Ural region Russia / Dec 8th 19:18(Local Time)-7
ドッジは正面玄関に続く通路にいた。
ズボンのポケットに手を突っ込み、飾ってある絵画や調度品を鑑賞しながら歩いている。廊下がT字に交差したところに飾り卓があり、一点の壺がライトを受けて光っている。
ドッジはそれを眺めるふりをして近づくと、そっとポケットからスーツの予備ボタンをつまみ出した。目立たぬように落とし、つま先で壁際まで転がす。
スマートに城を出られればこんなものは不要だが、用心に越したことはない。ここまで来るあいだにも、いくつか落としてきた。通路の交わりや階段の踊り場、いずれも人が集まればごった返すところだ。あとはエイジからの合図を待つだけだが、できるだけ出口の近くにいたいものだ。この辺りでうまく時間をつぶせるだろうか。
ドッジは目の前の壺にもういちど目を向ける。瑠璃のガラス壺が、ダウンライトを浴びて光っている。細身で美しく、壺というよりは花瓶なのかもしれない。コバルトブルーのガラス片がモザイクに貼り付けられ、その下でキラキラと金砂が光っている。鑑賞するフリをしながらエイジの合図を待つもりだったが、ドッジの目は本当にそれに吸い寄せられていった。