第43話〜希望〜
「……その、悪魔が天使に負けたんだとして。なんで天使は一年以上もこの世界に攻めてこないんだ? ダンジョンが現れて、俺達が特殊能力に目醒めてから時間は経ってるぞ」
「天使が来ないのは、まだ世界が戻っている最中だからです。悪魔は幾重にも結界を張ることで世界を隔離し、分けました。例えるなら、私達の住む世界の上に何枚も何枚もシールを重ねて貼っている状態です。そうやって私達の世界の姿を隠していた。しかし悪魔が倒れた今、そのシールは力を無くし一枚、また一枚と剥がれていく……今はその最中なんです。いずれ、この世界を隠すシールがなくなり発見されるでしょう」
「それまでの時間は……?」
「わかりません……教えてくれたのは過去のことです。今起きていることに関しては私達で調べるしか」
「タイムリミット不明なのに、タイムオーバーしたら滅亡エンドか……クソゲーだね」
吐き捨てるように言い、ヤケクソ気味にコップの中の紅茶を一気に飲み干す。
世界中にダンジョンが現れ、モンスターが溢れかえった。それでも自分の能力と仲間達を信頼し日々レベ上げだ〜アイテム集めだ〜と呑気に生きてきたけど……この話を聞いて呑気にスローライフは出来そうにない。
てか、天使強すぎじゃねぇ? 文字通り破格の特殊能力である【ダンジョンマスター】や【モンスターマスター】を所持していた昔の人が敗北を悟り、その能力を差し出してまで契約した悪魔を倒すとか……敗色濃厚という四文字が頭に浮かび上がる。
「希望はありますっ」
力強い言葉に、ネガティブな思考が一瞬で取り払われる。
「昔の人々は最初から天使の相手をしなくてはいけませんでした。でも私達は違います。時間は不明ですが、天使を気にせずに戦力を補強する時間があります。昔の人々はゼロから作っていたダンジョンも、今の私達には超大型含めて数多くのダンジョンが残されている。土台が整っているんです、私達は」
「……確かに。「それに」……?」
「言っていませんでしたが『ダンジョンシリーズ』は私達2人の【モンスターマスター】と【ダンジョンマスター】の2種類だけではありません。全てで6種類。つまり、あと4人のダンジョンシリーズを持つ強力な仲間が居ます」
「こんな特殊能力をあと4人も持ってる奴いるのッ⁈」
ダンジョンを創る能力に、モンスターを捕獲し進化させる能力。
今の日本に住む人間に言ったら卒倒しそうな能力に並ぶ奴等が、あと4人? 心強い言葉に思わず気持ちが昂るが、すぐに思考は冷えてネガティブな方へと向かってしまう。
その能力を持っている6人ですら勝てなかったんだろう、と。
しかし、母浄さんが言う通り俺達は土台が整っている。
希望は全くない、とは言い切れないだろう。
「じゃあ、その残りの4人をこれから探すのか?」
「いえ──あと2人です」
「2人?」
「はい。さぁ! そろそろ入ってきてもらって大丈夫ですよ!」
母浄さんが扉に向けて呼びかけると、扉が開き1人の男と1人の女が部屋の中へ入ってきた。
「うす! どうも、器部鉄平と言います! 16歳です! 持ってる特殊能力は【ウエポンマスター】! 同じダンジョンシリーズを持つ者同士、仲良くしてください! おなしゃす!」
90度腰を曲げて快活な挨拶をしてくれた器部という子は、身長が高く、ガッシリとした体格だ。黒い短髪はツンツンと逆立ち、ニコニコとずっと笑みを浮かべているのを見ると凄く純粋な子なんだと分かる。
器部くんに続くように、黒いセーラー服を着る女の子も自己紹介をはじめた。
「鷹虎竜子。18。特殊能力は【ダンジョンガーディアン】。よろしく」
鷹虎さんは顔を少し頷けせる程度の会釈をして、そそくさと母浄さんの隣に歩きすぐに腰を下ろす。
そんな彼女に何も言わず母浄さんは笑みを浮かべて、紅茶の入ったカップを差し出していた。
薄縁の眼鏡の似合う、無口な人かな? 物静かな雰囲気でクールという言葉がピッタリだ。
右目の下にある泣きぼくろとか超セクシー。とか思いながら顔を見ていると、
「……なにガン飛ばしてんだよ、あ?」
「へ、え、え? いや、別に睨んでないです。はい」
「ちっ。年下に敬語使ってんじゃ……んん、良いですよ、別に敬語じゃなくても」
クールな表情から急変し、眉間に深いシワを刻んで俺を睨みつけてくる鷹虎さん。
ドスの効いた威圧に完璧に怯んだ俺は自然と敬語で謝ってしまった。
それが逆効果だったのかさらに苛ついたような声音で喋るが、我に帰ったかのように淑やかになり、態度の寒暖差に唖然としてしまう。
そんな俺を見てクスクスと笑いながら器部くんが俺の隣に座る。
「へへ、鷹虎先輩ね、クールで淑やかな人に憧れてるらしいんスよ。でも短気なうえに元ヤンだからすぐキレちゃうんです」
「おいクソガキ、五厘刈りにされたいのか……しら?」
「ひぃ、すいません鷹虎先輩っ」
突然現れた2人に、まだ理解が追いついていなかったのか自分だけなんの紹介もしていないことに今気づいた。
これはいかん、1番年上の俺がしっかりしなきゃいかんだろう。
「ごめん。俺の紹介がまだだったよな、俺は暗内智。「……さっき潤実さんと話してるの聞いたから、良いですよ話さなくても。よろしくお願いします」……はい、よろしく」
「よろしくっす! 暗内先輩!」
鷹虎さんへ若干の苦手意識をすでに抱えてしまっているが、母浄さんに目を向けると可愛らしいウインクを貰う。
表情から察するに、すでに仲間は見つけていたんですって感じか。
「この2人も、超大型ダンジョンの最奥地に辿り着き私と同じ知識を授けられています。そして、最奥地に辿り着いたら……ダンジョンシリーズを持つ者同士、タブレットで連絡が取り合えるようになるみたいで。最初は竜子ちゃんから連絡が来て、その次に鉄平くんから。互いに交流を続けるうちに、私が【モンスターマスター】を持つ暗内さんを見つけたから東京に来て欲しいと呼んでおいたんです」
「暗内先輩の少し後にダンジョンへ入ったんですけど気づきませんでした?」
「いや、気づく訳が……あ、いや」
ヨシコが何かに気づいたような素振りを見せていたな。誰かがダンジョンに入ってきたのかと思っていたけど、この2人だったか。
確かに同じダンジョンシリーズを持っている2人なら危険は感じないわな。敵意はないから。
「……あれ」
そういえばこの2人が入ってきてもやけに静かだったな……センセー。
気になり隣を見ると、センセーはコップに口をつけて……動かない?
何秒経ってもピクリともせず、コップから口を外さない。
器部くんも気になるのか、チラチラとセンセーに視線を向けている。
流石に自己紹介をするこの流れ、ここでセンセーが変な人と思われるのも悲しいので、センセーの肩を揺すると、
「……」
「え」
力なく、倒れるセンセー。
場に訪れる静寂。
ゴクリ、と唾を飲み込む音だけが耳に残る。
恐る恐る、俺の隣に座る器部くんが呟いた。
「──し、死んでるッッ」
「いやんな訳あるかい」
読んでくださり感謝です!
タイトルなんですが、なろうで書くなら長文タイトルかな?と思いつけてたんですけど、長いわ〜と思ったんで少し短くしました。




