第37話〜一撃〜
まずひとつ、クラウングレイスの行動で分かったこと。
奴は骸歌、魔法を唱えている時に動けない。骸歌を唱えながら魔法を撃つという、強力な同時攻撃を仕掛けてこないのはソレが理由だろう。
センセーの矢と魔法を避ける時にわざわざ骸歌を中断してまで避けたことから、骸歌を唱えながらの行動を取れないのはほぼ確。
魔法に関しては確信している。
さっきの黒弾も、撃ったと同時に俺へ迫っていればヨシコの一撃すら入っていなかったはずなんだ。
俺の眼は、ちゃんと捉えていたぞ。魔法を使用した後の、僅かな動きの静止を。
クラウングレイスには、魔法使用後に僅かに動けない時間が存在する。
だから、ヘイトを分散させる役割のグラスボーンを呼び出す。
だから、必要以上に俺達との距離を詰めない。
俺を先に狙ったのは、俺が思う以上にみんなを強く纏め結束させる先導者という存在を嫌がったから。
見えてきたぞ、クラウングレイスというボスモンスター……その攻略法。その兆しが。
戦闘スタイルとしては見た目通り、近距離には強くない。ヨシコの一撃を受けて飄々としていたからC級モンスター相応の防御力は持ち合わせている。
でも、そこまで高い数値じゃあないだろ? 嫌でもステータスは伸びる物と伸び難い物の2つに分かれる。
一太郎達はバランス型ゆえにステータス自体が伸び辛く、ヨシコ達は攻速に優れ守が劣る。
クラウングレイスは魔法と速度に優れているタイプ。守備力も相応にあるが突出はしていない。
そして、主要となる戦闘法が魔法頼りなのならば──俺達を倒すより先にMPが枯渇する。
戦いが長引けば長引くほど、不利になるのはクラウングレイスの方だ。
それに気付かれるのが嫌だからってのも、先導者を狙う理由だろう。
もうひとつは分かったと言うより推測だが、グラスボーンが呼び出される初期位置はクラウングレイスの周りにしか指定出来ないんじゃないかと思う。
自分の周りに呼ぶ必要がないのなら、俺達の足元へ呼んで爆散させられるはずだからな。
わざわざ自分の元へ呼び、自分で投げるなんて手間をかける必要はない。
思えば、奴は俺達と距離を置いた場所でしかグラスボーンを呼び出していない。
一番足の速いヨシコ達ライカンスロープでも一瞬では辿り着けず、魔法を撃たれても見てから避けられる絶妙な位置取り。
近づかれるのを嫌う奴の典型的な立ち回りだ。
奴の言う「能力の使用中に攻撃を仕掛けるのは無粋」っていうのは、もしかして何かしらの示唆なのか?
……いや、分からん。それはクラウングレイスのキャラかもしれん。
とりあえず俺が気付いたことをみんなと共有し、積極的にクラウン・グレイスに“接近戦”をしかけようと提案する。
「グラスボーンを呼ばれても、自分が間近にいるのに骨の散弾は使ってこない。弾けるっていう性質上、自分が近くにいると巻き込まれるからな。魔法の後隙もある。ようは、近づけば俺達ガン有利ってわけ。極論、クラウングレイスに接触出来る距離に居るならグラスボーンは放置で構わない」
ていうことだから〜……走ろうか?
「行くぞオラァァァァアアアア!」
俺の声を合図に、全員でクラウングレイスへ向かい走り出す。
迷うことなく一直線。骸歌を唱えようとしても無駄だ! 遠距離攻撃を出来るのは自分だけのお前と違い、こっちには1人と2体いるんだからなぁ!
一番最初にセンセーの攻撃を掻き消せたのは骸歌を唱え終わっていたから。唱えている最中なら、奴は避けざるを得ない。
「クッ……!」
速さを活かし、俺達と距離を取ろうとするのを先読みしてカーくん達に魔法を撃たせることで進行方向を制限させ、俺はクラウングレイスの逃げる方向を誘導させる。
無論、ヨシコ達の圧力もルート潰しに一役買っていた。
「狙い通りぃ……!」
魔法が撃たれた真反対へと向きを変え、なおかつヨシコ達の拳に襲われない方向へ駆け出そうというその瞬間に狙いを定めていたんだよぉ、こっちは!
ポケットから5つの匣水晶を取り出し、予想していた逃走方向へ向けて投げつける!
数打ちゃ当たる戦法! どれかひとつに当たりやがれ!
「ッ! コレハ──」
無理矢理に変えた逃走方向。体勢を強引に変えた代償として、クラウングレイスは咄嗟に投げられた匣水晶を避けられるほどの余裕が失われていた。
匣水晶が、クラウングレイスの足に触れる。
水晶から放たれる光は瞬時にクラウングレイスを覆い尽くし、強引に水晶の中へと閉じ込める。
「かかったぁ!」
匣水晶。ただ、モンスターを捕まえるだけの便利な道具だと侮るなかれ。
ドルベロスに使ったように、足止めとしても使えるこの匣水晶。
強力なのは、その“拘束力”。
どんなモンスターであろうと、“必ず”匣水晶の中へと取り込むことが出来る。
一瞬の拘束力で言えば、これ以上に強い特殊能力なんて存在しないとさえ思う。
だが一瞬だけだ。体力をほとんど削られていないうえに、C+級のモンスター。捕獲に対する抵抗力は並外れている。
必ず匣水晶から出てきてしまうだろうな。
必ず出てくる──だからそこを狙う。
出てくるのは、匣水晶からと決まっているんだから。
「ガァァァアア! ナ、ナンダコノ能力ハ──!」
匣水晶がヒビ割れ、甲高い音と共に破壊される。
身体を覆っていた光を散らしながら、クラウングレイスは想像通り匣水晶の中から脱出してみせた。
その瞬間。匣水晶から、光が漏れ出た瞬間。クラウングレイスが出現する、その瞬間。
俺の手にある匣水晶から、“ソイツ”が飛び出す。
飛び出すのと同時にタブレットを操作し、《特殊能力交換習得》の項目からあらかじめ選択しておいた【攻撃力上昇・Lv.4】×5を──ボタンちゃんへ!
「ボタンちゃん! 【強振白斧腕】ッ!」
「ナッ⁈ イッタイ、ドコカラッ──!」
「──ブルァァァァァアアアアッッ‼︎」
困惑するクラウングレイスのその顔に、白い巨腕がめり込んだ。
読んでくださり感謝です。
こういう相手の行動を看破して形勢逆転するの、良いのですよね




