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・プロローグ 略称C.CとA.Cの気まぐれ 1/3

 城の本を全て読破してしまうと、城下や近隣の町の図書館から新しい本を取り寄せてもらうことになった。


 それら外の世界の本は世俗的な物や、厳密には本とは呼べないような粗末な冊子によるパルプフィクションも多く含み、この世界の文化をより深く知る意味でもとても興味深い物だった。


 それでここから先が本題なのだけど、その本や冊子の裏表紙には、現代で言うところの図書カードが取り付けられている。


 俺はある日そこに、『C.C』という名の署名が頻出していることに気付くことになった。

 このC.Cさんはとてつもない読書家だった。

 というのも今日まで取り寄せた本の、実に2割にこの署名が記されていたのだ。


 そして城の外に出られず暇を持て余していた少年王子が、そのC.Cさんに興味を持たないはずがなかった。


 いったいどんな人なのだろうと想像の翼を膨らませて、俺はC.Cついての分析を暇つぶしにしていった。


 読書傾向から分析したC.Cさんの特徴は活字中毒だ。文芸よりも実用書、特に理系や工学の本を好む傾向がある。


 そこからうかがえる人物像は、俺の勝手な想像だけど知識欲の強い研究者肌の男性。

 男性が好むようなちょっとエッチな本も借りていて、そこから人間味を感じた。


 ちなみに俺もそのエッチなやつを読んだけど、まだ9歳半の体ではピンとこない。

 この肉体に転生してからというものの、毎日が賢者モードだった。


 ごめん、話が飛んだね。

 まあそういったわけで俺はある日、ちょうど離宮の居間にやってきたジェイナスに声をかけた。


 俺の勝手なうぬぼれでなければ、ジェイナスは退屈しているアリク王子のために、こうしてしばしば様子を見にきてくれる。

 俺から見ればジェイナスは、やさしい親戚のお兄さんみたいなものだった。


「ジェイナス、たまにはわがままを言ってもいいかな……?」

「は、なんでございましょう。このジェイナスに可能なことならば、なんなりと仰せを」


「この人なんだけど、どんな人なのか知りたいんだ」


 事前に束ねておいた図書カードを彼の白く細い手に渡した。

 ジェイナスは図書カードをめくってゆき、すぐにそこに共通点を見つけてくれた。


「これは、相当の暇人ですね……」

「うん、僕もそう思う。暇人の僕が言うんだから間違いないよ」


「ご覧下さい、この貸し出し日時を。実際に読んでいるかはわかりませんが、とんでもないペースで本を借りているのは確かなようです」


 ジェイナスもC.Cさんに興味を持ってくれた。

 端正な顎に手を置いて、興味深い様子で図書カードに記された本のタイトルに目を通している。


「たぶんだけど、この人全部読んでいると思う。……そこでなんだけど、このC.Cさんを城の書庫に入れるようにしてあげられないかな?」


 そう僕がお願いすると、ジェイナスはセキュリティ面の問題を感じたのか、怪訝そうにアリク王子を見た。


「それはなぜ?」

「きっと不満に思っているはずだよ。権力を使って、毎回200冊も300冊も借りてゆくアリク王子に、きっと文句の1つくらいあるはずだ」


「だから彼に城の書庫を解放すると?」

「決めるのは彼の素性を調べた後でもいい。……というかね、ジェイナス。本音を言うと、僕はね……」


「退屈なのですね」

「うん……! あはは、ジェイナスはいつもお見通しだね。そうっ、僕は暇なんだ、それも凄くっ!」


 ジェイナスは鋭い刃のような人だけど、アリク王子にだけはとても甘い。

 やさしく微笑んで、仰々しいあのお辞儀をして、かしこまりましたアリク殿下と言ってくれた。


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