第40話〜ダンジョンマスター〜
「……ダンジョン、マスター?」
おいおい、なんだか凄い名前だな。
はじめて聞く特殊能力なのに、俺ってば若干のシンパシーを感じたよ。
特に“マスター”ってところに。
名は体を表すとは言うけど、この特殊能力にもそれが当てはまれば……強い、のか? 力の強大さは感じるが、その詳細をイメージ出来ない。
いったいどんな力を、
「──ダンジョンヲ、創レルソウデスヨ」
「……なに?」
「アトハ、既存ノダンジョンヲ“成長”サセルトカ。我ガマスターハ、見覚エガアルノデハ? ダンジョンノ、鼓動。新タナ姿二成長スル、ソノ瞬間」
「鼓動……? まさか」
上板橋ダンジョン、奥地で起きた謎の大地震。心臓のように鼓動するダンジョンに、赤黒い霧……そして、見知らぬダンジョンへの転移。
それが……ダンジョンの成長?
思わずセンセーへと顔を向け、視線で語り合う。
戸惑ってはいるが、センセーは静かに頷いた。
「あれが、成長……? あ〜、待ってくれ。情報の提供過多だ。一回整理させてくれ……」
ダンジョンを、創れる? 流石にそれは特殊能力の枠に収めて良い能力か? 俺の能力も大概だけど、ダンジョンを創れるうえに今存在するダンジョンを成長させるって? どう解釈しても規格外だ。
だって、そのダンジョンを攻略する為に数多くの人間が日夜戦っているんだぞ。
悪く言えば、世界の敵を創造する能力ってことだ。
俺もモンスターを捕獲するが、元から存在しているモンスターを味方にする。決して無からモンスターを創れる訳じゃない。
しかし、スカルグレイスの言う【ダンジョンマスター】は創れる。
“創造”という力は次元がひとつ違う。0から1にする、そういう能力はどんな漫画やゲームでも“壊れ”って決まってるんだ。
とてもじゃないけど、私はこんな能力を持ってますと軽々しく教える代物と思えない。
なのに、なんでそんな情報を容易くスカルグレイスに与えた? 特例種で知能が高いとはいえ、たかがモンスターだぞ。
現に、【ダンジョンマスター】という特殊能力があることを俺に教えてしまったじゃないか。
「なぁ、そんなとんでもない情報を簡単に教えても良かったのか? 気付かぬ間に殺されてるとか嫌だぞ俺」
『そんなことはしませんよ』
「ッ‼︎」
突如、聖堂に響き渡る女性の声。
すぐに辺りを見回すがそれらしき影は……ない。
スピーカーを通したかのような声からして、この場にはいない?
【ダンジョンマスター】だからダンジョン内なら好き勝手出来ますってか?
『ふふ、申し訳ございません。こちらに敵意はない……と言っても、簡単には信じていただけませんよね。でも、私の特殊能力の情報を開示したということで多少は信用していただけませんか?』
「……身の安全の保証がない」
『攻撃をするつもりなら、このダンジョンの中に居る時点で仕掛けています。今、何の攻撃もしていないということが保証と受け取ってください』
「……ここには来れないのか?」
『ゆっくりお喋りが出来るよう、部屋を用意してあります。入口は、後ろに』
「!」
振り返ると、木製の扉1枚がそこに。
聖堂のど真ん中に、ポツンと孤立する扉の場違い感が凄まじい。
あれで色がピンクだったらどこで◯ドアじゃん。
『そちらの扉を開けてもらえれば、私のいる部屋に入ることが出来ます』
「わかった」
会話は終わりとばかりに、女の声は響かなくなり辺りがシンと静まりかえる。
ただジッと扉を見つめ、本当に入って良いものかと悩む。
「なぁ、スカルグレイス。その【ダンジョンマスター】は信用出来るのか?」
「私ハ信用シテイマス。白神霊峰ダンジョンデ死二カケテイタ所ヲ、助ケラレマシタカラ」
「白神霊峰?」
