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・鉄と塩と人の業 - アリク王子と盲目のカナ -

「決して裏切らない、どんな状況でも勝利を収めてくれる最強にして仁義の男。どれだけの権力者が、ヤクサさんのような存在を望んだだろうね」

「ありがてぇ、そりゃ家臣にしてくれるって解釈で、いいんですよね……?」


「もちろん。この計画はヤクサさんを手に入れることも、僕の計画の内だったんだから」

「へへへ、嬉しいでさ……アリク様には、かなわねぇ……。本当によ、本当に俺たちゃ、アンタのご慈悲に感謝してんだ……」


 ヤクサさんは立ち上がり、腰に剣を戻して今度は父親の顔に戻った。

 カナちゃんの無事が気になりだしたようだった。


「ステリオスはヤクサさんの剣以上に、その熱い仁義に惚れていたんだと思う」

「アイツが……? うっげ……っ」


「だからカナちゃんを使って縛り付けた。この時代の権力者にとって、ヤクサさんのような存在は本当に貴重なんだ」

「よしてくだせぇ、気持ち悪ぃ……」


「それについては心から同感。気持ち悪いあの手に、二の腕まで撫で回されたよ……」


 俺たちはカナちゃんの待つ洞穴に進んだ。

 すると超感覚の持ち主と呼ばれる女の子は、ひょっこりとそこから顔を出して、デコボコの地面を物ともせずに跳ねながらやってきた。


 赤い絹で目を隠しているのに、まるで見えているかのような身のこなしだった。


「アリク様……」

「あっちじゃ落ち着いて話せなかったね。あらためまして、僕アリクです」


「カナ・コマツです……」


 え、小松さんっ!?

 やっぱりこの人たちって日本人……の、末裔か何かなのかな……。


 カナちゃんは赤い絹の目隠しを外して、白く濁った瞳で俺を見た。


「お身体と、お顔に、触れてもよろしいですか……?」

「いいよ」


 カナちゃんは俺の肩に触れて、頭の天辺に手を置くと親近感の微笑みを浮かべた。

 それから汗でべたべたしてた顔を、こっちがかなり呼吸しにくいくらいに熱心に触れる。


「ぁ……」


 それから何かあったのか、急に顔を真っ赤にさせた。


「どうしたの?」

「い、いえ……ただ……。綺麗な、お顔と、思いました……」


「ありがとう。カナちゃんも凄く綺麗だ」

「ぁ……っっ、ぇ……っ、は、はい……」

「へへへっ、良かったな、カナ」


「はい……っ。アリク様に、褒められました……」


 えっと……ん……?

 どうもうよくわからないけど、俺はカナちゃんにかなり好かれているようだった。

 その事実にホッとした。


「アリク様……おとうさんともども、うちはあなたに一生をかけておつかえいたします……。全てをささげて、おとうさんと一緒にいられるこのご恩を、お返しします……」

「とうちゃんが漢と認めた漢だ。お前がそうしたいなら、そうしな……。はぁぁ…………っ、まあ、そうなるよなぁ……」


 父、ヤクサ・コマツがそうであるように。

 娘、カナ・コマツまた義に厚い女の子だった。


 それと勘違いでなかったら、僕は僕が思う以上にカナちゃんに好かれている……ようにも感じてしまった。


「え、あの……カナちゃん……? えっと、僕には……あ、いや、やっぱりなんでもない……」

「アリク様、アリク様におつかえできて、こうえいです……」


 ターニャさんには言えたあの言葉、『僕にはリアンヌがいるから』が喉から出てこなかった。

 だって……盲目の幸薄娘相手に、そんなこと言えるわけないじゃないか……。


 それにむしろ僕はこの不思議な女の子カナちゃんに、楽しいことや美味しい物をたくさん教えてあげたかった。



 ・



 翌日の昼、とても良い物が手に入った。

 それは馬に頼らない旧時代のタクシー、人力車だ。


「よかったな、カナ。けどあんまアリク様を困らせんじゃぁねぇぞ」

「おとうさんは……?」


「とーちゃんの望みは、アリク様の少しでも早い帰国と、お前の身の安全だ」


 カナちゃんを人力車に乗せて、俺はそれを引いて母国に向かって走る。

 【ダッシュ】スキルのある今のスキル構成なら、これが早馬よりも早い交通手段だった。


 ヤクサさんは攪乱と囮役だ。

 俺はヤクサさんのスキル【剣鬼】の隣にあった【空白】に、【自己再生・大】を譲った。


 状況に合わせて才能を与えたり、入れ替えたりするこの力は、どんな事態にも対応できる汎用性がある。


「父上と母上に、先にカナちゃんを会わせる。そして同情させたところで、遅れてヤクサさんが登場ってわけだよ」


 打算込みの方便に、ヤクサさんは渋い顔、カナちゃんは納得の顔を浮かべた。


「わかった。おとうさんの代わりに、いっぱい、アリク様のおとうさんとおかあさんに、あやまっておくね」

「お、おう……。とうちゃんの出番、残しといてくれな……?」


 さあ行こう。

 カナちゃんの乗った人力車のハンドルを握ると、もう片手でヤクサさんと手を重ね合った。


「カナを頼む……」

「そっちは追っ手をお願い。傷が簡単に治るからって、引き際を間違えちゃダメだよ?」


「そりゃこっちのセリフだ。アリク様は自分が思ってるよかイノシシ武者だ。無茶しねぇで下せぇよ……?」

「肝に銘じておくよ」


 俺とカナちゃんはヤクサさんと別れを告げて、走る馬をも颯爽と追い越す超特急で、カナンへの遠いわりにやけに短い帰路についた。


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