第32話〜憩いのひととき〜
順調。と言ったところだ。
ダンジョン攻略に目標を変更し、出てくるモンスターは全て圧倒。
ボタンちゃん達の力により強引に突破したり、ヨシコや一太郎達のコンビネーションにより手も足も出させずに終わらせたり。
出現するモンスターもD−級から、チラホラと正当なD級モンスターが現れたりするがD−級と戦っている時と大差はないな。
今までコツコツと進化を重ねてきた俺達の敵じゃねぇって訳よ。
そんな訳で、安心安全にダンジョン攻略は進んでいる。
ダンジョン内を移動するポータルを踏んだのも、すでに3回ほど。
移動用ポータル。五芒星を中心に、その周りを見覚えのない文字が円状に書き記されている、誰もが見たことのある典型的な魔法陣。それがポータルだ。
このポータルを踏むこと3回。この3回のポータル使用により、分かったことがひとつ。
このダンジョンは“前の階層に戻れない”。
つまり、先へ進むポータルしかセットされていない。ということがわかった。
事の経緯としては、最初に俺達が転移させられた階層からポータルを踏み、別の階層に行ったらその階層で見つけられたポータルはただひとつのみだったことからはじまる。
同じ通路が続くダンジョンの内部だ、前の階層と今の階層、その違いなんかぶっちゃけ分からない。
そこにひとつだけのポータル。
もしかしたらこのポータルはブラフで、同じ階層に何度も何度も戻されている悪質な罠なんじゃねーの? と感じた俺達は、それを実証する為の実験を行った。
キャリオン・ハウンドの体液を大量に壁にブチまけてから、ポータルで階層を移動してみたんだ。
やり方は簡単。ボタンちゃん達が膂力に物を言わせて壁に思いっきり投げつけて、トドメに叩き潰す。
こうすれば強い臭いが壁に染みつき、普通のキャリオン・ハウンドとは別格の腐敗臭がする。
あらかじめ見つけておいたポータルへ鼻を塞ぎ急いで向かい、階層を移動。
ヨシコ達に「あの臭いはするか?」と聞けばしない、という回答。
ここでようやく、先へ進むポータルしかないと確信した。
クリアするか、中でおっ死ぬか。このダンジョンにはその2つの道しかないらしい。
中々にハードじゃん? とは思うが、現状だとあまり苦だと思っていない。
出現モンスターは十分に対処出来るし、なによりトラップが出てこねぇ。
いかにも通路のどこか一箇所を踏んだり、壁に手を置いたらトラップが起動しそうな雰囲気をプンプンに醸し出しているのに、ひとっつもない。
いつ壁から槍や矢が飛んでくるかとビクビクしていたのに。
拍子抜けだと今なら言える。
プークスクス、あれぇ? もしかしてこのダンジョン楽勝にござるかぁ? って感じ。
正直、最初に感じだ緊張感、絶望感といったものはすでに感じていない。
やっぱD級モンスターが仲間ってのがデカイわ。本当なら手練れの攻略者数人がかりで闘うらしいし、D級モンスター。
頼もしい味方様様。もちろん、その中にセンセーも含まれている。
というのも、このダンジョンに来てから戦闘時の落ち着きが凄い。
センセーが言うには「こんなに強い仲間に囲まれていると、凄くリラックスして戦える」らしいけど。
でも、なんて言うの? 凄み? 弓を構えて、矢を放つセンセーの立ち姿凄いよ?
特殊能力レベルも上がったことで、さらに弓の扱いに磨きがかかっているし、
「──絶妙なタイミングでの狙撃。一太郎達の援護に、敵の邪魔。大助かりよ」
「そ、そんなそんな……恐縮です」
ジュゥジュゥと心地の良い音を立て、香ばしい匂いが鼻を刺激する“オークの肉”を焼きながら、俺はセンセーとそんな雑談を楽しんでいた。
褒められている時のセンセーは本当に嬉しそうにしながらめちゃくちゃ照れる。その反応がすこぶる愛らしい。
褒めて伸びる典型だろこの人。
良い感じに焼けた肉を小皿に取り分け、それをセンセーに。
「オレも! ワタシも!」と主張の激しいライカンスロープ組にも大きめの肉を分けてやる。
オークの前でオークの肉を焼き、その肉をオークに食わせるという、言葉にすればエゲツないことをしていると思うだろう?
