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第35話〜決戦〜


 ポータルに手を置くと、身体の重さが一瞬だけ無になり魔法陣へと身体が吸い込まれていく。

 ほんの一瞬のまばたき。そんな僅かな時間で階層移動は完了し、目の前には……。


「おん?」


 速攻でボス戦突入。そんな物々しい空気をポータルからは感じていたが、いざ移動をしてみるとそこは小さな一室。

 小さいとは言っても、俺のパーティーがすっぽりとおさまっているからそれなりの広さではあるが、これも階層のひとつと考えたら恐ろしく小さい。


 これでは小さい“部屋”だ。


 その部屋にあるのは、質素な長いテーブルと複数の椅子。

 テーブルの上に置かれているのはナプキンと……ポーション? 

 鑑定眼で見たがなんの追加効果も毒もない、普通のポーションだ。

 数は15本。キャリオン・タイガーは諸事情で外に出していないから、ちょうど俺達のパーティーの数と同じ。


「ボス戦の前に一休みってか?」


 こんな、殺気の充満した空間で? 憩いの場を提供する方のマナーがなってないな。

 壁に描かれた魔法陣ポータル。五芒星の周囲を囲う文字の数が、今までよりも多い。


 いかにも特別って雰囲気だな。

 事実、このポータルの向こうからはさっきの階層とは比べ物にならない鋭利な殺気をムンムンに感じる。

 例えるなら空気がカミソリのように俺の皮膚を削ぐような、鋭い痛みを伴う普通ではない殺気。


 階層を超えても伝わる、敵の圧力。


 ブルリ、と一瞬の震えが襲う。

 例え強い味方がいようと、俺自身は何も強くはない。機関銃や砲撃飛び交う激戦区の中に、ジャージで散歩しにいくようなもんだろ? 怖くない訳がない。


 ……でも、でもさ? この圧力を、殺気を、階層すら超えて俺達に敵意を向けてくるこのモンスターが……自分の仲間になったら? 

 震えは、武者震いへ変わる。


「お前等、こんなポーション飲む必要なんかないよな? すぐにこの調子に乗ったモンスターを引っ叩いて、俺等のファミリーに加えてやろう。喜べ、末っ子が出来るぞ」

 

 覚悟なんて、前の階層でとっくに出来てたんだ。

 逆に気負い過ぎた気合が良い感じに抜けたかもしれない。

 テーブルに置かれたポーションを無視……しようと思ったが、今は飲まなくても後で使うかもしれないからちゃっかり回収しておいた。


「こほん、では気を取り直して」


 改めて気合を入れ直し、ボスが待ち構えるであろう、本当の階層へ俺達は転移した。



――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――


 

 まず目に飛び込んできた情報は、美しいというものだった。


 壁一面に並んだステンドグラスからは、陽の光が優しく差し込みこの広大な“大聖堂”を照らしている。

 天井は、“なかった”。無限に上へ上へとステンドグラスが並び続け、その終わりは人間の目で見えることは叶わない。


 その光景だけで、この場所が普通の場所でないことを改めて理解する。


「──ヨウコソ。我ガ聖堂ヘ」


「ッッ⁉︎」


 大聖堂の最奥。十字架に人の骨が縛り付けられた祭壇の前に立つ、人型のモンスターが明確な人語によって俺達を迎えた。


 全身の毛穴がブワッと開き、嫌な汗が吹き出てくる。

 

 祭壇の前に立つ怪物モンスター──身体は人であるが、その頭部は牛の頭蓋骨。

 眼を失った眼窩には不気味な黒いモヤが溜まり、赤い光が薄らと浮かび上がり俺達を捉えて離さない。

 その怪しい光に目を離せずにいると、ソイツはゆっくりと一歩を踏み出した。

 角にぶら下がる灰色に燻んだ古い王冠が、カランと軽い音を立て、揺れる。

 

 後ろで手を組み、酷く落ち着いた雰囲気でゆっくりと歩みを進めてくる。

 経年劣化により破れ、解れた、司教服と言うより古びた布を体に巻き付けているだけのそれがヒラヒラと揺れ、その揺れの隙間から覗く肋骨、背骨、骨盤がその身体に肉がない、完全なアンデッドであることを理解させる。


 ──強い。


 空間と、奴の迫力に気圧され一瞬遅れて鑑定眼を発動させる。


 【鑑定眼使用による鑑定結果を表示します】

 『骨教司教こっきょうしきょうクラウングレイス/階級=C+』


「──ッッ。C+級。強いとは思ってたけど、ここまで迫力が違うのかッ。みんなっ! 相手は完全に格上、絶対に気を抜くなよ! 骨だけのアンデッドに斬属性は効かない! あのほっそい骨を折るつもりでブン殴るぞ!」


 圧倒される気迫を跳ね返すうもりでいつもより大きな声でみんなを鼓舞するが、クラウングレイスはそれを鼻で笑い、“可愛らしい”という雰囲気を持たせた声音で俺達に語りかけてくる。


