第5話〜作戦……〜
夜の街を、慎重に進んでいく。
俺を中心にして、前をゴブリン3体。後ろをコボルト3体の陣形を崩さないように。
コボルトは二足歩行の人型に近しいモンスターな為、その鼻も人間より遥かに効く。
前は闇烏の2体が警戒しているから、後ろはコボルトの鼻を頼りにしている。
野生のモンスターは血生臭いので、犬の鼻なら簡単に察知できる。
現に、危なげなく俺達は夜の街を散策出来ていた。
外に出て30分が経過して、戦闘は3回。いずれも複数のゴブリンだったが一太郎達は同級のモンスター程度ではもう手間取らない。
3体は瞬時に包丁を構え、ゴブリンの喉を刺突。そのまま横なぎに包丁を動かし、首を跳ね飛ばしていた。
見事な瞬殺。捕獲したての頃は苦労したもんだが、こうやって目に見えて強さが変わると育てた側からすると嬉しいなぁ……。
しかし、強くなってきたからこそレベルが上がらなくなってきた。
より安定してレベ上げを行えるように、F級モンスターを狩りたい。だからこそF級を仲間にする。
銃を相手にするなら、こっちも銃を持てば良いって考え方よ。
ただその銃相手に、最初だけは包丁で挑まなくちゃならんのが……。
「――おっ! きた!」
頭上を飛んでいた闇烏のスーちゃんが4回旋回した。これは“オーク”がいるという合図。
先に飛んでいるカーくんまで、あまり距離はない。意外と近くにいるな。
「みんな、家の敷地に入れ。家の塀を超えながら近づこう」
俺の指示に頷き、いそいそと家の敷地内へ。
数軒の塀を超えると、空を飛ぶカーくんがすぐそこにいた。
もう、だいぶ近いぞ。
コボルトのヨシコに「オークの匂いは近いか?」と聞くと静かに頷く。続いて「数は?」と聞くと指を一本だけ立てる。
「周りに他のモンスターの匂いは?」
3体とも首を横に振る。
「当たりだ……! 神様仏様、どうか無事に事が終わりますように! まずは俺がどうなってるか見るから、合図を出し次第突っ込んでくれ」
「ギッ」
「ワフッ」
まず先に、塀に空いた隙間から状況を確認。
俺達から数m先。止マレの道路標識を肩に担いだ猪頭で毛むくじゃらの巨体が、道路に腰を下ろして休んでいた。
生意気にも毛布を雑に破き服にして着てやがる。そんなに毛深いんだから寒くないだろう……。
だがそんな事はどうでもいい。またとない大好機ッ。無防備も良い所だ!
「行け行け行け! コボルト隊は頭を狙いカラーボールを投げろ! 今がチャンスだぁ!」
「ギギギギィィッッ!」
「アォォォオンッッ!」
全員で塀を勢いよく超えて、オークに駆け出していく。
突然の強襲に反応出来ていないオークは、立ち上がれずに呆然と俺達を見ていた。
それを見逃すコボルト隊ではない。一斉にカラーボールを投擲。
見事三球全て顔面に直撃した。
「ブルォォアアアッ!」
これは堪らないと目を擦り、少しでも塗料を落とそうとする。その手から、思わず道路標識――武器を手放した。
「ッ! 隙ありィ!」
掌より少し溢れるサイズの石、もはや岩石と言える物を俺は全力で投擲。
最高球速154km(バッティングセンター調べ)を誇るこの強肩が唸る! 誰が呼んだが、学生時代のあだ名は根暗超人! 身体能力には自信があんだよぉ!
卓越したコントロールでオークの顔面を捉える岩石! 鈍い音を響かせるが、恐らくあれでもダメージはないのだろう。きっと衝撃があるだけで、小石が当たったくらいにしか思ってないはず。
「ただ、ヘイトがこっちに向けばこっちのもんだ!」
「ブフ、ブグル、グルルルッッ……!」
ワナワナとその身を震わせて、塗料混じりの血走ったその目でこちらを睨むオーク。
ヒィ〜ッ! 怖ぇ〜ッ! だけど、俺だけ見てると痛い目にあうぞ!
