第21話〜変異〜
東京魔王21話
8本の脚をカサカサと動かし、ソイツ等は壁を縦横無尽に走ってきていた。
「うぉぉおおおッ⁉︎ きっもち悪ぃ! 今すぐソイツ等を殺せェッ!」
中型犬と同サイズの“蜘蛛”が壁を走りながら、俺達をその8つの目でロックオンしている。
通路が入り組み、横穴も多いこの上板橋ダンジョンではこんな急襲は良く起こる事だから驚きはしない……んだ、本当ならっ。
さっきの悲鳴は、あまりの気持ち悪さについ声が出ちゃったんだよ!
虫型のモンスターはマジでキメェ! 小さい虫すらそこまで得意じゃねぇのに!
臭いが薄いのか、ヨシコ達の鼻でさえ結構近くにこないと気づけないのも尚更タチが悪い。
虫は掌サイズ程度だからギリギリ許容出来るんだぞ! 巨大化するなアホが!
総毛立つ肌をさすりながら、一太郎達の戦闘を見守る。
「ガゥアッ!」
虫というだけあり俊敏性が高いが、あの蜘蛛――ゴブリン・スパイダーはF+級のモンスターだ。
流石にE級である一太郎やヨシコに真っ向から勝てる訳がなく、戦闘は一方的。
ゴンザレスと六郎が強靭な脚力をもって蹴りを放ち、一体の蜘蛛を即殺。
しかし1匹の蜘蛛が1匹を囮に使い、身体の小ささを利用して一太郎達の隙間を抜け俺達に飛びかかってくる。
「ふっ」
飛びかかってくる蜘蛛のワシワシ動く足を見て、鳥肌が立ちすぎて鳥になろうとしていると、冷静にその蜘蛛を射抜く萌美センセー。
小さい的であろう頭を撃ち抜き、勢いがなくなった所を猪助が拳を振り下ろし地面に叩きつける。
頭から叩きつけられた蜘蛛は顔面をひしゃげて体液を散らし、数秒後には経験値の光となり魔獣結晶(小)になった。
「はぁ、はぁ……虫、虫はアカンだろっ。センセー、良く冷静でいられるな」
「その、人間よりは……平気、かなって」
「あぁ〜……重いわ、その言葉」
センセーが言うと重みが違うんだわ、その言葉。
それを言われると、大きいだけの蜘蛛にビビる俺がちっぽけな存在にさえ思えてくるじゃん。
つっても、苦手なもんは苦手だ。流石にあの大きさの昆虫型モンスターはキツイ。
なんというか……リアル、なんだよなぁ。もっと大きくてモンスター感が強くなれば大丈夫かもしれないけど、あの絶妙な大きさがまたキモい。
真緑と黒の縞々模様も生理的嫌悪感を抱く。アレは捕獲出来ない、というかしたくない。
奥地の探索にも慣れ、さらに奥へと足を進めたらこういう昆虫モンスターの出現数が増えてきやがった。
当初の予定では捕獲しまくって手持ちを増やすと意気込んでいた俺だが、昆虫型はマジで捕獲したくない。本当に勘弁してほしい。
そう、虫型は捕獲したくない。なのにッ、なのに、だ! 出来るなら捕獲したいE級モンスターにの中に、巨大ムカデがいやがった! 探した限り、奥地で出現するE級モンスターは蛇とムカデの2種類のみ。他のモンスターはF+級のモンスターばかり。
なんでオークが出るのに、ハイ・オークは出てこないんですか? 同じE級モンスターなんだが?
パイソンベイは2体捕獲したけど、ムカデは……鋭く尖った角が2本生えた赤い頭部に、てらてらと光る黒い甲殻。真っ黄色のカサカサ動く足。これで身体が2mはあると考えてくれ。
申し訳ないが同じ家になんて居たくない。蜘蛛も同じく。
進化をすればワンチャン格好良くなるかも? それ、今やらないと駄目ですか? 勘弁してください。
まだ鳥肌の立つ両腕をさすり、気持ち悪さを誤魔化す。
「どうしたもんかなぁ……」
正直な話、パーティ面子をE級で固めてしまったからワンランク下のF+級をあまり捕獲したくない。
結局レベル上げをして進化をさせるという手間がかかる。
E級モンスターは2体捕獲してあり、現在のパーティメンバーはLv.40超えのE級が12体。
ポケ◯ンなら5つ目のバッジくらいまで取れそうなレベル帯だ。
ダンジョン奥地ですらE級の数は限られていて、F+級モンスターが複数体で行動してるくらいの難度。
慢心と言うべきか、これもうダンジョンボス行けちゃうんじゃないの? とすら思っている。
クソムカデはテイム不可なので、出会ったら即殺。魔獣結晶(中)になるからな。そのおかげもあって特殊能力が中々に潤ってきている。
すでに最奥地、ボス部屋の場所は見当がついてるから挑もうと思えば何時でも挑める。
センセーが【醜人商会】の《盗品一覧》を見ていると、ある場所を境に一切のアイテムがなくなる距離があった。
つまり、そこから先にダンジョンがないということ。そこがボス部屋だ。
「……」
みんなのステータスを見ても、大したダメージはない。疲労でちょっぴりHPが削れてるが、ポーションを使えば回復出来る範囲。
センセーはどうだろうと目を向ければ、ジッと俺を見つめて「私は行ける」という強い意志をその眼から感じる。