「フフ、怖イ怖イ。肉ノアル貴方達ト違イ、一度折レルト再生ガ段違イニ大変ナノデ、ソノ方法ハゴ遠慮願エマセンカネ?」

「黙らっしゃい。声が二重に聞こえて気持ち悪い!」

「オヤオヤ、コレハ悲シイ。デハ、私ガ発音出来ル 言葉デ、一番綺麗ナ物ヲ貴方へ──骸歌がいかしかばねは朽ち果てど立ち止まれず』」

「ッ! 特殊能力だ! 構えろ!」


「先手、は、私が……!」


 クラウングレイスが両手を広げ、何かしらの能力を使用しようとしている隙をセンセーは逃さず炎属性の魔法矢を放った。


無粋ぶすい


 片手で矢を撃ち払い、なんの問題もないと能力の行使を完了するクラウングレイス。

 その証拠に、奴の周りを人の頭蓋骨が5つ中空を浮遊していた。


「寂シイノデ、私モ仲間ヲ用意シマシタ」


 浮遊していた頭蓋骨に、どこからか足りていなかったパーツが集い人の形を成していく。

 その数、5体。各々が剣や斧、槍などの武器を手に握っている。

 

「仲間を呼ぶタイプかよ……!」


 よりにもよって一番厄介なボスモンスターだ! 最初に挑むダンジョンボスにしては曲者過ぎるだろ! 

 すぐさま鑑定眼を骨に使用し、階級を確認する。

 あれでD級とか言ったら発狂するからなマジで──!


 【鑑定眼使用による鑑定結果を表示します】

 『骨教人形こっきょうにんぎょうグラスボーン/階級=F』


「うわぁ! 地味にウゼェ、あの骨はF級だ! 注意してれば痛手はない! カーくん、雷撃麻痺パラライズで動きを止めろ!」

「ガァ!」


 今までは狭い通路でカーくん達、黒怪鳥アンダリスの本領は発揮出来ていなかったがここは無駄に広く天井も高い!


 空から魔法を撃ちまくるカーくん達本来の戦い方が、


「考エガ甘イデスネェ。骸歌がいか四散無惨しさんむさん。死してなお浮かばれず』」


 カーくんが上空で雷魔法を放とうとすると、グラスボーンの一体がもう一体のグラスボーンを掴み、カーくん目掛けてそれをぶん投げるやいなや、投げられたグラスボーンの身体を黒い光が包み──爆ぜた。


「ガァッッ!」


 グラスボーンを構成していた骨が細かいつぶてとなり、四方八方へ散弾銃のように飛び散った。

 間近で骨の散弾を浴びたカーくんはバランスを崩すが、追撃の危険を感じたのかすぐさま俺達の元へ降りてくる。


「カーくん!」

「ガ、ガァ……」


 爆風のような属性ダメージは見られないが、頭部や心臓部を除いて骨片が貫いていった。

 クソ、今のでカーくんの5600あったHPが5100まで一気に削られた!

 一撃必殺ではないが、HPを削る技としては滅茶苦茶強いッ。

 

「やっぱポーション貰ってきといて良かったなっ」


 すぐさまポーションをカーくんの身体に振りまき、傷口を癒しHPを回復させる。

 

「智さん!」

「っ!」


 センセーの言葉ですぐさまクラウングレイスへ目を向けると、そこには手下のグラスボーンを全滅させられた奴の姿が。

 自爆は痛かったが、それを見たみんなが何かさせる前に倒してくれたか!

 F級ではあるがみんなはD級。階級差は2つ、普通の戦闘であれば負ける訳がないんだ。


 自分の手下を倒された筈なのに、クラウングレイスは腕を組み静観する姿勢を崩していない。

 訝しげに眉根を寄せていると、クラウングレイスは「クックック」とイラつく声で笑いはじめた。


「チョット遊ンダダケデ、フフ、随分必死デスネ? 

 人形ニ向カッテ、真剣過ギル。クックック」


 手で口を隠し、上品な仕草で俺達をコケにする態度に「あぁ、ボスモンスターっぽいな」という感想を抱く。

 ナチュラルに人を煽ってくるあの感じ、ゲームで良く見るわ。


「実際にやられると、ムカつくなッ」

「イヤイヤ、ツイ。躍起ニナッテ人形ヲ壊スモノデ可笑シクテ可笑シクテ……骸歌『屍は朽ち果てど立ち止まれず』」

「……ッ!」


 再び、クラウングレイスの周りを浮遊する5つの頭蓋骨。



「クックック。マダマダ……遊ベマスネ?」


読んでくださり感謝です!

いよいよボスモンスターと対峙、というところまで来れました。ここまで書けるモチベーションを作ってくださった読者様に感謝を。


引き続き、応援したってもええよという方はブクマ・評価を是非!やる気の炎に変わります!

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― 新着の感想 ―
[一言] 超個人的意見なんですが、あらすじの「しかし、人類の敵……」のところで、「何」がほとっくのかをわかりやすくするために、少し前の「世界を救う……」のところで「世界(人類)」ってやったらわかりやす…
[良い点] 話の内容は面白い読みやすかったです。 続きを待ち望んでいます。 [一言] あらすじが物語の先を行っちゃって追い付けていない感じですね
[良い点] よりにもよってC+とかD+の集団でも勝てる気がしないんだが大丈夫かなw その分仲間にできたら超戦力だが、そもそも仲間にできるほど削れるか…?
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