オフ タイム オフ-5
ガバッ! と立ち上がり、直立不動の姿勢になる二人。その背後を、ボロー将軍は必要以上にゆっくりと通り過ぎる。ファーガソン課長はドアをロックしてから将軍の後に続き、二人は並んで正面の席に着いた。咳払いをひとつ入れてからボロー将軍が声を発した。
「座りたまえ」
「「はっ」」
「なにやら、私の指揮遂行能力に懸念をもっているようだが……」
「……」
ゴクリと唾を飲む二人。
「わるいが、話を聞いてやれる時間はない。そもそも私は、君たちと話したことも、会ったこともない、そういう関係だからな」
横でファーガソン課長が険しい顔で頷いている。そしてボロー将軍は、前置きもなく言った。
「メルバ共和国最高評議会議長、ハエムを暗殺してもらう」
二人は平静を装うのに失敗した。いまの時代に、一国の首脳を暗殺しろだと? それも、メルバ共和国の……。本当にボロー将軍の正気を疑うような話だった。
メルバ共和国はカリブ海に浮かぶ小さな島国家だ。リトルキューバと呼ばれることもある、アメリカの喉元に突き付けられたもう一つの社会主義国家。もっとも、その存在が意識されることはほとんどない。キューバという現実の脅威に対して、メルバの存在はあまりに小さいのだ。小島ひとつの国土は、面積にしておよそ三〇〇k㎡。ハワイのラナイ島と同程度、日本の淡路島の半分にもならない。農漁業で自給し人口も三万に届かない。国家といいながら、アメリカの片田舎にすら及ばないような存在だ。そんな小国に対して、なぜ……。