オフ タイム オフ-3
「ほら、電話だぜ」
「はぁー、こんな時でも仕事はやってくるんだなぁ」
ドッジは溜め息と共にスマートフォンを取り上げた。耳に、馴れ馴れしい女の声が入ってくる。
『ハイ、トニー。ブダペストの天気はどう? そういえばエミリアと縁りを戻したって本当?』
ドッジはスマートフォンをいったん耳から離すと、キーボード表示に切り替え、T、B、E、のキーを長押しする。耳に戻すと頭が痛くなる。守秘回線に切り替わったことで発する高周波は人間の可聴域外だというが、ドッジはいつもこれを頭痛として感じていた。ドッジは力なく返事をする。
「よぉ、テレシア。ブルックリンの生活はどうだ。エミリアと別れたこと、もう知ってんのかよ」
『ジャニスとアンソニーもようやく結婚するって。知ってた?』
暗号化によって水の流れるようなノイズが入り、女の声はその水流の下に沈んで聞こえる。
「あの二人はずっと上手くいってなかったからな。仕方ないさ」
『そうそう、今度うちでホームパーティやるのよ、来月の二十日。来てくれないかしら』
「わかった。出席するよ」
エイジが隣でワザとらしく大きなため息をついた。ドッジは電話を切って顔を向ける。エイジがぶさむくれた顔でにらんでいる。
「な、なんだよ」
「俺たちは休暇中だろ。なんで簡単に『出席』にしちまうんだよ」
「いいかエイジ、仕事っていうのはな、無いよりもある方が幸せなんだ」
「お前こそ、仕事だけの人生は不幸だと知りやがれ」
エイジはビーチチェアの上に片膝を立てて、ムスッとそっぽを向く。二人はキラキラと反射するプールの水面を見つめる。沈黙のまま、何分かが過ぎ、
「……で、なんだって?」
不機嫌な声でエイジが尋ねた。
「来月の二十日にホームパーティやるから出席しろ、だと」
「はぁ? 明日の二十時に本部だぁ?」
エイジはすっとんきょうな声を上げ、もう一度、がっくりと首を垂れる。ドッジは静かに、諭すように話かけた。
「あのな、エイジよ、」
「こうしちゃいられん!!」
しかしエイジはガバッと立ち上がり、辺りをきょろきょろと見回しはじめる。
「な、なんだ、土産か?」
「ちがう! ナンパだ、ナンパ!!」
「な、ナン……?」
「こうなった以上、俺は今夜、タヒチの女の子と熱ーい夜をすごさなければならない!! あっ、そこのキレイなお姉さーん!!」
バビュンと駆け出していくエイジの後ろで、今度はドッジががっくりと顔を覆った。




