05 ノルシェ
神官たちや騎士団長から呼ばれての話し合いは、いわゆる取り調べというものだったのだろう。
どうやら教官殿の悪行は周知の事実だったらしいが、それでも『高速回避』を破ったという事実も変わらずそこにある以上、原因究明は急務であるようだ。
数度に渡る聴取の後に結局原因不明のまま解放されると、自分を取り巻く環境は大きく変わっていた。
勇者候補生たちからは隔離させられた。
得体の知れないスキル持ちを大切な勇者候補の側には置いてはおけないという事らしい。
いつもの訓練場とは別の場所にある小さな修練場を充てがわれた。
修練場の側の小さな小屋が新しい居場所となった。
自己鍛錬とササエさんの美味い手料理、そのふたつを楽しみにするだけの毎日が過ぎていく。
城脱出の妙案も浮かばぬまま無為の日々を過ごす私の前に訪問者が現れる。
その女騎士の名は、ノルシェ。
歳の頃は10代前半、まだ幼さの残る風貌通りの若々しさ溢れる彼女はとにかくやる気に満ちていた。
「おはようございます、モノカ様」
「今日から指導騎士としてご一緒させていただくことになりました」
「よろしくお願いします」
指導騎士とのことだったが、要は扱いに困った元勇者候補のお守りもといお目付け役らしい。
ノルシェ殿はそんな自身の立場にも否定的な思いを毛ほども抱いておらず、ただひたすらに慕ってくれた。
そんな彼女から渡された物がある。
初めて見た時は驚いた。
妖しく輝く刀身と質実剛健と呼べる拵えの短刀。
さほど刀剣に詳しくは無かったが、そんな私でも分かるほどの業物であった。
「これは?」
「城内女性陣一同からの感謝の贈り物です」
例の教官殿が討伐されたとの報は城中に知れ渡り、訓練生・女騎士・メイドたち、果てはやんごとなき身分の方々までが喝采を上げた。
集まった有志一同のカンパの結晶がこの短刀だそうだ。
「モノカ様は『乙女の守り樹』のことはご存知ですか」
「いや、知らない」 乙女かどうかはともかく、一応女ではあるが。
「これは乙女が己が貞操を守り抜くために肌身離さず身につける短刀なんです」
古来は尖らせた樹の枝だったが、いつしか短刀となったそうだ。
「みんなの想いと集まった金額に見合った品をと、王家御用達の鍛治職人が丹精込めた逸品なんですよ」
「悪いがこれは受け取れない」
あの件は自分の実力では無い全くの偶然の産物であること、武を志す者として実力以外のことで寄贈を受けるのは道を汚される様な想いとなること。
淡々と説明するうちにノルシェ殿の目に涙が溜まるのが見えて慌てた。
「モノカ様が武の道に命を賭けるように、私たちも乙女の誇りに賭けて譲れないことがあります。 どうしてもお嫌ならその短刀で私の胸を突いてください」
なぜそこまでと問うと、ノルシェ殿が切々と語りかけてきた。
自分には幼い頃から憧れ続けてきた人がいること、
あの人に少しでも近付きたくて騎士になったこと、
あの人は騎士の本分を全うして今はもうここにはいないこと、
もしあの人ならばきっと今の自分と同じように振る舞うだろう。
「惜しい人を亡くしたのだな」
「いえ、死んでませんよ」
詳しい話を聞いた。