第6話〜スキル交換〜
――オーク捕獲から一週間が過ぎ、俺達は……再びオークと相対していた。
「ゴブリン隊! コボルト隊! 離れろ! ブチかませ、ボタンちゃん!」
「ブルァアアッ!」
猪頭のモンスター……オークの注意を引いていた一太郎達は即座に離脱し、一太郎と変わりその巨体をオークに叩きつけたボタン――あの夜に捕獲したオーク(♀)――は、体当たりで勢いよく弾け飛ぶオークへ、手に持った道路標識を使い追撃を行う。
軽々と振られた標識はオークの肩に深々と突き刺さる。
「プギィぃぃアアアッ!ッ!」
奇声にも聞こえる悲鳴をあげるオーク。
動けないと見た俺はすぐさま指示を送る。
「猪助! トドメだ! キツイのくらわせろ!」
「ブルゥッ!」
俺の後ろに控えていた“もう一体のオーク”が勢いよく飛び出し、その太い上腕を飛び出した勢いのまま首に打ちつけ、振り抜いた。
首を刈り取らんと言わんばかりの攻撃。あれが自分の首にぶつけられたらと思うと金の玉がヒュンとなるな。
強烈なラリアットをおみまいされたオークの巨体は、攻撃を食らった首を起点にグルリと回転し、なんの抵抗もなくそのまま地面へ……と思ったら、ボタンちゃんがまだまだ! と言わんばかりに道路標識で宙を舞うオークを強引に地面へと叩きつける。
身体の半ばまで地面に埋没するほどの力。流石はオーク。ゴブリンやコボルトでは出来ない豪快な戦い方だ。
ボタンによりトドメをさされたオークは身体の端から光の粒に変質し、戦いに参加していた一太郎達やヨシコ達に向かい飛んでいく。
光の粒はみんなの身体に溶けるように消えていった。俺の元にも来たが、みんなの量と比べれば月とスッポン。【モンスターマスター】のデメリット故、仕方がない。
そう。察しはついているだろうが、この光の粒こそ“経験値”だ。
戦いに参加すれば均等に分配される。
「オークの魔獣結晶(微小)だけか。しょっぱかったな」
オークが消えた跡には、灰色のビー玉のような石が落ちていた。
基本、モンスターを倒せばこの魔獣結晶が手に入る。運が良ければモンスター固有素材とか手に入ったりするけど、あんまり落ちたことはない。
この魔獣結晶だが、実に多様な使い道がある。
モンスターの力が結晶化した物らしく、数を集めれば武器の生成に使えるらしい。
あとはアイテムを人と交換する時とか、この魔獣結晶を出したりする。今では使われない紙幣の代わりみたいな使い方だ。
一番使用されるのは、この魔獣結晶を複数個消費して食料に変換することだろう。万能アイテム、タブレットを使い魔獣結晶の元となったモンスターの種族に基づく食材に変換する。それが理由で獣人や獣型の魔獣結晶は人気が高い。オークの魔獣結晶は豚肉に変わるからな。
俺の場合はさらに使い道があり、匣水晶の生成にも使う。
あとはそうだな――特殊能力を捕獲モンスターに覚えさせる時とかにも使用する。
【モンスターマスター】という能力は破格の力を有していると常々思っているが、流石にこの特殊能力習得は群を抜いてヤバイと思う。
本来、モンスターが覚える特殊能力は限られている。こればっかりは個体差がない。3体のゴブリンを引き連れているが、全員覚えるスキルは一緒だった。
なのに、俺の特殊能力があればその固定観念を破壊する事が出来る。
これを強力と言わず何を強力と言うのか……とは言ったものの、もちろん簡単に「はい特殊能力覚えてね」とはいかない。
これまたお馴染みのタブレットを操作し《特殊能力交換習得》の項目を画面に映し出す。
ここから魔獣結晶を使い、特殊能力を交換してモンスターに習得させるんだが……。
《身体能力上昇系能力》
・【攻撃力上昇・Lv.1】=要求結晶/〇〇の魔獣結晶(小)×7