「昔ノ名前ハ、白神山地トイウ場所ラシイデス。恐ラク、ソノ話モシテクレルノデハナイデスカ? アノ方モ、オ喋リガ好キデスカラ。東京二来ル道中、色ンナ事ヲ教エテクダサイマシタ」
スカルグレイスの話だけを聞くと、良い人なのかもしれないけど……実際に見てもないのに信じ切るというのは流石に出来ない。
「みんな、水晶の中へ。もし何かしてきたらすぐに水晶の中から飛び出して攻撃を……あ〜いや、さっき言われた通り、ダンジョンの中に居る時点で不利なんだよなぁ」
この場所は【ダンジョンマスター】の掌の上。どれほどの力を有しているかも分からない、特殊能力を持った人間の掌の上、か……アカン、詰みや。向こうの話に乗っかるしかないか。
とりあえず、スカルグレイスだけを残して他のみんなを水晶の中へ入れ扉の前へ。
「スカルグレイスが開けてくれるか?」
「ハイハイ、了解デス」
なんの躊躇いもなく開けたスカルグレイスに「マジかお前」という気持ちが浮かぶが、時間をかけてもしょうがないからな、と渋々気持ちを切り替え……【ダンジョンマスター】の待つ部屋の中へ。
「おじゃましま……す?」
「ふふ、いらっしゃいませ。あまり綺麗な場所ではないですが、好きな所にお座りくださいな」
扉の向こうには、“女の子”の部屋が広がっていた。
桃色に彩られた空間に、思わずたじろぐ。
桃色のカーテンに、薄ピンクのベッド、女児に人気のマスコットキャラクターの人形がベッドや棚に所狭しと飾られている。
その部屋の主人は、のんびりとお茶を飲んでこちらに笑みを送っていた。
「はじめまして、【モンスターマスター】の所有者さん。私が【ダンジョンマスター】の所有者、母浄潤美です」
黒い長髪を指ですくい、耳にかける動作に隠しきれない上品さを感じる。
浮かべ慣れた社交的な笑み、整った顔立ち。伸びた背筋に女性らしい身体付き。
醸し出すこのオーラ……こ、これは世に言う“お嬢様”という奴では?
ウチのセンセーが出す陰のオーラとはかけ離れた陽の気をこれでもかと感じ、ハッ!
「センセー! 落ち着け、気を確かに……て、アレ?」
「……は、はれ? さ、智さん……! ひ、人の前っ、なのに、し、正気が……!」
いや明らかに手は震えているけど、俺とはじめて会った時と比べたら、凄く落ち着けているセンセーの姿がそこにあった。
人の影を見かけただけで震えていたあのセンセーが、自分と同い年くらいの女の子と対面して意識を保っていられるなんて……!
「フフ、貴女のことも見ていたので知っていますよ、萌美先生。極度の人見知りとお見受けしましたので、この部屋には【静心活心】……心を落ち着けて、気分を良くする精神作用のあるバフをかけてあります。アロマのようなものです……けど、それでも完全に落ち着けられませんでしたかぁ」
目を見開き、物珍しいといった目でセンセーを見つめる【ダンジョンマスター】こと、母浄さん。
この人、俺とはじめて会った時のセンセーを見たら目ん玉飛び出るんじゃないかな。
俺は出かけたね。いきなり飛び出てきた人間が目の前で震えて大の字に倒れたんだから。
とりあえず、立っていてもはじまらない。
震えるセンセーをサポートしながら、母浄の座るテーブルの前に腰を下ろす。
スカルグレイスは俺達が座るのを確認してから、俺の隣へ座った。
そんな俺達に人好きのする笑みを浮かべて、母浄さんは語り出した。
「それでは、楽しいお喋りといきましょう。きっと気になることが沢山あると思いますから、じゃんじゃん聞いてください。全てお答えしますよ」
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次の話は文字数多くなるかもしれないです




