・ただいま - 小さな巨人 -
その翌々日、離宮にもある父上の書斎から父とジェイナスの声が漏れてきた。
「ジェイナス、我はどうすればいい……っ。まったく、我の息子たちときたら、ギルベルドもアリクも手に負えん……っ!」
それはアリク王子についての愚痴だった。
「ウェルカヌスの議長、ステリオスから才能を盗り、凡人に変えてくれたのは、助かるどころではない素晴らしい大金星なのですがね……」
「うむ、あれが我の息子でなかったら、『見事だ若き英雄よ』と褒め称えていた……。だが、あの蛮勇を、親として褒めるわけにいくものかっ!」
父上とジェイナスが見たら怒るだろうけど、俺はこれを聞いて得意げに笑ってしまった。
父上たちのために最高の盤面を用意したと、今だってそう疑っていなかったから。
「あれが正しいことだと、そう学習されては困りますからね……」
「ああ、それこそ悪夢だ……」
「まあ私としては殿下の成長を阻害する謹慎処分など、すぐに解除して差し上げたいところなのですが……」
ジェイナスのその言葉に息を潜めて期待した。
「ああ、あの才能をここで勉学や鍛錬に費やすだけというのも惜しい……。だが、あの子には謹慎が必要だ……」
父上も同感みたいだったけど、やっぱりダメっぽかった。
「一年も謹慎させれば、さしもの殿下も身を持って知るでしょう。身勝手の代償の重さを」
「どうだろうな……」
「ええ、まあ、どうでしょうね……」
「そなたは気づいたか、ジェイナス? 謹慎を命じたとき、あの子は確かに、笑っていたぞ……?」
「ギルベルド殿下の話によると、成人するまで城に閉じ込められる覚悟だったようですね」
その話は父上に伝わっていなかったようだ。
父上は聞くなり、重く深く長いため息を吐き出した。
「我はな、ジェイナス……。8歳の息子に、そこまでの男らしさは望んでおらんっ!」
「同感です、陛下……」
忙しない日々を過ごしてきた反動か、離宮での生活に俺は今満足している。
グリンリバーの製鉄所やアイギュストスの塩田を見に行けないのが辛いけど、リアンヌとのテーブルトークPRG風の文通が意外と楽しくなりそうだ。
それに知恵をさらに高め、この身体を成長させたい気持ちも大きかった。
「ジェイナス、我はどうすればいい……」
「アリク殿下のああいったところは、天才ゆえのものでございましょう」
「うむ……」
「私たちにとっては困難に見える物事も、殿下の視点から見ると、シンプルに見えるのかもしれません。殿下からすれば、私たちは平面の上を四苦八苦するアリにでも見えるのでしょう」
「我が子は小さな巨人というわけか……はぁぁ……っ」
「私の私見にございます」
何も聞かなかったことにして書斎の前を離れた。
城壁から城下町を眺めて、カナちゃんに町の出来事を実況してあげると約束している。
それに父上と母上をこれ以上怒らせないためにも、反省しているふりを続けなければならなかった。
後日談の後にこの章は完結となります。
続きのプロットでは、ヤクサとカナちゃんの出番を増やしています。
またこの先どこかしらのタイミングで、投稿のペースを落とすかもしれません。
それくらい投稿ストックがスケジュールがかつかつです・・・。