第8話〜進化〜
俺の目の前には、歴戦の戦友であるゴブリンの一郎太、ニノ助、サブロー。
コボルトのヨシコ、ゴンザレス、六郎の6体が並んでいる。
そして嬉しい誤算だが、闇烏のカーくんが追加でそこに並ぶ。
そう……みんなのLvが、進化の条件を満たしたのだ!
カーくんは偵察用に捕獲したから、あまり戦闘に参加はさせてなかったんだけどな。気付かぬうちにLv.32にまで上がっていて“宵闇烏”への進化が可能になっていた。
オークの二体も加え、みんなで円陣を組み喜んださ。進化なんて、もう男の子ならみんな好きだろう。
男でゲーム好きなら8割方は好きなはずだ。
進化の瞬間はいつも興奮と達成感が融合し、胸が高鳴るよな。
その興奮の中、俺は【モンスターマスター】の力を使いみんなを進化させ――その手を止めた。
一瞬、脳裏によぎったのだ。
この進化……どっちの進化だ? と。
進化には種類があると思っている。今まで俺が考えていた進化は“Lv”はそのままに、ステータスがパワーアップし、容姿が変わる進化。
もうひとつ、世には進化すればLv.1になり、ステータスも少しだけ下降するタイプの進化が存在する。そっちの進化の考慮が頭からすっぽ抜けていた。
いや、育成を考慮するならむしろこっちの方が良くはある。Lv.1に戻ればそれだけレベルアップは早いしステータス補正も入る。
しかし今の俺は出来るなら早く上板橋ダンジョンへ向かいたい。
ここで全員進化させてステータスを下降させたら、道中で事故る確率が多少なりとも上がってしまう。
「う〜む、意識外からの一撃。全く頭になかったな……しょうがない。ヨシコ、ゴンザレス、六郎。進化は少しだけ待ってくれ、ゴブリン隊とカーくんで進化がどうなるか試してみよう」
みんなが頷くのを見てから、「よし」と内心で呟きタブレットを操作する。
【モンスターマスター】の能力、《進化》を使用。
《ゴブリン/一太郎をゴブリン・エリートに進化しますか?》
《ゴブリン/ニノ助をゴブリン・エリートに進化しますか?》
《ゴブリン/サブローをゴブリン・エリートに進化しますか?》
《闇烏/カーくんを宵闇烏へ進化しますか?》
立て続けに確認コマンドが出てきたので、全てにYESと答える。
「お、おお……⁉︎」
進化を選択した途端に、みんなの身体を“赤い”光が包み込んでいた。
段々と濃くなる光はやがて、みんなの身体を完全に覆い隠してしまう。
時間が経つごとに強くなる光は……その形を変えた。
小学生程度の小柄な体格だったゴブリンの姿が、みるみると成長していく。
本物のカラス程度の大きさだった一本足の闇烏は一回りは身体が大きくなっていた。
やがて、光は形を変え終えたのが次第に光量が落ち着き消滅し……その後に残ったのは、見違えるほどに姿が変わった一太郎、ニノ助、サブロー、カーくん達だった。
「ま、マジかぁ……」
120〜130cm程度の身長が160cmほどに変わり、体格もそれに見合いガッシリとしている。
ゴブリン然とした、悪く言えば小汚い顔をしていたのに、みんな進化をしたことで人間の顔に近づいている。
ゴブリンらしく牙がチラリと見えてはいるが、緑色の肌を除けばほぼ人間だろう。
カーくんは見た目自体はそんなに変化はないが、もう普通のカラスには見えない。
動物園で見たことのある大鷲くらいのデカさだ。翼を広げればまさにソレ。気持ち、眼光も鋭くなっている気もする。
み、みんな別人なんだが? いやはや、まさしく文字通り“進化”だ、これはッ。
興奮を飛び越えて困惑のレベルだよ……。
「……はっ! いかんいかん、あまりの変わりっぷりに放心してしまった。ステータス、みんなのステータスは?」
タブレットを《進化》から《ステータス》の項目に変えて、進化したステータスを――
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・種族名/名前/ゴブリン・エリート/一太郎
・性別/♂
・階級/F
《身体的能力》
・Lv.36
・HP1580/1580(進化時+280)
・MP0/0
・攻撃力=152(+25)(進化時+30)
・守備力=79(進化時+19)
・俊敏性=124(+20)(進化時+20)
・攻撃魔力=0
・支援魔力=0
・守備魔力=86(進化時+16)
《特殊技能》
・【攻撃力上昇・Lv.2】↑UP!
・【俊敏性上昇・Lv.2】↑UP!
