異世界転生したけど、思ってたのと違う
Twitterで呟いたネタをとりあえず形にしてみました
子供の頃。
俺は勇者に憧れた。
漫画、アニメ、ゲーム……
俺はそういった物語が大好きだった。──いや、今でも好きだとハッキリ言える。
「萌え」よりも「燃え」。
昨今の流行りとは微妙に外れるけれども、それでも供給はあった。
好きな言葉は「勧善懲悪」。
俺も、物語の勇者のように悪を挫き、正義を貫く人生を送るようにしていた。
とは言っても、俺はしがないオタクだ。
どちらかと言えば、陰キャのいじめられっ子だった。
陰キャのくせに、トラブルに首を突っ込んだり、虐められてる子を見ると身のほど知らずにも助けたりすれば、そうなる。
これで、「実は武道をやってて強い」とかあればカッコ良いんだけど、特にそういったことは無い。
どころか、運動も苦手だ。5段階評価で2寄りの3。
まぁ、ちょっと肺に問題がある体だったので、その辺りは諦めていた。
そんな俺だから、歩道で車に轢かれそうになっていた子供を助けたのは当たり前の行動で、結果死んだのも当然だ。
むしろ、子供が無傷で助かった。というのは上出来の部類だろう。
そうやって死んだ俺が今居るのは、まぁ、所謂閻魔様の前だ。
……うん。
閻魔様? いや、死人の功罪を判断して逝き先を振り分けているのだから、閻魔様だろう。
ちょっと役所みたいなカウンター越しで、見た目若い男でなければ、信じられる。
胸にある「新人研修」のバッチは見なかったことにしよう。
……できれば、右隣のいかにもなオッサンか、左隣の美女さんがよかったなぁ……
いや、まぁ、今のところ不安になる言動とかないんだけどね。
むしろ、丁寧に対応してもらってる感じ。
死ぬまでの功罪に点数つけて、色々やってくれてる。
「うん、貴方の場合、次も地球で人間やってもらうことになりますね。解脱にはまだ遠いですが、頑張ってください」
俺の人生の評価が終わったのか、新人さんがそんな事を言う。
良かった。
一応、品行方正に生きてたつもりだったから、地獄とか畜生道はないと思ってたけど、
「蚊を結構殺してますねぇ」
とか言われた時から不安になってたんだ。
次も人間なら、文句はない。できれば健康な体に生まれれば良いなぁ……
そんな風に思ってたけど、そこに待ったがかかった。
「あらダメよー、アラトくん。この子、結構上位の功徳積んでるのに、地球の人間に転生なんて」
俺の後ろからそう言ってきたのは、びっくりするほど綺麗な人だった。
──綺麗過ぎて性別とか超越して分からない。
こういう場所では性別とか関係ないだろうから、もしかしたら無性とかもあり得るかもしれない。
「え? 規定のポイントですが?」
新人さん──アラトというらしい──が困惑している。
俺もよくわからない。
「ねぇキミ、異世界転生、してみない?」
困惑を無視して、そんな風に美人さんが聞いてくる。
なんというか、性別不明とはいえ、後ろから密着されると、なんというか、困る。
もう肉体は無いからどうなる事も無いのが良いのか悲しいのか……
いや、それよりも……
「イセカイテンセイって……異世界転生?」
伊達にオタクはやっていない。
そういうのは嗜んでるし、実は死んだ直後は神様的な誰かが土下座しに来ないかときたいしたりした。
……結局、こうして窓口で審査受けてるんだけど。
「そそ。剣と魔法の世界で、魔物とか居るの。キミ、元日本人でしょ? そういうの、大好きなんじゃない? 私の権限で、記憶を持ったままそういう世界に転生させてあげるよ」
「本当ですか!?」
神様土下座ではないけど、コレは願ったり叶ったりだ。しかも、記憶を持ったまま。
これは……結構な当たり案件なのでは?
