第31話〜影〜
月明かりが、上板橋ダンジョンの側にそびえる巨大樹を照らしていた。
人工の光が全て消えた現代の星空は美しく輝き、巨大樹と合わさった景観は秘境の絶景を彷彿とさせる雄大さと、神々しさを放つ。
その巨大樹の根の元に、速見率いる『血闘師』のギルドチームは集まっている。
身に纏う防具は、流石は関東を代表するギルドだけあり一級品の物ばかり。
D+級のモンスターの魔獣結晶、ドロップアイテムを用いたステータス上昇効果が付与された鎧。
魔法使用時の消費MPを軽減する魔法戦闘用のローブ。
その他、アクセサリーに特殊武器。
武器製作に秀でた特殊能力所持者が所属する『血闘師』は、他のギルドと比較しても優秀な武具防具を揃えられる。
前衛、支援、後衛。各攻略者のLvは50を超え、優れた戦闘特殊能力、魔法特殊能力を持っている者は単体でE+級と闘うことが可能で、D級と対面しても逃げ切ることは出来るであろう実力者ばかりだ。
その実力者、総勢32名。
上板橋ダンジョンへと、集結した。
だがその顔に、余裕はない。
東京大樹海での攻略を進めていた彼等、彼女等の顔にあるのは驚愕。
「成長? 馬鹿を言うな、これは」
――変異だ。
目の前にいるのは、“D級モンスターの群れ”。
正確に言えばD−級のモンスターではあるが、括りは同じ。
実質最高階級とされるC級の、ひとつ下なのだ。脅威ということに変わりはない。
「穴からワラワラと……想像より出てくるのが早い」
上板橋ダンジョンは穴型のダンジョンであるというのは知れ渡っている情報のひとつ。
同時に、せいぜいE級が出現モンスターの最高階級ということも良く知れ渡っていた情報のひとつだ。
その穴から出て来ているのは、間違いなくE級と呼んでいいモンスター達ではなかった。
「――ッッ! 総員、戦闘準備! あの怪物共を街に放つな! まだ俺達でどうとでも対処出来る! 漆原、“結界”を!」
「おう!」
速見の隣に立っていた男性――ガタイの良い、身長180を超える少しばかり目つきが悪い彼の名は、漆原健吾。
特殊能力【結界】を持ち、主に守護や拠点防衛の任に着くことが多い。
が、【結界】という特殊能力は多様性に富み、あらゆる場面で彼は活躍する。
例えば、
「ここら一帯を結界で囲う! 速見さん、どんくらいの距離までモンスターはいる⁉︎」
「ダンジョンの入り口を中心に、半径1.2km……ギリギリ集会場は含まれていない!」
「了解ッ! 一応、1.5まで囲うぜ!」
漆原が地面に両手を着くと、彼を中心に半透明のドームが瞬く間に広がり、はるか上空、はるか彼方までその広がりは続いていた。
「内側からの強度を高くしたから、外からは入ってこられるぜ」
「構わない。ここら一帯のモンスターは本来たいして強くない筈だからな……“アレ”が異常なんだ」
「いくらダンジョンの成長って言っても、成長しすぎだろ。何体かのモンスターが階級を上げるってのは他のチームから貰った情報にあったけど……アレは“全てのモンスターの階級が上がってるよな”?」
「それだけじゃない。本来なら上板橋ダンジョンに存在しなかったモンスターの姿がある。あの犬、キャリオン・ハウンドだ。アンデッド系モンスターなんて池袋ダンジョンにだってそう居るモンスターじゃない」
ガリガリと、苛立たしげに頭を乱暴に掻く速見。
分からん分からん、何が起きているんだと脳内で思考が高速で流れていくが、強引にそれを断ち切る。
今、『血闘師』がやるべきことは考えることではない。
あのダンジョンより現れるモンスターの群れを街に放たず、ここで殺し切ること。
「後衛魔法班、炎魔法用意! アンデッド系は炎属性に弱い! キャリオン・ハウンドは死んでも一度蘇ることがある、だが燃やし尽くしたら蘇ることなんか出来ない! ダンジョンの入口を囲むように炎魔法を展開! 支援班は魔法班の攻撃魔力上昇、および消費MP軽減のバフを! まずは出入り口を封鎖する!」
鎧ではなく、ローブを纏っていた攻略者達がその手に杖を握り特殊能力を発動させる。
遠距離発動魔法【自然発火】。術者が遠くにいても炎魔法を発動させ、術者のLvが高ければ発火した炎の操作さえ可能になる魔法だ。
