06 ちかい
ノルシェ殿の憧れの人の名はリリシア嬢。
「リリシア様こそが騎士の理想の体現者にして私の在り方の全てなんです」
ノルシェ殿とリリシア嬢の父親は同期の騎士、ある任務でリリシア嬢の父に命を救われたノルシェ殿の父親は、以降かのバストネート家こそが騎士のあるべき姿と娘のノルシェ殿を教育してきた。
憧れのリリシア嬢を追って騎士となったノルシェ殿。
ノルシェ殿が見聞きしたリリシア嬢はその騎士道を貫き通していたという。
『リリシア様、命懸けで不正を断つ』のエピソード。
王家の面々を前にしての御前試合の優勝決定戦、当時の騎士団長候補にして優勝候補の若き青年騎士の右腕を、騎士団に入団したてのリリシア嬢が切り飛ばしたという話。
王の御前での惨劇に怒りに震える皆の前でリリシア嬢は高々と告げたと言う。
「王の御前であればこそ、不正は断じて見逃せぬ」
青年騎士の装備には御前試合での使用が固く禁止されていた付与魔法がたくさん隠蔽されていたそうだ。
青年騎士は全てを失い、リリシア嬢は御前試合での流血沙汰の責任を問われ優勝取り消しと城内での衛兵勤務を言い渡されたと言う。
その他、ノルシェ殿から止めどなく披露されるリリシア嬢のエピソード、最後のそれを聞いた時に自分はこの世界に呼び出されて一番の後悔をすることとなる。
『リリシア様、永遠の愛の守り人となる』のエピソード。
とある愛し合う男女が勇者候補を降りて手に手を取って城を出た。
リリシア嬢はふたりの永遠の愛を生涯守ると誓い、城勤めの身分を捨てて共に旅立ったという。
「勇者候補を降りた?」
「下職制度というものがあって、勇者となれなかった召喚者様たちが護衛の騎士を伴って他の町で暮らせる制度です」
「そのふたりの召喚者の名は?」
「サシュウ アラン様とリソウ マユリ様です」
なる程、あのふたりか。
共に不幸な召喚体験を経たふたり、違う世界で身を寄せ合っていつしか結ばれた末の逃避行、話に聞くところのリリシア嬢ならばふたりのためにその騎士道を捧げるであろうことも良く分かる。
しかし、無念だ。
確かに接触は無かったが、自分がその輪に入れなかったことが心底悔しい。
ふと、思った。
ノルシェ殿は私の指導騎士、つまり下職制度における護衛騎士と同等の役割りなのではあるまいか。
そしてリリシア嬢はノルシェ殿の憧れの君、もし私が望むならリリシア嬢のように召喚脱落者の私について来てくれるのでは。
我ながら卑怯な考えだ。
希望に燃えるうら若き乙女騎士の人生を、自分の都合でねじ曲げて良いものだろうか。
いや、やめておこう。
召喚脱落者とはいえ矜持はあるのだ、卑怯者にはなりたくない。
「ノルシェ殿の想い、聞かせてもらった」
「その剣は今の私には重過ぎる物ではあるが、そこに込められた想いに相応しい主人となれるよう努力することを誓おう」
ひざまずいて誓う私の前に、なぜか同じ姿勢のノルシェ殿の顔。
近い。
「モノカ様はご存知無いかもしれませんが、『乙女の守り樹』を騎士から贈られた乙女は必ずや結ばれるという伝説があるのです」
よく分からんが、ノルシェ殿の笑顔を見るに許してもらえたようだ。
「これから末長くよろしくお願いする」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
気付けば、いつからかササエさんがこちらを見ていたようだ。
かなり、気恥ずかしい。