「ホントホント」
そう笑顔で言う美人さんが続ける。
「実を言うと、異世界転生って、そこまで珍しくもないんだよ。地球で出版されてる異世界ファンタジーのお話って、結構な数が実話だったりするし」
つまり、作者の人が異世界で見知った事を物語として書いているらしい。
──当事者の主人公とは限らないらしいけど。
それ以外でも、世の中の天才と言われる人は、かなりの割合で異世界転生者なんだとか。
もちろん、明確に記憶を持っている人は少ないけど、異世界の知識を断片的にでも思い出せば、それが「革新的なヒラメキ」になるんだそうだ。
そして、俺の場合は記憶を完全に残したままの異世界転生。
それだけでもかなりのチートになるだろう。
さて、この美人さん。
なんと、俺が行く異世界の神様なんだそうだ。
ちょいちょい、俺みたいな「ちょっと良い魂」を自分の世界にスカウトしているらしい。
そういう事をやっていても、まだまだ若い世界なので、他の世界に比べて魔法も科学も遅れ気味だけど、だからこそ「俺Tueee」できるから、誘いやすいんだとか。
まぁ、その辺は好みによるかも知れない。
地球より優れた文明の世界に転生して、便利な生活を満喫する。というのも、悪くないだろうし。
だけど、俺はこの神様の世界に行くことにした。
夢にまで見た、勇者になることもできるのだから!
「じゃぁ、キミには【ギフト】をふたつ授けてあげましょう」
なんでも、この神様の世界では生まれた時に神様から【ギフト】と呼ばれる能力をあたえられるらしい。
普通はひとつ。
俺のように異世界転生した人でふたつ。
さらに上で3つらしい。
俺の場合、ふたつの【ギフト】に加えて、前世の記憶付き。
普通は記憶は消すモノらしいので、【ギフト】がふたつや3つだからといって、前世の記憶があるわけではないらしい。
複数【ギフト】は珍しいが、村にひとりは居る程度であるし、人口が多い都市部では知り合いの中に数人「ふたつ持ち」「みつ持ち」が居ることもある。
「【ギフト】って選べるんですか?」
そう、俺は聞いた。
ラノベとかでは、リストから選ぶ展開がお約束だったからだ。
「流石に、ダメだよ」
だが、現実は選ばせてもらえないらしい。
まぁ、そんなものか。
「でも、そうだね……キミの望みを叶えるような【ギフト】だと思うよ」
そんな風に転生した俺。
早速、ステータスオープンで自分のギフトを確認!
……はできなかった。
単純に、やり方が分からなかった。
しかも、周りの大人とかが喋ってる言葉も分からなかった。
どうやら、言語チートも無しの模様。
仕方がないので、俺は地道に言葉を覚えて【ギフト】を確認する方法を知ることからはじめることになった。
……数年後。
俺は神殿にやってきていた。
どうやら、この世界、【ステータスを確認できるギフト】というモノがあり、そういった人に【ギフト】を含めたステータスを教えてもらうのだそうだ。
当然、細かいステータスを覚えることはできないので、紙に書く。
なので、自分のステータスを読む必要があるので、識字率は高い。ついでに、紙も安い。
前世で見知った物語が、少々アレンジされてちらほら出版されている程には、印刷技術も発達しているようだった。ついでに、地球からの転生者も普通に居るぽい。……記憶はどうなんだろう?