・【逃げ足】Lv.MAX
・【チームアタック】
・【短剣術・初級】Lv.1 NEW!
・【防御力上昇・Lv.2】(Lv.40に到達で取得)
《装備》
・包丁(攻撃力+5)
《レベルアップ必要経験値》
・0/3890
《進化》
・Lv.48到達=ジェネラル・ゴブリン/階級F→E
・Lv.55到達/攻撃力450以上/守備力300以上=オーガ/階級F→E+
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・種族名/名前/宵闇烏/カーくん
・性別/♂
・階級/F
《身体的能力》
・Lv.32
・HP1140/1180(進化時+150)
・MP128/128(進化時+30)
・攻撃力=65(進化時+10)
・守備力=55(進化時+20)
・俊敏性=170(+20)(進化時+30)
・攻撃魔力=97(進化時+20)
・支援魔力=0
・守備魔力=95(進化時+20)
《特殊技能》
・【俊敏性上昇・Lv.2】↑UP!
・【擬態・夜】
・【初級魔法・風】Lv.1 NEW!
・【夜の眼】(Lv.38に到達で取得)
・【俊敏性上昇・Lv.3】(Lv.48に到達で取得)
《装備》
・なし
《レベルアップ必要経験値》
・0/2920
《進化》
・Lv.44到達=黒鳥ダリス/階級F→E
・Lv.52到達/俊敏性500以上/攻撃魔力350以上=麗鳥ラフーラ/階級F→E+
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「……んんッ⁈」
あ! レベルリセットなしの、進化したらステータス上がるタイプの進化だ。ラッキーと思ったのも束の間。
進化先が分岐してるッ! しかも片方は+付きじゃねーか!
ぐ、しかし……条件が中々に高いッ。本当ならE+の進化をしたい所だが。
この数値的に、特殊能力を取得させてステータスアップの補助をする必要がある。普通のレベルアップだけじゃあ辿り着けないだろう。
全員をE+級には出来ない。時間をかければできるが、パーティ強化は早く出来るに越したことはない。惜しいが、数体は通常のE級に進化さして、残りの数体を進化させずにE+級にしよう。
進化先が選べるようになった興奮。たまらねぇな、おい。決まった進化先しかない訳じゃないのか。
てかこの分岐進化のせいで薄れたけど、進化でレベルリセットされないのも助かる。
全てのステータスが素直に上昇してくれている。
特殊能力も一段階強くなり、新たな特殊能力すら覚えて……めちゃくちゃ強くなるじゃん。
カーくんとか魔法覚えてやがる。その素早さで空から魔法撃ち込むんですか? 強くてワロ……ん? てことは宵闇烏が敵として襲ってきたら、この素早さで空から魔法撃ち込んでくるの?
「対空必須じゃん……」
これは早いところすーちゃんも宵闇烏に進化させなくては。
ここら辺の空を飛ぶモンスターのレベルの低さにかまけて、空中戦はカーくんとすーちゃんだけに任せっきりだったからな。
これからはもっと真面目な対空作戦を練らないと。
とりあえず、進化を行っても何の問題もないことは分かった。
続いて、コボルト隊の3体も進化を行う。
同様の赤い光に包まれ、身体の形が変わっていく。
無事に進化を終え、コボルトはコボルト・ウォーリアーになった。
ゴブリンと同様、小柄だった身体は見る影もない。
小型犬が大型犬になっちまった。
コボルトの時は二足歩行になった犬のような印象があったが、ウォーリアーになったら犬の頭が付いた人間という印象に変わる。
170cmはないだろうが、それに近しい大きさはあるだろう。ゴブリンもコボルトも、一回の進化でこんなに変わるもんかい?
10年ぶりに会った甥くらい変わってるんだが。
すっかり変わった身体をゴブリン隊とコボルト隊が茶化しあっていた。
カーくんはすーちゃんに自慢するように羽を広げている。
呑気なやっちゃなコイツ等。
雰囲気は良さげなので放っておくことにして、進化したコボルトのステータスをタブレットに映し出す。
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・種族名/名前/コボルト・ウォーリアー/ヨシコ
・性別/♀
・階級/F
《身体的能力》
・Lv.36
・HP1500/1500(進化時+250)
・MP0/0
・攻撃力=135(進化時+40)
・守備力=75(進化時+20)
・俊敏性=155(+20)(進化時+30)
・攻撃魔力=0
・支援魔力=0
・守備魔力=89(進化時+20)
《特殊技能》
・【俊敏性上昇・Lv.2】NEW!
・【剛力顎】NEW!
・【鋭い鉤爪】NEW!
