32 メイジ
朝早くに佐州さんとリリシアさんはギルドへ向かった。
捕縛したケープ野郎の処遇を出来るだけ早く何とかして欲しいと、ギルドの受け付けで熱弁を振るう夫の姿を見て惚れ直したと、帰ってきたリリシアさんは熱く語った。
なぜかニエルさん以外の全員が玄関先に集まって、固まっているケープ野郎の周りを遠巻きにしている。
拘束魔法の効果が切れてないかと夜中に何度も起きて確認していたマユリさんは、授乳のために熟睡出来ない若奥様のようにふらふらである。
佐州さんが心配するのも無理は無いとちょっとだけうらやましく思いながら見ていると、突然庭先に人が出現した。
警戒する私たちに向かって、その男はにこやかに笑いながら「どーも」 と話しかけてきた。
その男の名は、藪雨 銘寺 (ヤブサメ メイジ)
メイジと呼んでくださいと佐州さんに名刺を差し出した。
メイジさんは召喚者で王都から来た巡回司法官。
私たちよりもずっと以前に召喚されていたメイジさんは前線で活躍してたが、膝に矢を受けてしまって後方勤務となったそうだ。 完全回復魔法でも治らない膝の傷というのが少し気になったがそれはそれとして。
今は各地で捕縛された凶悪犯を王都へと移送する仕事をしているそうだ。 もちろん『転送』魔法で。
「かなりの凶悪犯みたいなので報奨金期待してくださいね」
「拘束魔法、解いても良いですよ。」 銃のような物を構えたメイジさんが告げる。
マユリさんが拘束解除したとたんキョロキョロと辺りを見回したケープ野郎に向かって、メイジさんが銃をぶっ放す。
キョロ顔のまま固まったケープ野郎の額にカウントダウンする数字が貼り付いている。
「拘束持続時間なんです」 なぜか照れ顔のメイジさん。
受け取りに佐州さんのサインを貰ったメイジさんは、
「おじゃましました」 という笑顔と共に、ケープ野郎を連れて『転送』で姿を消した。
ふらふらのマユリさんを佐州さんがおんぶして家の中へと入って行く。
「我が家ではマユリがおんぶで私はお姫様抱っこされると決まっているのだ」
すごく誇らしげなリリシアさんを見ていたら、リア充爆発をしょっちゅう願っている自分が情けなくなった。