もしかして、通じ合ってる? 俺が親指を立ててサムズアップすると、センセーも同じく親指を立てる。
「行っちゃい、ますか?」
「行っちゃい、ましょう」
腕時計を見ればただいま深夜の2時30分。
ボス戦に1時間かかったとしても3時30分。帰りの時間を多く見積もっても5時前には家に帰れる。
勿論ボスは倒さず捕獲だ。虫型は勘弁だが、流石にボスモンスター。捕獲はしておきたい。というか捕獲して時間を短縮したい。
「よ〜し、そうと決まればお前等。もうこのまま、ボス戦行くぞ」
やる気満々。一太郎達は首をコキリと鳴らし、ヨシコ達は爪を光らせ、ボタンちゃん達の筋肉はバルクアップし、カーくんは翼を広げ、新しく入った蛇丸達も舌をチロチロと出す。
おうおう、喧嘩上等ってか? 俺まで張り切っちまうなこりゃあ。
「良いか? ボスは捕獲するから倒すのは意識しなくて……も、ん?」
「ゆ、揺れてますね」
グラグラと揺れているのが、微かに分かる。その程度の揺れだったから、あまり気にしないでいると次第に揺れは大きく、強くなっていく。
中学生の時に味わった東日本大震災の地震がフラッシュバックし、本能的な危険を感じ咄嗟に叫んだ。
「おいお前等ッ! 危ないから一箇所に集ま、ろッッ⁈」
ズドンッッ‼︎ と、地面の奥底から巨人が蹴り上げたんじゃないかと思う程の大地震。
一瞬、身体が宙に浮いてしまう衝撃と、激しく上下する揺れのせいでバランスを崩してしまい頭から地面に倒れ込んでしまった。
やべっ、これ頭打つ――! 来るであろう衝撃から頭を守る為に手を後ろに持っていくが、猪助が俺の持ち上げて助けてくれた。
流石と言うべきか、モンスターのみんなはこの揺れでも倒れることなく踏ん張っている。
ボタンちゃんの腕の中にはセンセーの姿があり、ひとまず安心と安堵するが、
「うぉ、おぉぉ、ま、マジかッッと、止まらな、お前等、あた、頭に気をつけろッ! 天井、崩れるかもッ、しれなッ、くッそッ!」
揺れは止まるどころか、強まる一方。身体だけでなく視界も揺れ、猪助が強く俺を抱きしめる。
揺れ続ける地震の最中、いくらなんでも災害相手には何も出来る訳がないだろと弱気になっていたら、異様な光景が俺の目に飛び込んできた。
壁が、“鼓動している”。
地震の揺れの見間違いかと思ったが、違う……一定のリズムで、壁が膨れ上がり、萎むを繰り返しいた。
そのリズムは……揺れにともない、早くなっている。
「ッ! 猪助! ボタンちゃんの近くへッッ! 急げッ!」
即座に俺の命令を聞いた猪助はボタンちゃんの元へ駆け寄り、ボタンちゃんと肩を組んで天井のように俺達を覆う。
「ありがとう猪助! センセー、見えるか⁈ あッ、あの、壁!」
「へッ? う、うそ、うッごい、てるッ……⁈」
「地震、ッじゃねぇ! このダンジョンで“何か”が起きてるッ! もっと、ボタンちゃんにしがみつけッッ!」
「ッ!」
ガバっとボタンちゃんの胸にしがみつくのを確認し、俺は急いで一太郎達やヨシコ達を匣水晶の中へ戻しタブレットのアイテム欄の中へ……くそッ、揺れが強くて操作がもたつく……!
焦る俺の視界の端に、赤黒い“霧”が紛れこむ。
ハッとなり見渡せば、鼓動する壁から漏れるように赤黒い霧がダンジョン内に充満していた。
「まだ何か起こるのかッ! 猪助、ボタンちゃん! もっと強く抱き合ってくれ! 俺達のことを挟んでくれて構わない! 絶対にお互いの手を放すなッ!」
2体は正面から抱き合い、その間に俺達2人が挟まる。ギュウギュウに締め付けられて少し苦しいが、このくらい強く纏まってないと何かあった時に離れ離れになっちまう!
もう、地震とは比にならないッ。ダンジョンが高速で震動しているのか、上下左右にガクガクと揺らされるッッ。
力自慢の2体でさえ膝を突き、立てなくなってしまった。
「霧がッッ」
「さ、とし、さんッ」
赤黒い霧が辺り一帯を覆い尽くしてしまい、もう視界は機能していない。
激しく身体を揺らされるせいで内臓がシェイクされる不快感と嘔吐感、混濁する意識に、どうするどうなる? と不安で一杯一杯になっている俺の手を、センセーが強く握った。
「ぃ、ッ、大、丈夫ッ。ぃっしょ、ですッ」
「ッ! あぁ……ああッ!」
まさか、センセーに勇気つけられるなんてッ。
センセーの手を、俺も強く握り返す。のと同時、恐ろしいほど、一瞬で。揺れが、ピタリと止んだ。
回るコマを、手で強引に押さえて止めるように。ピタリと。
「はぁ、はぁ? 止まっ――」
俺の意識があったのは、そこまでだった。
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今日の19時頃、もう1話投稿します!




