第41話〜母浄潤美〜
お喋り開始……の前に「2人にもお飲み物を」と俺達にもお茶をくれた。
指を弾き、パチンと軽い音を鳴らすと2つのコップが現れ、その中には湯気の立つ淹れたての紅茶が。
「これも特殊能力?」
「ダンジョンの中限定、と付きますけどね」
ちゃんと美味しいですよ、と証明するように笑顔でそれを飲む母浄さんにつられるように俺も一口。
……う〜ん? コンビニの紅茶しか知らないから、これが美味いのか否か。
さも美味いという顔をしているが、よく分からんというのが本音だ。
「えっと、じゃあ美味しい紅茶もいただいたところで……本題に行ってもいいかな?」
「はい、どうぞ。普通の人間との会話は久しぶりです。存分に」
不純物の混じっていない笑みを向けられ、思わずたじろぐ。
長いことセンセーとしか密に接していなかったから、こういう明るいタイプの耐性が下がってしまっている。
そのセンセーはと言うと、エヘエヘと掠れた笑い声を出しながら紅茶だけを啜っている。文字通りの戦力外。気を失っていないだけ良しとしよう。
俺がやらねば。
「えっと、とりあえずちゃんと自己紹介を。俺は暗内智。22歳。知って通り、【モンスターマスター】の特殊能力を持ってる。隣の人は萌美優理。数ヶ月一緒に活動してる仲間で、俺の敬愛する作家さんだ」
「ど、どど、どぅも……」
「よろしくお願いします、暗内さん。萌美先生」
「あ。聞きたいんだけどさ、さっき萌美センセーのことを極度の人見知りって言ってたけど……なんで分かったのかな?」
「私の特殊能力は、ダンジョンの中にいる人間を指定して身体能力、所有特殊能力以外のステータスと、ある程度の個人情報をタブレットで見ることが出来るんです。そこに人見知りとあったのと、状態異常【恐怖:対象・人】というバッドステータスがあったことから、デバフになるくらい人が怖い、極度の人見知りと推測しました。数ヶ月一緒に活動している暗内さんにもオドオドしているのを見て、確信に変わりました」
淡々と語る母浄さんの言葉に、口元が引き攣る。
なんだ、その問答無用でステータスを盗み見る能力。ヨシコ達に気付かれていなかったってことは、能力使用は俺達に近づかなくても使えるってことだろ? 恐らく効果範囲はダンジョン内部全域。
母浄さんはそんな俺の表情を読み取ったのか、慌てて否定する。
「あ、違います違います。勿論、複数の条件をクリアする必要があります。絶対の条件として、私がダンジョンの最深部に辿り着き、ダンジョンボスを倒してダンジョンの支配権を獲得しないと【ダンジョンマスター】の効果を十全に発揮させられません」
「あぁ、ダンジョンの中に居れば無敵の能力なのかとばかり」
「簡単に無敵にさせてくれるなら苦労しませんよ」
そりゃそうだ。俺の【モンスターマスター】も面子が整うまでかなり苦労したし。
【ダンジョンマスター】はその条件を整えるまでが苦労すると。
「【ダンジョンマスター】の力の一端を話したついでに、私のお話をしてもよろしいですか? 私ばかり一方的に暗内さんや萌美先生のことを知っているというのもフェアじゃないですものね」
手に持っていた紅茶のカップを置き、コホンと軽い咳払いをひとつして優しげな笑みを真面目な表情に変えて話はじめた。
「改めまして、母浄潤美と申します。私立アリス女学院の2年生でした」
「アリス女学院? 神奈川の名門女子校じゃん。やっぱりお嬢様だったんだな」
「ふふ、もう何も残っていないですけどね。久しぶりに母校へ寄ってみたら、瓦礫の山に緑が生い茂っていました。こうなってしまっては名門校の名前も歴史も何の意味もないですよね」
フフフ、と口を隠しながら笑うが、なんともまぁハッキリとした物言いが気持ち良いな。
お嬢様っぽいほんわかとした雰囲気の中に鋭い刃のような芯を感じる。
「……ん? あれ、スカルグレイス。お前、白神山地で助けてもらったって言ってたよな?」
「ハイ。白神霊峰ダンジョンノ近クデ。“攻略ニ来テイタ”ンデスヨネ?」
「はい。そうです。ダンジョンに呼ばれたというか……あっ、ちなみに白神霊峰ダンジョンは“超大型ダンジョン”ですよ」
「へッ……超大型⁉︎ いや、てか、白神山地って青森県あたりだろ? 神奈川の学校に通ってんのに、どうやって行ったんだ? 交通機関なんて使えないだろう」
「ふふん! 自慢ではないですが【ダンジョンマスター】はダンジョンの中でしか活躍出来ない能無し特殊能力ではありません。強力な付与師としても戦えます。【速力強化】や【体力上昇】などなど」
えぇ? やれること多くね? ダンジョンマスターとか名乗ってるくせに付与も出来んのかい。
……いや、俺が言える立場じゃないか。俺とかやろうと思えばどんな特殊能力でさえ与えることが出来るし。
魔法使いも、付与師も、剣士も僧侶も、育てようと思えば俺は育てられるからな。
改めて感じる【モンスターマスター】の汎用性の高さ。
「え〜、白神山地、いや白神霊峰ダンジョンへの行き方はわかった。入ったのか? 実際に。ダンジョンの中へ」
「入ったと言うより、クリアしてきました」
「く、くく、クリア⁉︎ 1人でどうや「正規ルートでは無理でした! 悔しいですが、短縮ルートを使ってのクリアです」……短縮?」
「はい。その話の前に、私からひとつ質問をしてもよろしいですか? 暗内さんは、【モンスターマスター】という特殊能力を、凄く強力な特殊能力と思ったことは?」
「常に思ってるよ。破格だ、と。モンスターさえ捕獲出来て環境さえ整ったら、正直なんでも出来るとさえ感じてる」
「そうですよね。その通りなんです。その認識で間違っていません。正真正銘、私達の待つ【ダンジョンマスター】、【モンスターマスター】は規格外の特殊能力です。なぜなら、この2つの特殊能力は『ダンジョンシリーズ』と呼ばれる“世界を護る方達が持っていた特殊能力”だからです」
母浄さんが話すほど、先程までのほんわかとした空気は消え去り、ピンと張り詰めた雰囲気だけが場を支配していく。
ダン、ダンジョンシリーズ? 世界を護る? あれ、俺が今いる空間はゲームのチュートリアルかな? 世界観の説明かな? と思えるくらいには、突拍子もない名前が飛び出してきていた。
「さっき言った短縮ルートとは、この『ダンジョンシリーズ』を持った人間しか使えないみたいです。最初は普通に攻略しようとしたんですけど、白神霊峰ダンジョンからタブレットに通知が届きました。ダンジョンシリーズを持つ者を確認したから、規定ルートの攻略ではなく、裏ルートを進め……って」
「すまん、ダンジョンシリーズとか世界を護るとか新たな情報が飛び込んできて軽くパニックなんだが?」
「あっ、すみません。そうですよね……でも面白半分で言ってる訳じゃないのは分かってください」
「いや、まぁ……うん。OK、落ち着いた……その、俺達が持ってる特殊能力が、世界を護る奴等が持ってたものってのは?」
「……そう、ですね。先に言っておくんですが、私は正気です。神も信じていません。どちらかと言えばリアリスト側の人間です」
「ああ、了解。それで?」
「暗内さん──天使の存在を信じますか?」
読んでくださり感謝です。
文字数ですが、良い感じに収まったのがここまでだったので申し訳ないですがここまでで……。