・【防御力上昇・Lv.1】=要求結晶/〇〇の魔獣結晶(小)×7
・【生命力上昇・Lv.1】=要求結晶/〇〇の魔獣結晶(小)×10
・――――……。
・――……。
《魔法系統能力》
・【初級魔法・炎】=要求結晶/〇〇の魔獣結晶(小)×12
・【初級魔法・水】=要求結晶/〇〇の魔獣結晶(小)×12
・【初級魔法・土】=要求結晶/〇〇の魔獣結晶(小)×12
……と、中々に結晶を消費する。する割に、メチャクチャ効果が期待出来るかと言われると微妙だ。
普通の匣水晶を作るのにも10個使うし、日常生活にも使う。あまりこっちに魔獣結晶を使えていないのが現状だ。
あともう一つ、今は能力交換をしない理由としては――【モンスターマスター】の特殊能力Lvが低いせいで、より高位の特殊能力を交換出来ない。
貧乏性な俺は「もう少し強い能力が出てからそっちに結晶を使いたい」と思ってしまう。
RPGでも「いや、この街で武器を買うよりも次の街まで我慢して武器を買った方が得じゃないか?」と考えて武器購入を渋るタイプだ。
だから今は温存。この特殊能力交換が存分に力を発揮する時が待ち遠しいな。
「あっ。そうだそうだ。ご苦労さん、ボタンちゃん。猪助」
「プギィ〜」
2匹共、なんてことはないと言いたげに力こぶを作り俺に見せつけてくる。
う〜ん、なんて太い腕だ。その腕でラリアットしたのか? あのオーク、良く首が千切れ飛ばなかったな。いや、マジで。
心なしか自慢気な顔を浮かべているのは、あの夜に捕獲した、ボタンちゃん。驚くことにメスだった。あんなに雄々しい戦い方だったのに。
そして、このボタンちゃんが加わった事で捕獲が一回目より楽になり、捕獲出来た2匹目のオーク、猪助。
この2匹が加わったことにより、安定してF級モンスターも倒せるようになった。
流石はオーク。力こそパワーって感じの脳筋っぷり。実に頼りになる。
ちなみに、F級モンスターであるオークのボタンちゃんのステータスはこんな感じ。
*******************************
・種族名/名前/オーク/ボタン
・性別/♀
・階級/F
《身体的能力》
・Lv.37
・HP2810/2870
・MP0/0
・攻撃力=297(+37)
・守備力=197(+10)
・俊敏性=72
・攻撃魔力=0
・支援魔力=0
・守備魔力=125
《特殊技能》
・【攻撃力上昇・Lv.1】
・【防御力上昇・Lv.1】
・【武器格闘術】Lv.4
・【攻撃力UP・Lv.2】(Lv.45で取得)
《装備》
・道路標識(攻撃力+15)
《レベルアップ必要経験値》
・470/3520
《進化》
・Lv.46到達=ハイ・オーク/階級E
*******************************
流石と言うべきか、素のステータスが高い高い。そりゃあ、そこら辺のG級モンスターじゃ歯が立たない訳だよ。
俺が低レベルの頃から育成してるモンスターが束になってようやく捕獲出来る程度に傷つける事が出来たんだから。
2匹のオークを捕獲してから一週間。その一週間で僅か3レベしか上がっていない。
つまり、俺の能力のステータス上昇補正をほとんど受けていないのにこの数値だ。
育て甲斐があるぜ〜全くよう。
「よ〜し、みんな家に帰るぞー。陣形を整えろ〜。俺を守ってくれ〜」
――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――
最近、帰路も安心して家に帰れるようになってきたな〜と思いつつ家の中でくつろぐ。
流石にこのオンボロ部屋にオーク2体、ゴブリン3体、コボルト3体、闇烏2体は入らないので、みんなには匣水晶の中に入ってもらっている。