・(Lv.38に到達で取得)
・【俊敏性上昇・Lv.3】(Lv.48に到達で取得)
《装備》
・なし
《レベルアップ必要経験値》
・0/3800
《進化》
・Lv.48到達=ワーウルフ/階級F→E
・Lv.55到達/俊敏性500以上/攻撃力500以上=灰狼/階級F→E+
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ほうほう、かなりバランスの良いステータスだ。ゴブリンと似たようなステータスだが、犬の獣人系だけあって俊敏性がよく伸びる。
コボルトを進化させたから、これで三種類のモンスターを進化させたことになる。
三種の進化から学べたのは、基本的に進化の際にステータスは10〜30ほどアップすること。あとは軒並み特殊能力の格が上がり、新しい特殊能力も覚えると。
これは進化させれば必ず起こる結果だろうな。レベルアップじゃないのにステータスが上がるのは嬉しい。
「……特殊能力を進化前に取得させれば、その特殊能力もランクアップしてたか?」
能力レベルをMAXにするのは当然だろうけど、充分あり得るよな。
くぁ〜、勿体ない精神で渋ったのが裏目に出た。一個くらい特殊能力取得させとけば良かったか!
「次は絶対取得させとこッ」
心のメモにそう書き記しておく。どうせ次からはE+級の進化を目標に特殊能力を取得させなきゃいけないしな。
でも折角の進化なのに、試せなかったの勿体ねぇ〜と愚痴りながら、進化した全員のステータスに目を通しているとコボルト・ウォーリアーの【剛力顎】と【鋭い鉤爪】に少し吹き出す。
「人間ぽくなった今に覚えるのかよ、その特殊能力。むしろコボルトの時だろソレ」
コボルトの時の方が犬感強かったのに。
確かに、コボルトの時よりも長く、鋭く、大きくなった爪。身体が大きくなったことでそれに伴い成長した犬歯。あれを強い顎の力で相手に食い込ませれば相当な深傷になるだろうけどさ。
人型に近づいたせいで爪と牙で戦うのちょっとシュールだよな。
新しく覚えた繋がりで、一太郎達の追加された特殊能力【短剣術】の詳細をチェックする。
【短剣術】Lv.1で使える力は“技術洗練”。
効果は、短剣を使う技術の向上……か。確かに、一太郎達の武器の使い方は武器を適当に振るうか刺すかのどちらか。
素人が刃物を待ったらこう使うという典型。
その武器の使い方が上手くなれば、戦い方にも幅が出てくるかもな。なるほど、武器系の能力も結構良い能力かもしれない。
オークが持つ【武器格闘術】は武器装備時に攻撃力をプラスするだけだから、ボタンと猪助にも技術洗練の効果をあげのもアリか。
「……しっかし、次の進化までのレベルが遠いな」
いくら【モンスターマスター】の能力でレベルアップに必要な経験値が減少してるといっても最低でも12はレベルを上げる必要がある。E+級の分岐に関しては20レベ近くだ。
今までの経験上、5の倍数で必要経験値が急増する。
本当ならレベルを上げる為に強いモンスターとガンガンに戦いたいけど、死んだら意味がない。だから余裕を持って倒せる相手を選ぶ。そしたら経験値が少なくてレベ上げが遅くなる……。
「くぅ〜。ふしぎ〇アメか、メタル〇ライムが欲しい」
儚い願望が口から溢れるが、悲しいかなそういったアイテムもモンスターも出たという情報は見たことがない。
地道に上げていく他ない訳だ。
「見た感じ、この中ならカーくんが一番乗りでE級になるな。でもなぁ、カーくんには空を担当してもらいたいし……上板橋ダンジョンに行く道中で飛行系のモンスターが見つかれば捕獲するのもありかな」
飛行系のモンスターは捕獲が難しいし、あんまここらじゃ見ないけど。もし見つかれば、カーくんとすーちゃんがいればなんとかなるだろう。
「よし」
これで今出来ることは全てやった。移動中にいざ何か起こった時の為に回復用ポーションも補充してあるし、食料に変換する為の魔獣結晶も貯めてある。
唯一やっておきたかったのは武器の強化だが、必要な魔獣結晶が取れなかったからここでは断念せざるをえない。
ので、武器の強化は上板橋でやる。
予定通り、明日には上板橋へ向かえそうだな。
まだ見ぬモンスター。ダンジョンへの初挑戦。新しい事づくめだ! 子供のようにワクワクしてしまうが、新しい事とは未知のこと。
そのせいで俺達のパーティが致命的なダメージを負うことがあるかもしれない。
心はホットに、思考はクールに。楽しみつつも侮らない。
とか言いつつ、ワクワクで全く寝付けない俺であった。ワロス。