さて、俺はこの時のために言葉と文字を覚えてきたのだ。
……まぁ、ふつうの勉強しただけだけど。
どのような【ギフト】があるかで、これからの身の振り方が変わってくる。
【ギフト】にはレベルがあり、そのレベルを上げる事で恩恵もレベルアップする。
ついでに、体力や力も上がっていくのだ。
俺には【ギフト】がふたつあるので、レベルアップで上昇するステータスも2倍になる……筈だ。本で読んだ知識だけど。
だけど、結構色々やっているのに、最近ではメッキリレベルアップを実感しなくなった。
ステータスが見れなくても、力や体力が上がれば、実感として分かっていたのだけど、それがここ1年くらい全くなくなったのだ。
しかし、【ギフト】のレベルはそう簡単には上がらないのが常識。
例えば、【剣士】のギフト。
最初のうちは普通に体を鍛えてるだけでもレベルが上がるけど、そのうち棒切れでも「剣」を振らなければ上がらなくなり、次第に木剣、実剣が必要になる。さらには素振りでは上がらなくなり、高レベルの相手との対戦が必要になり、本気の命がけの戦いが必要になってくる。
【魔導士】だとさらに大変で、【剣士】のように戦う必要がある上に知識まで要求される。
戦闘系の【ギフト】だけでなく、生産系もより難しい生産を要求され、ある程度を境に新規の発明が必要になるのだとか。とはいえ、危険な戦闘をやらなくてもレベルが上がるので、冒険者や兵士を目指す人にとっても、生産系の【ギフト】は「当たり」。
家事系だと「大当たり」だ。
そういう中で、【ステータスを確認するギフト】のようなモノは、結構な「当たり」らしい。
とにかく数を熟せばレベルがあがるのだから。
【ギフト】によっては、何をやれば経験値が貯まるのか見当もつかない。という「外れ」もあるらしい。
ちなみに、俺が欲しいのは【勇者】のギフトだけど、記録を見ると、勇者に相応しい、無償の奉仕がレベルアップに必要となり、そのうち国家的危機を救う必要がある。
もちろん、そんな危機は滅多にない。
10年くらいにひとり出てくる「名前負け外れギフト」らしい。
レベルを上げる方法がわかっても、できなければ意味がないのだ。
たしかに、【勇者】しか持ってなかったらクソ外れ【ギフト】だろうけど、俺は「ふたつ持ち」だ。
片方が【勇者】でも、もう一方のレベルが上がれば、それなりに活躍できると信じている。
……いーんだよ。勇者は名前だけで。
別に国や世界の危機を願ったり、魔族と戦争したいわけでもないんだから。
それに、簡単な家の手伝いとかしているだけでメキメキ上がってたレベルが最近上がらなくなったのは、多分【勇者】だからだ。
ちょっと焦って無茶な修行しだした辺りからもうひとつの方も上がらなくなったポイから、結構焦ってる。
レベルアップに繋がる行動の見当もつかない……
まぁ、そんな風に無茶してるから、こうして神殿に連れてきてもらえたわけだ。
普通はもっと上の年齢になってかららしい。
……うん、今生の両親には心配かけてしまった。
さて、そんなこんなで、俺のステータスを確認した神官さんが、紙を手渡してくれた。
途中、「おおっ」とか「ほう……」とか言ってたので、結構凄いらしい。
けど、【勇者】は無いのかな? 外れスキルなら、失笑とかしても良さそうだけど……
プロだからそういう事はしないのかな?
まぁ、それよりも、ステータスを見よう。
……うん、上の方はHPとかMPとかだな。
まだ子供だからマイナス補正がかかってる記載まである。
それでも、結構高いんじゃ無いか?
近所のお兄さんが自慢げに見せてきた数字よりは、高い。……ちなみに、個人情報なので、見せびらかすようなモノじゃない。
……っと、それよりも、【ギフト】は……
【健康】
神官注:病気や怪我、毒に対する耐性を得ます。病気や怪我をしないようにすればレベルアップしますよ。
おお、【健康】! そういや、ずっと風邪とかひいてない! ……あ、最近無茶な修行で生傷が絶えなかったのって、逆効果だったのね……
俺の努力は無駄だったのか……
いや、もうひとつの【ギフト】には……
【ニート】
神官注:あなたは家やご近所の手伝いをする良い子だと聞きました。でも、レベルアップするには手伝いとかしてはいけません。
近いうちに神殿で養うことになるでしょう。たまに魔物退治をして、一生遊んで暮らしてください。
働いたら負けです。
……いや、英雄になれるのは分かるんだけどさ。
なんか、思ってたのと違う……