「ギギィ!」
「ブルァッ⁉︎」
ゴブリン隊が膝に深々と包丁を突き刺す右膝に2本、左膝に1本。包丁の半分以上が埋まっている。
それでもなお、オークは膝を着かない。
「マジで言ってんのか……? ええい、構うな! 刺せ、刺せぇ!」
「ブルァアアアッ!」
危険を感じたのか、オークは一切周囲を見ずに両腕を適当に振り回した。
野太い風切り音が、数m離れている俺の耳にまで届いてくる。
ど、どんな力で振り回してんだよ! あんなのに当たったらいくらHPがMAXでも瀕死域まで一瞬だろう。
「舐めんな豚頭! お前は! 俺の! 仲間になんだよォ!」
高速で振り回してはいるが、結局は2本の腕。絶対に腕がない空間が存在する。
俺はその空間を狙い、岩石を投げつける。投げつけ、投げつけて、投げまくる。
何発も岩石を当てられ、嫌がるように腕で顔前方を隠したオークは6体のモンスターに大きな隙を晒す。
「フグォ……ッ!」
オークは俺に意識を向ければ、コボルト隊が顔に包丁を迫らせる。それを避ければ、他の五体が執拗に脚を滅多刺しする。
一太郎やニノ助が腹部に攻撃を何度か試しているが、分厚い脂肪と筋肉、剛毛が鎧となり傷という傷は出来ていない。
やっぱり今の攻撃力では筋肉の薄い関節部分や腱しか狙える所はないかっ。
「――ッッ! 全員退避ッ! オークから離れろ!」
「ギギ!」
「ワン!」
俺の指示に即反応した6体はすぐにオークから離れ、俺の元に集まる。
「グルァァァァァアアアア!」
6体が足元から消えた刹那、オークは両掌を合わせ指を絡めると、そのまま地面に振り下ろした。
ボガァァ……ンッッ!
強烈な破砕音と共に、飛び散った石礫が俺達を襲う!
腕でガードをしながらオークに目を向ければ、その足元に子供一人は埋められるであろう大穴が土煙を立てていた。
「……マジぃ?」
オークは膝に突き刺さる包丁をモノともせず、大股で歩き……自分の武器である、道路標識を手に取った。
その目に、怯んだ様子はない。血走った目で、恐ろしいまでの殺意だけが感じられる。
「……気を引き締めろ! 死なないように、ヒットアンドアウェイだ! 斬ったら引け! カーくん、スーちゃん! 周囲の警戒を継続! 俺! 生きる!」
俺達の戦いは、これからだッッ!
――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――
「はぁ……はぁ……お前ら、大丈夫か?」
「ギィ……!」
「ワフン……!」
どれほど、戦っただろうか。
辺りを見れば、民家の塀は壊され、随分と見渡しの良い光景にされてしまった。コンクリートの地面は深々と抉れた傷があちこちに散見される。
ダンプカーが転倒事故でも起こしたのだろうと思い込んでしまうくらいの惨状だろう。
この光景を、その身体一つで作った張本人であるオークは……。
「ブフゥ……ブフゥ……!」
片膝を着き、ようやく疲労の色が見えていた!
「長いんだよ豚野郎ッ」
こっちの6体も疲労困憊。全員が肩で息をしていて、それは俺も同じだった。
だが、それも終わり。ここまで疲労させれば、充分だろう。
ポケットから新品の匣水晶を取り出す。大きく、ゆっくりと、振りかぶる。
「さぁ〜、ようこそ。智のパーティへぇ! いらっしゃ〜い!」
振りかぶった腕を、勢いよく振り下ろす。
最高球速154km(隙自語)の剛腕から投げられた匣水晶は寸分違わずオークに命中。
「ブルァッッ」
匣水晶から放たれる光がオークの身体を覆い尽くし、水晶の中へとその巨体を吸収する。
オークを吸収して水晶は僅かに揺れ動くが、数秒もすればその動きも止まった。
捕獲、成功だぁッ!
「よっしゃあ! ミッションクリア、俺達の勝ちだぁ!」
「ギギギィ!」
「アオン、アオォオオオン!」
6体全員と手を繋ぎ、輪となって喜びを共有する。
マジで長かったぁ! タフ過ぎるだろあの猪頭! 時計を見れば、22時を過ぎて長針が10を刺そうとしていた。
オークを見つけたのが21時30分頃だったから、40分近く戦っていたことになる。
「激戦過ぎるだろ……」
ハァ、と大きく息を吐くと充足感が胸に溢れる。気分の良い疲労を噛み締め、オークを捕獲した匣水晶を回収に行こうとしたら闇烏のカーくんとスーちゃんが水晶を回収して持ってきてくれた。
「おお、ありがとうカーくん、スーちゃん……ん? これは、血?」
良く見るとカーくんとスーちゃんの足とクチバシには血が付着している。
確認してみれば、カーくん達の経験値が戦闘前より増えていた。
「40分間戦ってて、そりゃあ他のモンスターが寄ってこない訳ないわな。ありがとうな。お前達が警戒してくれたおかげで、オークにだけ集中出来たよ。そのおかげで、これからはもっとレベ上げが捗るぞぉ」
肩に乗る二羽の背を撫でると「ガァー」としゃがれた声で甘えてくる。
ハッハッハ、愛い奴め。
「さぁ〜、目的は達成したけど、急いで帰るぞ! モンスターが活発な夜なことには変わりないからな!」
「ギィ〜」
「アォン」
え〜……という雰囲気を醸し出す一太郎達の背を押して、俺達は無事帰路に着く。
さぁ〜……これでやれる事が増える、増えるぞぉ!




