拝啓 迷惑な友人 様
小雪舞い散る季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか?
あなたが引越しをされて、はや2か月。私は相変わらず仕事と趣味に追われる生活を続けております。あなたもきっと同じような感じでしょうか?
あっ、そういえば最初に一つ文句を言っておきます。引越しと同時に古くなってきたと言っていたスマートフォンを番号ごと変えたようですが、せめて変更した番号の連絡をください。
こっちから連絡を取ろうとしても「この番号は現在使われておりません」となってどうしようもありません。まあ気長に待っていますので気づいたら連絡をお願いいたします。
さて、あなたにお勧めされて2015年から見始めた「小説を読もう」ですが、すでに7年目になろうかというのに、未だにどっぷりとはまっております。
まああなたもそうなのは承知していますが。
あなたの狙いどおりかわかりませんが、次第に私は小説の投稿をはじめるようになりました。
自分の考えた物語を文字にする難しさに四苦八苦しつつも、読者の方に励ましていただいたりして未だに投稿を続けております。
さてここでサプライズです。なんとこのたび、そんな投稿していた小説が本になることになりました。しかも天下の集英社のダッシュエックス文庫というところです。
編集の方との打ち合わせとか、なんか本当の作家っぽいことをしているんですよ。内心ガクブルなのは私の性格を良く知るあなたなら想像に難くないと思いますが。
本当は、書籍が出版されたら直接会いに行って驚かそうと計画していたのですが、あなたが引っ越したせいでその計画が台無しです。さすがに遠すぎるので、サプライズのためだけに行くのは難しいですしね。
こんなことになるなら引っ越す前にもっと話しておけばよかったです。
もっと会っておけばよかったです。
たぶんあなたも小説を書いていたことでしょう。
それを読んでみたかった。
私の小説を読んでほしかった。
お前、馬鹿かよ。とかこの展開はないわ。とか批評して欲しかった。
もっと、もっと、もっと……後悔ばかりが頭に浮かんできます。
なぜ、あなたは自殺してしまったのでしょうか?
私には話せない理由だったのでしょうか?
なにも残さずに死んだあなたが何を考えていたのか、頭を巡らせても私にはわかりません。
小説家になるなら想像してみろよ、とあなたなら笑って言うかもしれませんね。でもその言葉は直接あなたから聞きたかったです。
あなたが自殺したと聞き、なんと言うか書くのがおっくうになってしまいました。
一番大切な時期なのにどうしてくれるんですか? と文句を言いたいところですが、書けないのは私自身の問題ですし、お門違いかもしれませんね。
私を「なろう」という沼にはめた、迷惑な友人様。
きっとあなたは死んだとしてもこの「小説家になろう」を見ていることでしょう。
だからあなたへの手紙をここに記させていただきます。
そしていかにあなたが極悪なことをしでかしたのか、色々な人に見てもらおうと思います。
文句を言いたいのなら感想欄にでも書いてください。まあ、あなたから言われても取り下げはしませんけれどね。
さて、最後になりましたが、いつか私があなたと同じ場所に引っ越した時には、ぜひ私の小説の批評を聞かせてください。
ボロボロにけなされることを楽しみにしています。
色々な話が出来るように、これからも新しい話を書いていきます。書きたい話が多すぎてちょっと行くのが遅くなるかもしれませんが、そこはおおめに見てくださると幸いです。
では、この手紙をもって一区切りつけたいと思います。
いつか、また会いましょう。
敬具
追伸 自殺を考えている方へ
辛い現状から逃れるために自殺したいと考えている方。
その考え自体を否定することは私はしません。こう書くと各方面からバッシングを受けてしまいそうですが、そう考えることで心が救われているということもあるのではないかと思うからです。
でも、本当に一歩踏み出してしまいそうなその時は、他に逃げる場所がないのか探してみてください。
それは場所だけではなく、家族、友人、官公庁でもなんでもいいです。
死ぬ、と覚悟できたのですから利用できるものは全部利用してやる、とばかりにあつかましくなってもいいのではないでしょうか?
その方がきっとその相手も幸せだと思います。
それが、利用されずにそのまま自殺されてしまった私の率直な気持ちです。