Ural region Russia / Dec 8th 19:18(Local Time)-4
「マ、マダム、そんなことを言っては、私はご主人に殺されてしまいます」
「主人はもう何年も前に死にましたわ。だから愛する人、私はあなたにすべてを捧げます。土地も屋敷も宝石も、そしてこの身体も、すべてあなたの好きにしていいのよぉぉ!」
マダムがドレスの胸元に手をやり、大きくはだけようとする。なに考えてんだ、こんな大衆の面前で。
胸元を引き裂こうとする両手を取って動きを止める。豊満すぎる乳房に、指がムニュっと沈む。ひぃぃ、き、気持ちわるうぅぅ。
「ま、マダム、マダム、マダム。どうか、どうか冷静に。僕たちわ今夜出会ったばかりではないですか」
「そんなの関係ないわ。出会うのが遅すぎたほどよ」
さっきのSPが人波の間からこちらに目を向けている。まずいまずい、これ以上目立つわけにはいかない。
「ま、ま、マダム、僕も同じ思いです。そう、僕たちは、もっとはやく出会うべきだった。貴女と出会えなかった今日までの日々を呪いたい」
手を取って、えいやっと顔を近づけると、マダムは大きく目を見開いた。
「ああ、エイリシア、私たち……」
とろんとした顔から荒い鼻息が噴き出す。背筋をゾワゾワが這い上がる。
「で、ですが、マダム。熱しやすいものは冷めやすいと申します。この愛もゆっくりと熱していきましょう。僕は逃げも隠れもしません。明日、使いの者を送ります。僕の家に招待します。だから、今夜は、このまま……」
「イヤよ、イヤイヤ。そう言ってあなたもどこかへ行ってしまうんだわ。もう絶対はなさない!」
「ああ、ちょっと、もうはなして……」
がしっと組みつかれ、涙目になりそうなエイジの後ろから、
「失礼。マダム、どうかなさいましたか」
あのSPが声をかけてきた。やばい、やばい、やばいよ。
「ねぇ、あなたからも言ってちょうだいよ」
マダムがSPへと詰め寄る。
「なにを、でしょうか」
「この人に私と……」
そこでマダムの手がひょいと動き、横を通り過ぎようとしたボーイのトレイからグラスを取り上げるとガブリと飲み干し、トン、とグラスが戻される。
なにが起こったのかと唖然としているボーイに、SPは顔色ひとつ変えずに顎をしゃくる。我に返ったボーイは、素知らぬ顔で歩き出す。
マダムは一つゲップを吐くと、噛みつかんばかりにSPに顔を寄せ、泣き声を上げた。
「言っでよぉ、この人にィ、わたじど、結婚じろっでぇぇ……」
酒くさい息を吹きかけられ、さすがにたじろぎつつもSPは同情の目をエイジに向けた。
「お気持ち、お察しします」
どちらに向けたのかわからない言葉のあと、
「どうでしょう。上に部屋を用意しますので、落ち着いてふたりでお話しされては」