なんのなんの、ボタンちゃん達は「それはそれ。これはこれ」と割り切りガツガツ食うよ。
一通り焼き終えたから、“結晶熱鉄板焼き器”の動力源である魔獣結晶を抜く。
魔獣結晶があればどこでも焼き料理が出来る優れ物だ。
集会場で比較的簡単に入手出来るだけあり、攻略者なら大半の奴が持っている。
俺も常にタブレットのアイテム欄に入れてある必需品だ。
「にしても、さ。っモグ、センセー、最近ほんとにメキメキ強くなってるよね」
「そ、そうです、かね?」
「魔法の特殊能力も覚えたし。このダンジョンに飛ばされてからもさ、いつも以上に狙撃が的確だし」
「あ……でも、確かにこのダンジョンに来てから……こう、なんでしょう? なんだか、漲ります。力が、こう……グググ、と」
「へぇ、なんでだろ。ダンジョン特有の緊張感かな?」
「どう、なんでしょう……最近、ステータスの伸びも良いですし、そのおかげかも、ですね。えへへ」
ニコニコしながら肉を頬張る姿に、ハムスターがひまわりの種を頬張る姿が重なる。
ほんと、小動物みたいな可愛らしさがあるよな、センセー。殺伐としたダンジョンの清涼剤だ。
ヨシコ達がコボルトの時は犬らしい可愛らしさがあったけど、今やこの大きさ。可愛いのカテゴリーから外れてしまった。
食う時は律儀に皿を両手で持ち、ガツガツと頬張っている所を見るとコボルトの時の愛らしさを思い出しついつい笑みが浮かぶ。
そんな憩いのひとときを過ごし、後片付けも終えたらテンションをカチッと切り替える。
団欒から攻略へ。
と言うのも、この先からはモンスターの種類が増える。それはセンセーの【醜人商会】で確認済み。
上板橋ダンジョンでいう奥地に該当する場所だと俺は思っているんだが、いかんせん出現するモンスターの階級が最初から高かったから、奥地と認識出来る指標がイマイチわからない。
“多分”奥地部分、ってだけだ。
多分。それだけだったとしても、十分に気が引き締まる。
本当に奥地だとすれば、最奥地……ダンジョンボスが待ち受ける階層が近いことを意味する。
D級モンスターが蔓延るダンジョンのボス。
──間違いなく強い。弱い訳がない。絶対に仲間に入れる。惜しむらくは、魔獣結晶(小)や(微小)のストックがなくて上級匣水晶が作れないのが残念だが……今のパーティ面子なら、通常の匣水晶×31。上級匣水晶×2個でも十分に勝算はある。
ボスモンスターを仲間、か……良いねぇ。ロマンだよな、ボスだった敵を自分の仲間にしてバトルで使うの。
どんなステータスをしてんのかなぁ、とまだ見ぬ未来の仲間に想いを馳せていると、
「グル?」
不意に、ヨシコが天井を見上げる。
「……?」
「どうした? 敵か?」
「グル、ル〜?」
「わからない」と言いたげに首を傾げた。
「危険なものか?」
「グルァ」
「複数か?」
「グル」
首を横に振った後、一度縦に頷く。ふむ。危険には感じないナニカが上に複数ある、もしくは居るというのは伝わった。
しかし、ヨシコ達に分からないモノが俺に分かるはずもない。
人間社会で野生の勘なんか腐りきってるからな。
「……」
俺も釣られるように天井を見上げ、少しばかり思案する。
危ないと感じないってことは……モンスターではない。俺達に対する危険性を感知しなかったってことだからな。
「上……?」
……ポータルでの移動だから分かりづらかったけど、このダンジョンが下へ降りていくタイプのダンジョンだと仮定すれば……俺達に危険のない存在の出現。
「……誰かがこのダンジョンに入ってきた、とか?」
読んでくださり感謝です!
感想、読んではいるのですが仕事の休憩の合間に小説を書いているので返信出来る時間が取れず申し訳ないです。いずれまとめて返します。
誤字脱字報告をしてくださる方、本当に感謝。読み返してはいるんですけど、なんでか自分では読み逃してしまうんですよね……。
なんだかんだ10日間?くらい日間ランキングTOP5に残っていて、応援してくださる方々に感謝の念が尽きません。本当にありがとうございます。




