第9話〜上板橋ダンジョンへ〜
上板橋ダンジョンへの道のりは、単純な距離だけで言えばそう遠くはない。
俺が住んでいる所から上板橋まで、直線距離で8kmといったところだ。
“昔は”という言葉が頭に付くけどな。
見ての通り、今の東京23区に以前の姿を残す区は存在しない。
建物は倒壊するか、木々や緑に侵食され、コンクリート混じりの土が今の大地だ。
例え建物は残っていようと、中は大密林。草木が好きに生えまくり。
本当に俺の住んでいたアパートは珍しい部類だったんだな。
こうやって離れてみて、改めて実感する。
「マジで生きてる建物ないな」
トキノ荘を発ち、既に3時間が経過した。その間、森林と化した街中を歩いているが贔屓目に見ても寝泊まり出来る建物があるとは思えない。
ダンジョンの周りは侵食の速度がはやいって聞いたことあるけど、段違いだな。
今まで好んで上板橋方面には行ってなかったから、ここまで進んでるとは思わなかった。
建造物を飲み込み身体の一部にした大樹は、容易くその建物より高く成長している。
この木々の成長と建物の倒壊で地形が変わっているせいで、上板橋方面への到着はかなり難航していた。
直線で突っ切ろうと思ったが瓦礫と土で出来た山だったり、コンクリートを突き抜けて出てきている巨大な根っこだったりで、逆に直線で行く方が時間がかかるなと回り道をしているんだが……。
「ッ! ウォン!」
「みんな、敵だ! 左方向!」
「ギギギギギィィッ!」
ゴブリンの群れ、目算6体! その手に鎌や鉄パイプなどを持ってゴブリンの群れは涎を口端から垂らしながら俺達に襲いかかってくる。
「残念。俺のパーティはもうゴブリンの群れくらいじゃビクともしねぇぜ!」
コボルトの六郎、ゴブリンのニノ助が陣形から飛び出し迎え撃つ。
ニノ助の手には使い慣れた包丁が握られていたが、六郎の手には何も握られていない。そのかわり、鋭く尖った爪がギラリと輝く。
「ギィギャ!」
「ギョギャア!」
「ギィエッ」
ニノ助の包丁が一閃されると、3体のゴブリンは喉から血を噴き出す。
まさしく一瞬の決着。これがゴブリンとゴブリン・エリートの差!
「ガウァッ!」
同時に、六郎も両の手の爪をゴブリンの喉に爪を突き立て勢いのまま削ぎ取っていった。
ニノ助も同じく、一瞬で3体のゴブリンを屠る。
「ゴブ!」
「あぁ、みんな! 今度は右からだ! 撃退しろ!」
ニノ助と六郎の活躍の直後、反対の方からコボルトの群れが突撃してくる。
それをサブローやゴンザレスが撃退し――さっきからずっとこれの繰り返しだ!
少し進んだら群れがこうやって襲いかかってくる。
正直、もうゴブリンやコボルトくらいじゃ経験値が微々たるもんで進んで戦いたいモンスターじゃないんだ!
そのくせ数は多いから時間は取られ、なんだかんだと3時間。
みんなの体力に余裕はあるが、正直「またか……」感を醸し出している。わかる、俺もだ。
3時間かけて、上板橋ダンジョンまで半分の距離しか来れていない。
むしろ半分の距離までは良いペースで来れてたのに、街の侵食による森林化が激しくなってきた途端にこのモンスターハウス。
道も険しいから、下手をしたらこのまま着かずに野宿する羽目になるかもしれない。
「くっそぉ! 気張れお前ら! 俺も戦うぞ!」
ヤケクソ気味に、そこらに落ちている瓦礫をコボルトの頭部に目掛けて投擲する。
「しゃあ! 当たったァ!」
――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――
空は赤く染まり、空気が冷え込んできた。
夕焼けに草木が染められ、街全体が赤くなっている。
幻想的とも言えるその景色を、俺は忌々しく眺めていた。
結果的に、上板橋ダンジョンを目指していた俺達一行は無事に辿り着くことは出来なかった。
ゴブリンやコボルトくらいなら良かったが、オークやリザードマンまで登場しはじめたせいで想像より時間がかかってしまった。
「いや〜、マジでみんな進化させといてよかったな」
「ゴブ……」
「ワフ……」
「プギィ……」
偶然、侵食されきっていない個人経営の小さな病院を見つけられたおかげで俺達は一息つけていた。
ここを拠点に? とも考えたけど、
「侵食がなぁ……」
入口は草木が生い茂って入れる状況じゃなく、院内も問答無用で木が天井を突き破っている。
たまたま一室だけ侵食の影響がほぼなく、天井から蔦がぶら下がっているくらいだ。
あと正直狭い。強さ的に進化させたことは間違いなかったが、デカさ的に不便になった。
ボタンちゃんと猪助の膝の上にサブローやニノ助、ヨシコとゴンザレスが乗っかってまぁギリギリのスペース。
俺の家は安全という確信があったからみんなを匣水晶に入れてはいたが、この区域ではみんなを匣水晶の中に入れておくのは危険だろう。
てか俺が嫌だ。一人でここで寝るとか嫌すぎる。
モンスターの目からは離れられそうだが、安全性と利便性の両方に欠ける。
ここは俺の引越し先にはならないな。
そもそもダンジョンまであと2、3kmのとこまで来れてるんだから、どうせならダンジョンに通える距離まで頑張りたい。
「にしても、想像以上にモンスターがいたな。そりゃあこんだけ居たら、俺の住んでた所まで流れてくる訳だ」
俺の近所にあったダンジョンを早期にクリアしてくれた人達には感謝しないとな。
その人達のおかげで、比較的平和にモンスターを捕獲して育成出来た訳なんだから。
「名前も知らないけどね。あざっすあざっす」
名前も顔も知らぬ恩人に感謝を捧げ、明日のことに思考を切り替える。
今日のペース的に、間違いなく上板橋ダンジョンには到着出来る。
というか、する。オークやリザードマンが簡単に現れるようになる所で、固定の住処がないと心の平穏がない。
出来るなら、みんなでゆったり出来る住処が好ましい。
「つっても、あるかねぇ? ボタンちゃん達、身体のサイズ小さくならんか?」
「ムギィ」
「無理かぁ。だよなぁ」
どこもかしこも森林化してるせいで、思ってた通り住処探しに困るな。
そういえば、上板橋ダンジョン近くにある巨大樹は沢山の建造物を飲み込んで成長したんだったか?
最悪、巨大樹に飲み込まれた建物とかに住めそうなのないかな?
侵食の際、自然の猛威に飲まれる建造物は数多いが半分だけ残るとか、一角だけ木から飛び出てるとかが意外とある。
「それ狙うかぁ」
こんな世界になるって分かってたら、ツリーハウスの作り方とか調べといたのにさぁ。
「ゴブ……」
慰めてくれているのか、一太郎が俺の肩をポンと叩く。
「ありがとなぁ、一太郎……」
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