第20話〜巨大化〜
地平線の向こうから頭をのぞかせる太陽を背に、俺達は上板橋ダンジョンからの帰路へ着いていた。
行きよりも帰りの方がスムーズに動けた分、予想よりも早く帰って来れたな。
モンスターの警戒もしなくて良かったし、道も来た時の匂いがあるから迷わずに突っ走れる。
そこにヨシコ達の足の速さだ。今のヨシコ達の俊敏性は300を超えているから、奥地のモンスターでない限り追いつけない。
次にダンジョンへ行く時は帰りにかかる時間を少なく見積もっても大丈夫かもな。
「ふぅ……とりあえず、はじめてのダンジョン挑戦は成功って感じだな」
朝特有のひんやりとした空気に肌を冷やされ、一息。
新しい仲間も増え、戦利品も充分。アイテム集めの要となってくれた萌美センセーは初ダンジョンの疲れからか、ゴンザレスに背負われ爆睡中だ。
ヨダレを垂らされてるゴンザレスが複雑そうな顔を浮かべている。
「まぁ、コイツ等の背中が今は一番安全だからな」
センセーを起こさないよう、静かに駆けるヨシコ達。
流石に俺も眠くなってきたな……あとは頼んだ、ヨシコ。
遠くなる意識の中、微かに「ワン」という返事が聞こえた気がしたが睡魔には勝てず、ヨシコの首周りのモフモフに埋もれ眠りについた。
――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――
旧港区に、太陽の光は届かない。
超大型である東京タワーダンジョンの侵食は中型や大型の侵食の比ではなく、東京タワーのみならず港区の近辺区、渋谷や新宿まで東京タワーダンジョンの魔の手は伸びている。
すでにそこは日本ではない。異世界の様相に変わり果てていた。
空では鼠色の分厚い雲がゴロゴロと雷を光らせ、突然の豪雨を降らせたと思えば数秒後には雪が降り、その数秒後には酸の雨が降る。
都心を下敷きに栄えた自然の大国は、日々その境界を広げている。
その侵食を防ごうと関東で活動するギルド『血闘師』の面々は今日も東京タワーダンジョンに挑もうとしていた。
「漆原! 四角黒天馬がそっちにいったっ! 湯川を守ってくれ! 湯川は前線に支援バフを! 魔法班ッ! 前方にE級モンスターの群れ、数20! 炎と雷で行動範囲を狭めるんだッ! 怪我人はすぐに――」
樹海に飲まれた都市の中で、数十人の『血闘師』のギルドメンバー達が数十体のモンスターの群れを相手に激戦を広げている。
そのモンスターを引き連れて現れたのは、D+級モンスター四角黒天馬。
E級を中心として、複数体のD級が混ざったモンスターの大群を相手に一歩も引かない『血闘師』の面々は、流石は最前線で戦い続ける攻略者達。
『血闘師』のメンバーに指令を出しているのは『血闘師』幹部、速見寿久。
頭髪に数本の白髪が目立つ、30代前半の男性だ。
既婚者であり子宝にも恵まれ、理想の結婚生活を歩んでいた……が、ダンジョンの出現により彼は愛する家族を奪われてしまう。
だからこそ、彼は全力でダンジョンに挑む。
『血闘師』に所属するものは、ダンジョンを恨む者が多い。それほど、ダンジョンとモンスターは多くの物を奪ったのだ。
ゆえに、彼等がモンスターと戦う時の殺気と気合は他の攻略者の一線を画する。
刺し違えてでも殺す。そんな自爆覚悟の信念の元戦う彼等を止められるモンスターは――残念ながら、四角黒天馬が率いるモンスターの群れにはいなかったらしい。
その黒き天馬も含めて。
「黒天馬を殺したぞぉ!」
敵の首魁とも言える存在を討伐したことで、『血闘師』達の士気は最高潮に達していた。
そのままの流れで『血闘師』のメンバーは、数十体というモンスターの群れを相手に大きな損害もなく勝ちきる。
が、決して全くの無傷とはいかない。敵はD級も混ざるモンスターの群れ。複数名は軽くはない傷を負ってしまった。
「速見さん、これ以上は……」
速見の元へ駆け寄るのは、1人の女子学生だ。背は高く、凛とした雰囲気漂う大和撫子のような美しさを持っている。
「湯川か……くそ、またここまでかっ」
現時刻は16時。これ以上、この樹海の中に入ればより活発になるモンスター群に蹂躙されるだろう。
戦いにすらならないのに、挑むほど馬鹿ではない。
それが分かっているからこそ、速見という男はより悔しがる。
彼等『血闘師』は、いまだ“東京タワーダンジョンに辿り着けたことがない”。
東京タワーのあった港区すらも。延々と、東京タワーダンジョンの侵食により生まれた東京大樹海と呼ばれるエリアに足止めを食らってしまい、攻略と言ってはいるが……そのスタートラインにすら立たせてもらえない、というのが現状である。
東京大樹海、場所で言うなら新宿と渋谷の境目辺りだろうか。
そこへ広がるのは魔境。推測の出来ない瞬く間の環境変化に、強力なモンスター群。東京大樹海の特徴は多種族のモンスター同士が群れをなして襲いかかってくる所にある。
いかにダンジョン攻略を重ねてきた戦士であろうと、連携の取れるモンスターは脅威だ。例え格下であろうと、喉元を抉られる可能性は大いにあるのだから。
『血闘師』達は、そのモンスター群の壁を超えられずにいた。
「……怪我人の治療が出来次第、戻ろう」
「はい」
頷き、速見の元から離れる湯川。
その後を見送ると、腕を組んで考え込む。
「……くそ」
焦燥感を募らせ、苛立たしげに頭を強く掻きむしる。
彼を焦らせるのは、この東京大樹海での足止めが続いているから……ではない。
『血闘師』が入手した情報だが、最近“中型ダンジョンの大型化”が相次いでいるのだ。
一年間、ダンジョンは徐々に日本を侵食している。そう、“一年間”である。日数ならば365日。時間にすれば8760時間。
その間、ダンジョンは休むことなく侵食をし続けているのだ。
その結果が――中型ダンジョンの大型化である。
大型化すれば、もちろんダンジョンの外に出現するモンスターの階級も変わり、周辺環境にも影響する。
だから速見は大型ダンジョンの攻略を他の幹部に任せ、自分だけは超大型の攻略に勤しむ。
超大型ダンジョンが、“さらに巨大”になってしまう可能性があるから。
しかし、現実はその本丸にさえ辿り着けていない。
現状では大型ダンジョンを増やす方が問題がある為、中型ダンジョンと共に大型ダンジョンの攻略が優先される事柄。
この一年、全く結果の出ていない超大型ダンジョン攻略。
どちらを優先させるかは、誰しもが分かることだろう。
「……」
東京タワーダンジョンがあるであろう方角へ、眉間に深いシワを寄せて睨む速見。
胸に募る不安感と、一向に前へ進めない苛立ちが混ざり合うことで眼光はさらに鋭くなる。
「……もっとだ。もっと強くなって、戻ってくるぞ。クソダンジョンめッ」
誰にも聞こえない声量で、恨みを溢す。
返ってくるのは「だからどうした?」と言いたげな、モンスターの血で生臭くなった風。
顔をピクリとしかめるが、ため息を一つ吐いて、集まる仲間達の元へ歩いていくのだった。
その後ろ姿を見つめる、ひとりの視線に気付くことなく。
読んでくださり感謝です!
やはりランキング、10位以上の作品は猛者ばかりで中々上がらないですね…。
ですので、気が向いたらブクマと評価の方お願いします!
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