表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モモカ  作者: 遠野 雨弓
1/125

Ural region Russia / Dec 8th 19:18(Local Time)-1


 花崗岩を積んだ厚い壁を通しても、ホールの音楽が聞こえてくる。毛足の長い絨毯の上にわずかに冷気の流れるのを感じるが、部屋そのものはしっかりと暖房が効いていて寒くはない。部屋の中央には、座る者をゆったりと受け止める作りの良いソファが、そして壁の一方には、好きなだけ自由にやれとばかりに、大量のティーセットと軽食が用意されている。同様の部屋が数十とあるはずだ。これで従者の控え室、それもたったふたりで使っていいというのだから、この城の財力がしれようというものだ。

 それでもホールの方は、ここよりももっと、きっと暑いくらいに暖房が効いて、賑やかな音楽と美味い料理、美味い酒、それらを給仕するポーターがまわり、招待客で溢れかえっているのだろう。

「どうしてこう、不公平かねぇ」

 ドッジは口の端で呟いた。

 耳の奥にザッと微かなノイズが入り、男の声で返事がはいる。

『この城のボスが、この辺りの連中から巻き上げてるからだ。聞いただろ』

 部屋にいるのはドッジだけだ。同室をあてがわれたもうひとりの男は、簡単な自己紹介を済ませたあと、トイレだと言って出ていったまま戻っていない。ひとりきりの部屋で、それでもドッジは口を動かさず、吐息にすら乗せぬ呟きを返す。

「俺が言ったのは、俺とお前の関係だよ」

 誰にも聴き取れない呟きも、奥歯に埋め込まれた骨伝導マイクとスピーカーは明瞭な音声のやり取りに変えてくれる。

『なんだ、そのことか。まったく同意見だ。こっちはダンスをせまってくる太ましいご婦人をかわして、どうやってターゲットに接近しようか四苦八苦してるっていうのに、お前はのんびり控え室に座っていればいいんだからな。面倒な役回りは、いっつも俺だ』

 ドッジは言い返したくなるのをこらえながら、

「なら、とっとと済ませて帰ろうぜ」

そう言って窓辺へと寄った。

 雲行きを気にする風を装いながら外を見まわす。強く雪が吹きすさぶなか、ここから見える範囲だけでも歩哨が二。それぞれが肩から自動小銃を下げている。いま目の前をもうひとり通り過ぎた。こいつはドーベルマンを連れている。犬は苦手だな、とドッジは思い、そして相棒からの反応が返っていないことに気づいた。

「おい、どうかしたのか、エイジ」

『準備しろ、いまから動く』

打って変わったエイジの声に、ドッジの顔もひきしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