無論、高位の魔法特殊能力を取得している『血闘師』の魔法班は皆、魔法の操作はお手の物。
1分もかからずに上板橋ダンジョンの入口は燃え盛る業火に囲われ、術者のMPが枯渇しない限り、これでダンジョン内部から無限にモンスターが湧いてきて、半永久的に闘わされるということはなくなった。
「俺が指示を送る。前衛班は“背後を気にすることなく”戦いに集中してくれ」
タブレットから各々が得意な武器を取り出し、前衛班はD級モンスター達へと襲いかかる。
大剣を振るう者、双剣で刻む者、槍で貫く者。“チーム”として洗練された連携でD級モンスターと渡り合う『血闘師』。
東京大樹海では複数体のD級とE級に手を焼いていたが、今は違う。手こずりはするが、危なげなくモンスター達を屠っていた。
「……やっぱりな。あのモンスター達は、群じゃない。ただの集まりだ」
東京大樹海のように、異種族のモンスター同士が巧みな連携をしてこない。
素の力で人間を上回り、さらに特殊能力を使ってくるモンスターが連携を取ってくるから厄介なのであって、それをしてこないのなら例えD級だろうとやりようはある。
階級的には脅威ではあるが、あのモンスター達は入口がただそこにあったからここに集まっているだけなのだ。
そこに仲間意識は感じられない。上手くやれば、モンスター同士の戦いに発展させることも可能だろう。
「漆原。前線、佐藤」
「了解」
速見は隣に立つ漆原へ簡素な指示を出すと、それに不満を感じることなく漆原は淡々と従う。
前線で闘う剣士の攻略者の背後に、半透明のプレートが浮かび上がる、と同時。
赤鎧ナイト・オブ・ブラッドリィの一撃がそのプレートにより阻まれた。
自分の背後に結界が発生したのを感じた佐藤は、その手に握る大剣を振り回し慣性を大きくして赤鎧に叩きつける。
狙いすました一撃は頭部へと叩き込まれ、その重撃は赤鎧の頭部をグシャグシャに凹ませ、既に負っていたダメージもありその身体を経験値の光へ変えてしまう。
「速見さん、漆原さん! あざっす!」
大剣の攻略者、佐藤は声高に礼を告げ、すぐさま戦闘に戻っていった。
――圧倒。
D−級のモンスター、しかも大した連携を取ってこない通常の個体では『血闘師』の手を焼かせるに値しなかった。
戦闘時間、僅か15分。
ダンジョンの入口付近に出てきていたD級モンスター、39体。
『血闘師』のメンバーに、負傷者を出すことなく全滅。
あとは方々へ散ったモンスターを残すだけで、それさえ十数分もあれば片付くだろう。
こめかみに指を置き、目をつぶっていた速見はゆっくりと目を開けてギルドメンバーに伝えた。
「もうダンジョンの入口付近にモンスターはいない。あとは散ったモンスターの除去だ。俺が場所を指示するから、みんなはその場所へ行ってくれ」
そう言って、速見が結界内に散るモンスターの居場所を“視よう”とした時、激しい閃光が速見を襲う。
「ぐぁッッ」
「速見さん⁉︎」
目を抑え膝を着く速見に、すぐさま駆け寄る漆原。
心配ないとそれを手で制し、強い光にクラクラとしているが気力で立ち上がる。
「どうしたんすか?」
「突然、目の前で強い光が弾けて……一体、なにが?」
すぐさま原因を突き止めようと、再び結界内を“視る”が……それらしきナニカはない。
いるのはダンジョンから湧いたモンスター達だけだ。
「このモンスター達が、俺の能力に感付き激しい閃光を出す特殊能力を使った? いや、閃光を発生させる能力を持つモンスターはいない……なぜ?」
脳内に?マークが大量に浮かんでくる速見を、心配そうに『血闘師』メンバーは見つめていた。
見つめている。“速見だけ”を、みな注視していた。
だからだろう。自分達の背後、魔法による業火が残るダンジョンの入口へ、2つの影が入っていったことに気付かないのは。
いつのまにか総合評価が16000、ブクマが4500を突破していました! ブクマ・評価をしてくれた読者さま、本当にありがとうございます。
誤字報告をしてくださった読者さま、本当に助かってます。
ブクマ500とか行けたら良いな〜と思っていた作品が、ここまで読まれて若干戸惑っていますが、これからもオナシャス。




