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第33話〜接近〜


「……駄目だ、やっぱり視えない」


 上板橋ダンジョン。その中へ足を踏み入れた『血闘師』速見寿久は、特殊能力【広域索視フィールド・ビュー】を発動させていた。


 特殊能力【広域索視フィールド・ビュー】。自分の視点を空に移動させ、さながら神の目線で効果範囲12km以内であれば瞬時に視点を場所ごとに切り替える事が出来る能力。

 Googleが提供するサービス、ストリートビューの超高性能版と思えばわかりやすいだろう。

 

 建物の中は覗けない制約があるが、その建物の中にさえ速見自身が居ればその建物の中のみ索視可能になる。


 それは“ダンジョンの中”も同様。


 この優秀な索敵能力ともうひとつの特殊能力を活かし、速見は『血闘師』のメンバーから信用を獲得して幹部の座に着いたのだ。


 しかし、その能力もなぜか今は上手く作用しなかった。

 広大な効果範囲を誇っている能力が、1階層の索敵しか行えていない。

 下に広がっているであろうダンジョンの様子を視ようにも、視界が霧がかったように白く濁るだけで全く先が視えなくなっている。


「……まいったな」


 メンバーに悟られないよう顔にはあまり出さないが、速見は僅かに焦っていた。

 今、速見が連れているメンバーは漆原、湯川という主要メンバーを抜いた近接2人、支援1人、魔法2人の計6人。


 ダンジョンの入口が通常とは異なる“魔法陣ポータル”だったことを警戒した速見は、先遣隊として数名で先にダンジョンに潜り、中を視てから本隊へ戻ってくる……そういう手筈だったのだ。


 いざダンジョンの中に入ってようやく、後には戻れないという仕様に気づいた。

 すぐさま速見は所持しているもうひとつの能力【念話】にて漆原、湯川に連絡を送ろうとするがそれも遮断され叶わず。


「15分経って【念話】もせずに俺達が戻らなければ、本部に戻って幹部複数で改めて挑めって言ってあるから……まぁ、すぐの増援は望めないか」


 速見はチラリと視線を横に流し、現在の面子を確認する。

 幸い近接戦闘では頼りになる大剣使いの佐藤や炎魔法の使い手を連れてきているから、モンスターにやられ早々に殺されるという事態にはならないだろう。


「さて、諸君。見た通り、このダンジョンは入ったら最後、外には出してくれない仕様らしい。もしかすればどこかに脱出するギミックがあるかもしれないが、残念ながら俺の能力では見つけられなかった。漆原の結界もナシ、湯川のバフもナシと心許ない状況だが……我々は『血闘師』。ダンジョンの中で絶望し泣くような輩はいないだろう。増援が来るまで、暇潰しがてらこの階層のモンスターを皆殺しにしてやろうじゃないか」


 焦りが先行し慌てふためく、そんな柔い精神の年齢などとうに過ぎた速見は落ち着いた様子で5人のメンバーに言葉をかける。


「うっす! 頑張りますよ!」


 佐藤が成人男性の身の丈程もある大剣を掲げ、気合十分といった声を張るが速見はそれに待ったをかけた。


「おい。待て待て待て、まさかこのたいしたスペースのない通路でその大剣を振り回すつもりか?」

「つもりですけど?」


 あっけらかんとした顔で答える佐藤に、ハァ……と軽いため息がひとつ。


「バカ。こんな狭い空間で長物を十全に使いこなせる訳がないだろう。むしろ連携の邪魔になる。ステータスは下がるだろうが、片手剣の特殊能力も持ってただろう? そっちに変えるんだ」

「うぇ〜、火力出ないすよね片手剣」

「かわりに盾を持てるだろう。今はいざという時に守ってくれる漆原はいない。自分の身は自分で守るように」


 辺りにモンスターが近付いていないことを【広域索視】で確認しつつ、佐藤に対する助言を行う速見。

 

「前衛の頑張りで魔法が輝くんだ。気張れ、佐藤。原田」

「うすっ」

「はいっ」


 剣術使いの原田に、大剣をしまって片手剣と盾を装備した佐藤。

 防御バフを得意とする伊藤。

 両者炎魔法を得意とする池田、吉野。


 バランスの整ったメンバー。自分の【広域索視】を使えばモンスターの不意打ちをくらう心配はない。何かしらの事故がない限り、誰かしらが大きな傷を負うことはない。


 ギルドには自分以外の幹部が出払っていたのを考えても、増援が来るのは早くても明日になるだろう。

 

「……今日は徹夜か」


 他の面々に聞かれないよう、ボソリと呟く速見。

 若い頃のように徹夜でも100%に近いパフォーマンスが出来る歳じゃないんだけどな。と苦笑を浮かべるが、幹部として誰も欠けずに増援まで持ち堪える。そんな強い意志が瞳には宿っていた。



――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――



 成長し、その姿を変えた上板橋ダンジョンの大きさは下に15Kmほど。階層にして18。

 暗内智が率いるパーティの現在地は15階層。智が想像する通り、一行は最奥地と呼ばれる18階層まであと3階という所、いわゆる奥地の手前にいた。

 ダンジョンの頂点に座すモンスターとの戦いに備え、15階層にとどまり英気を養っている為、大きな動きは見せていない。


 同様にダンジョンへ入ったばかりの『血闘師』は1階層にとどまり、モンスターとの交戦を続けているから大きな動きはなし。

 しかし、その1階層には『血闘師』の姿しか存在しなかった。


 『血闘師』が上板橋ダンジョンに足を踏み入れる……その前にダンジョンへ侵入した2つの影があっただろう。

 その影、つまり2人の侵入者は、『血闘師』がダンジョンへ入る僅かな時間の間に1階層を踏破し、次の階層へ進んだ事になる。


 たったの2人で、だ。


 『血闘師』は、Lv.50超えの攻略者が6名。

 暗内智はLv.50超えの萌美優理に、Lv.50を超えるD+級モンスターが16体。

 2人で階層を超えた異様さが、際立つ。


 さらに驚くべきは、その2人。

 現在の到達階層──11。


 『血闘師』がダンジョンへ入る時間で。

 智一行が3階層を進む時間で。


 2人は、智達との階層差を僅か4にまで縮めていた。


久々の連日投稿。読んでくださり感謝感激です。

目標だったブクマ500も遥かに超え、今や5000。このブクマ5000の皆様が次回作も読んでくれるように、さらに頑張りたい!


誤字脱字報告、本当にありがとうございます。作者の目が節穴なのか、本当に読み返してて気づきませんでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全て [気になる点] なし [一言] 一気にここまで読みました。更新頑張って下さい。
[一言] 主人公のメンバー達があの二人にやられないと良いんだけど、汗
[良い点] 簡単には主人公が最強にはならない難易度 いいねえ〜ただこの2人にボスを奪われそうでそこら辺怖いが果たして 普通ならイレギュラーな事態を主人公が頑張って乗り切るだけで終わるのに、更にそこにイ…
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