Ural region Russia / Dec 8th 19:18(Local Time)-3
パーティホールは、吹き抜けにした一、二階の空間に、張り出したテラスをぐるりとまわした劇場型だった。表向きは巨大農業企業であるこの城との取引を求めて、各国のビジネスマンが群がっている。もっとも、大半の者は裏の顔も知っていて、そちらでの取引を望んでいる連中もいるはずだ。表と裏、様々な思惑が騒々しく満ちるなか、エイジは人波を縫い歩きながら、ずっとひとりの男を目で追っていた。
左舷に張り出したテラス席の一角から、ひとりの男が下階の人間を睥睨している。背後にふたりのボディガードを従わせ、時折なにか指示を出している。初めはあれがボスかと思ったが、どうも違うようだ。エイジが見ている間にすでに二回、どこかへ電話をかけ、なにか指示を仰いでいる。ボス自身はこの会場に姿を現していないのだ。だが、あの男は、間違いなく高いポジションにいる。アンダーボスか、その一つ下か……。
男が半身をひねり、背後に立つSPになにか耳打ちした。SPは一礼すると、ホール下階へと降りてくる。男は、もうすることはない、という顔で立ちあがると、前後を部下に挟まれて、背後のドアから出ていく。あの後を追えばボスのところへ近づけるだろうが、しかし、あのドアはどこへ通じているのか。作戦前に見せられた城の見取り図は、どこもかしこも ──unknown── ばかりで、まるで役に立たないものだった。どうにかしてこのホールより上の階へあがり、城の内部を進まないことには手が打てそうにない。そう思ったとき、
「エイリシアさまぁぁー!」
エイジはぎょっとして振り返った。
豚が二足歩行へ進化を遂げたのかと思うような中年の女性が、人波を突き崩しながらエイジへと向かってくる。
「見つけましたわ、愛しい人」
甲高い声を上げ、エイジの袖をつかんで膝をつく。
「もう逃げないでくださいまし。どうか私の愛を受け止めて。ああ、エイリシア、私たちは運命の鎖で結ばれているのよ」
騒々しい振る舞いに、周囲から好奇と愉悦の混じった視線が向けられる。
「ああっ、マダム。どうか立ち上がって。お手をお放しください」
「いやよ、いやいや。手を放せば、あなたはまた人波にまぎれてしまう。さっき約束したじゃない、私と踊ってくれると。お願いよ、エイリシア。どこにも行かないで」
マダムが激しくかぶりを振り、首もとの宝石がジャラジャラと揺れる。
「わかりました、わかりましたから。さあ、まずは立ち上がって。私はどこにも行きませんから」
「では、私を愛してくださるのね!」
どうしてそうなる。