」
「だって、せっかく転生したんだからファンタジーを満喫しないともったいないよ!」
「うん、それはまあ、そうかも」
一理あった。
俺はリアンヌに再会を約束して、不機嫌気味の母に連れられて王都へと引き返して行った。
もしよろしければ、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。