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第十七話 一件落着!

「リリン様の足を見てください。そこにははっきりと、イルリラ様の履いていらっしゃるヒールの痕がついていますわ」


 そう私が指摘すると、イルリラがとっさに自分の靴を見た。なお、リリンの足にはそんな「はっきりとした痕跡」はない。だが、誰かに蹴られた痕跡は残っている。それを私は「あてずっぽう」で指摘しただけだ。それにまんまと引っかかるのは些か拙いような気もするけれど、まあいいだろう。このまま押し切ってしまえ


「あら、イルリラ様。ご自分の靴が気になりますか? そうですものね、ご自分がつけた傷であれば、それはもう大変なことですものね。貴族の子女ともあろう方が暴力沙汰なんて」

「っ! そ、そんなことは……それにこの子は身分の低い男爵の子ですわぁ!」

「身分など、今は関係ない! どんな身分であろうが、人を痛めつけることなど許されてはいけません! 恥を知りなさい!」


 私はびしっと鋭い声で反論をする。イルリラはうっと後ずさりし、レザウント侯爵夫人へ助けを求めようとしている。彼女は口元を扇子で隠しているが、明らかに苛立ちと焦りを見せているようだ。


「私は知りません。イルリラが勝手にやったことではありませんの? ねえ、アーテリア?」

「そ、そうですわね。私たちは何も見ていませんわ」

「そ、そんなぁ……ひどいですわぁ、お二人とも……」


 この会話そのものも、ただ「自分たちがやりました」と言っているようなものなのだが。まあ相手が足を引っ張りあうのであれば自滅してもらうのが手っ取り早い。私は少し黙っているか迷っていたが、そんなところに走り寄ってくる男たちが二人。ヴァルと、レザウント侯爵だ。侯爵のほうは顔を真っ青にしているような、それ以上に怒りで表情をゆがませているような、そんな状態だ。


「オレリア! 貴様、夫人を暗殺しようとしたのか!」

「な、なんの話ですか!? そんなことは……」


 さすがに驚愕するレザウント侯爵夫人……オレリアは慌てふためいているようだった。話をヴァルが引き継ぎ、握られていた粉薬を見せる。


「この毒を盛ったという話を使用人が吐いた。他の使用人たちも夫人の命令でいくつもの嫌がらせを用意していたというのを認めたぞ」

「そんな、そんなの、わたくしを陥れるための罠に決まっております! あなた! 私とこの女や使用人のどちらを信じるのですか!?」

「あの……私も、夫人に命令されました……暗殺できるほどの毒ではありませんが、腹を下すほどの毒を持ってきて、アリエス夫人を、陥れるようにと……」


 オレリアが侯爵に詰め寄ろうとした瞬間、リリンが震えながらも観念したように言葉を吐き出し、そして私の前で跪いた。


「申し訳ございません……私が愚かでした」

「リ、リリン……! あなた、誰が目をかけて……」

「オレリア様、私に目をかけてくださったことは感謝しております。しかし、この仕打ちはもう耐えられません!」

「この……大馬鹿者……!」

「大馬鹿者はお前だ、オレリア! このようなことが国中に広まれば、レザウントは終わりだ!」


 そう、ただの茶会と言えど、嫌がらせをして陥れようとしたという事実が広がれば、信用を失うだろう。レザウント侯爵はそれを恐れ、何としてもこの場を取りまとめたいのが見え見えだった。ヴァルは腕を組み、私を見つめてくる。


「どうする、アリエス」

「あら。私は構いませんよ。これから皆さんがお友達になってくださるのであれば、嬉しいですわ」

「とのことだが、どうする? 侯爵。俺としても今後邪魔をしなければこの場はなかったことにしたいのだが」

「あ、ありがたきお言葉……」


 わなわなと震えながらも、侯爵は頭を下げて見せる。「では約定を結ぼうか」と侯爵を連れて行った。オレリアも情けない声を出しながら、彼らを追いかける。残された取り巻き達はどうしていいかわからず、ただその場に呆然としていた。

 私はリリンに近づいて、笑みを浮かべた。


「勇気を出してくださってありがとうございます。おかげで助かりましたわ」

「いえ……私はただ、嫌だったからその……」


 今にも泣きそうなリリンに、私はハンカチを渡した。そして膝をつき、回復魔法を使う。リリンは涙を拭きながら、驚いて思わず身じろいでしまう。


「そんな、私なんかに……」

「いいの。これぐらいお安い御用よ。その代わりに、お友達になってくださる? 私、まだ親しい人が少なくて、こうして力になってくださる方がいれば心強いわ」

「も、もちろん! ぜひ付き人に……」

「ううん、こちらのレイも男爵家の娘だけれど、友達みたいなものだから。友達になってちょうだいな。いいわよね、レイ」

「私は何も。文句はございませんよ」


 レイも笑みを浮かべて、リリンの方を向く。リリンはそう言われてパアっと笑顔を見せる。ありがとうございます、と頭を何度も下げてきた。私は満足そうに手を腰に当てる。そして、オレリアの取り巻きの方を向いた。


「あなたたちはどうする?」

「もももも勿論、わたくしは貴女様のお味方ですわ! そうですわよね、イルリラ?」

「は、はははい! 一生忠誠を誓います!」

「だめだめ。友達になって、と言ったでしょう? 味方とか、忠誠とかいいの。まあでも……夫の邪魔をしたら容赦はしないけれどね」


 そうくぎを刺すと、取り巻き二人は体を震わせながら頷いて見せた。これにて一件落着、ってところかな。


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