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・後日譚 - アンタただ一人 -

「アリク・カナンの御成!!」


 リアンヌと婚約を結んだ日にも使ったあの社交場にて、俺は諸侯からの喝采の嵐を受け、下心多めのおべんちゃらで祝われた。


 それを前にして俺は実感した。

 彼らはアリク王子こそが勝ち馬と見て、これまでの庶子の王子を見るものとは、まるで別の目をするようになっている、と。


 歳を重ねるに連れ、俺はただの少年ではいられなくなってゆくだろう。

 この時代の水準を上回る知識と、人の才能を操り、ほぼ無限に成長させる力を持っているのだから。


 そんな人間は期待され、すり寄られる一方で恐れられる。強い影響力を持つということは、そういうことだ。


 今は味方でいてくれる国内外諸侯たちの前で、俺はリアンヌと手を取り合って、アイギュストス大公とカナン王の前で短いスピーチを述べた。


 僕の誕生会にきてくれてありがとう。

 これからもリアンヌ共々よろしくお願いします。

 その程度の月並みなスピーチだ。


 そんなつまらないスピーチを、会場の諸侯は拍手喝采で賞賛してくれた。

 彼らは口々にアリク王子を褒め称える私語を会場に広げ、俺に困惑多めの優越感を味わわせた。


 これが権力の味。やはり、俺にはちょっと合わないような気がしてならない。


 だけどそれを承知の上で、求められるがままに人々を導くのが王族の正しい姿なのだろうか。いや、よくわからない。


「カナン王国に栄光あれ! 共に栄えて参りましょう!」


 でっぷり太ったあの外交官さんと、痩せた外交官が示し合わせたようにそう叫ぶと、会場の諸侯が次々とブドウ酒の杯を掲げて復唱した。


 喝采と賞賛の嵐がアリク王子を再び取り囲み、俺は頼れる早熟の王子を再度演じることになった。

 権力と勝利がもたらすこの美酒に、飲み込まれかかる自分を自制しながら。


 かくしてアリク王子は、10歳を迎える日まで城での謹慎令を忠実に守り、精神部分はわからないけど、肉体的に頼もしくなったという。



 ・



その日の夜更け、人払い中の政務室にて――


「父上、俺は少し肩の荷が軽くなったような気分だ」

「ほう、それはアリクの件か?」


「ああ。もしも俺が不慮の事故で死んでも、次の皇太子があの子だったらと思うと、まるで世界が変わったかのように気が楽になった……」

「ふむ……。アリクは確かに優秀だが、あれはリドリーに似て、王族には向かぬ善良さがある。清濁併せ呑むお前の代わりには到底なるまい」


「それも誰かが補佐をすればいいだけのことだ」

「……ギルベルド、縁起の悪いことをこれ以上言うな。それよりも、首尾は?」


「ああ、今回、裏でウェルカヌス側に同調していた諸侯の調査か? ありったけの証拠を収集してある。いつでも粛正、あるいは説伏が可能だ」

「ご苦労。すぐにこちらの調査結果と照らし合わせ、裏の仕事を我らで片付けるとよう。アリクとリドリーに感づかれて、食卓で引かれる前にな……」


「同感だ、父上。話は聞いていたな、八草。今回も頼りにしているぞ」

「へい、喜んで」


「アリクにお前を返さなければならない日がくると思うと、俺は惜しいぞ、八草」

「すいやせんねぇ、王太子殿下……ですがね」



「アリク殿下の喜びがカナの喜び。俺は、アリク殿下のお言葉にただ従うのみでさ」



 俺ぁ一生、アンタに付いていきやすぜ、殿下……。


 アンタだけが、俺たちに手を差し伸べてくれた。

 幸せへの片道切符を、アンタは自らを犠牲にして俺とカナに差し出してくれた。


 俺たちを助けてくれたのはアンタだけだ。アンタただ一人だけなんだ。



 アンタ以外に、俺とカナの主君はいねぇ。

 9歳のお誕生日、おめでとうございやす、殿下。殿下の成長が俺ぁ楽しみでさ……!



―― 二章 塩と鉄と人の業 終わり ――

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