一度、匣水晶の中は窮屈じゃないのか? と聞いたことがあるが「全然」と言った感じで頭を振り、自分から匣水晶の中に戻っていったから、それからは気にせず匣水晶へ直行だ。
「ん〜ふふ」
そんな匣水晶を手に持ち、俺は思わず笑みが溢れてしまう。
ついに。ついにッ。ついにッッ――ゴブリン隊とコボルト隊の進化が見えてきたんだ。
一太郎達ゴブリン隊、共にヨシコ達コボルト隊は全員Lv.35。
ゴブリンもコボルトも、次の進化先への必要Lvは36。あと一つレベルが上がれば……はは、苦節一年以上。みんな、進化か。感慨深いな。
ゴブリンは、ゴブリン・エリートに。
コボルトは、コボルト・ウォーリアーに。
オークの2体が加入したおかげでレベリング効率が段違いになったからな。
より戦力が盤石になる。G級の6体が、全員F級になるんだぞ? もう堪らん。これぞ育成って感じよな。
「……本格的に、引っ越しを検討するか」
いつまでもここに居ても、何も変わらないし。
そもそも、今はこの家も安全に暮らせているがこれが永遠に続くかと言われれば分からない。
ダンジョンの侵食は続いていて、少し見ない間に樹木に埋もれているという場所はいくつもある。
ここも、いずれは飲み込まれてしまう可能性は低くない。
なら今のうちに住処を変え、よりレベリングが捗り、手持ちのレパートリーを増やせるような場所に移動すべきだろう。
「しかしなぁ、引っ越しっつってもどこに引っ越すか」
俺が今住んでいるのは練馬区と板橋区との境に近い所だ。池袋までかなりの距離がある訳じゃあない。じゃあ池袋に引っ越しちゃう? と思ってしまうが、都心部のダンジョンが東京タワーダンジョンだけしかないという訳じゃない。中型や小型のダンジョン自体はそこらに転々と存在している。
池袋には大型のダンジョンがあり、東京タワーダンジョンとまではいかないが難度は高い。
ダンジョン攻略に日々勤しんでいるであろう攻略者の方々の会話を盗み聞きしていた時、一度だけ池袋まで行ったという人の話を聞いた事がある。
ここら一帯とは比べ物にならないくらいモンスターが闊歩している。
最低でもF級が数体、群れで。D−級も数少ないがダンジョン内ではなく街中で見かけたと。
う〜ん、無理ぽ。魔都・池袋。到底、今の俺が行っていいレベルの場所じゃない。
そもそも、今までダンジョンなんて一度も挑戦したことないからな。
幸いと言うべきが、俺が住む一帯にはダンジョンが存在しない。厳密に言うとありはしたが、小型だったらしく特殊能力に目醒めた人達が攻略したらしい。
攻略されたダンジョンは攻略された数日後に“経験値”に変わり跡形もなく消滅するらしく、そのダンジョンから出てきていたモンスターが出現しなくなったので、俺が住むここら辺はずいぶんと平和になった。
今でもこっちに現れるモンスターは隣の板橋区にある中型のダンジョンから出てきた奴等が、こっちまで流れ込んできている状態だ。
「……ダンジョン、ねぇ。いずれは挑戦したいし……板橋の方に引っ越すか?」
すごく遠いという訳でもないから、道が樹木に侵食されているといっても、一日くらいかければダンジョンの近辺には着くだろう。
行くことは出来るそうだけど、ダンジョン近辺に住処になりそうな場所があるかどうかが懸念点だ。
この家クラスは望めないにしても、安心して夜を明かせる場所は欲しいところ。
「ん〜、そればっかりは行ってみなきゃ分からないか。とりあえず情報を集めつつ、みんなの進化が先だな」
当面の目標も決めたことだし、さっさと寝て明日に備えるか。
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