10 実戦
目指すは東門、ノルシェが近道しましょうと路地に入っていく。
筋金入りの方向音痴の私はノルシェとはぐれたら間違いなく迷子だ。
城の中でも何度も迷子になりかけたのは内緒。
早歩きのノルシェを追うのに油断があったのだろうか。
誰かに、いきなり後ろから抱きつかれた。
道場に入門してまず最初に師匠から教わったのは、槍捌きではなく素手での戦い方。
「痴漢対策とか言ってこれだけ教えて欲しいって人が多くて、面倒だから最初に教えちゃうんだよね」
師匠曰く、痴漢には容赦も情けも無用。
あの頃教わったことを正しく実戦に活かした。
私の足元には、さっき抱きついてきた男。
潰してはいけないところを潰してしまったようで、かなり臭い。
ノルシェの足元にも、男がひとり。
手足の腱を断たれて泣き喚いていたので、さっきノルシェがみぞおちを蹴って大人しくさせた。
『乙女が身を守るのに最適なのは、剣でも拳でもなく短剣』と言う教えを忠実に守り磨かれてきた、父親仕込みのノルシェの短剣術はかなりすごい。
密着した状態での戦いというのは死角だらけで戦うと同義で、ノルシェに抱きついた男にはご愁傷様としかかける言葉が無い。
「門が近いので衛兵を呼んできますけど、モノカも一緒に来ますか?」
なぜかこいつらから目を離してはいけない気がしたのでここに残ることにした。
「すぐ戻りますね」 駆けていくノルシェ。
妙に静かな裏通り、血と尿の匂い。
『収納』から手に馴染んだ短槍を取りだして、殺気の方向に備える。




