第19話〜怪蛇パイソンベイ〜
腕時計を確認すると、長針は12を少し過ぎて、短針は1を指し示していた。
上板橋ダンジョンに足を踏み入れて、もう1時間が経過したってわけだ。
幸い大きな怪我もなく、ダンジョンの奥地へと俺達はガンガン進んでいる。
中型のダンジョンがどれほどの大きさか分からないから、俺達が今どの辺りにいるのか全くピンと来てはいない。
まだまだ序盤なのか、既に奥地に入っているのか否か。
ダンジョン内で出てくるモンスターも強くなってきてはいるが、まだまだこのパーティのキャパシティを超えていない。余裕で戦えるレベルだ。
てことは、最奥まではまだまだ遠いということだろう。
「中型で、ここまで広いのか」
警戒しつつと言っても、俺達の歩幅で1時間だぞ。もう6km〜7kmはこのダンジョンを進んでいるはず。
中型だからと侮りはしていなかったけど、ここまで歩いても最奥の影すら見えないか。
出てくるモンスターもダンジョン外と変わりない。少しレベルが高いのか、ちょっとだけ強いかなぁ程度のモンスター達だ。
一太郎達で充分に対処可能だから、今のところ一体も捕獲は行っていない。
ダンジョンというだけあり、所々横穴や別れ道がある。
もしかして俺等、迷って同じところを歩いてるのでは? とも思ったが、こっちには鼻の効くワーウルフとハイ・オークがいる。
同じ所を通ればその臭いでわかる。
う〜ん。同じ景色と同じモンスターばかりで、これじゃあ外でのレベ上げと大差ないぞ? とげんなりしていると、センセーが声を上げる。
「さ、智さん……!」
「おぉっ。びっくりした、何。どしたセンセー」
「す、特殊能力で、と、盗品リストを、見てたんです、けど……こ、この先から、ガラッと変わります……! ま、魔獣、結晶(中)も、いくつか……! ご、500m程先に、その、魔獣結晶があります」
「マジ⁉︎ じゃあ、そこからがダンジョン奥地のはじまりってことか! お前等、気合いれろよ。魔獣結晶(中)ってことは、今までのと階級が変わるぞ。センセー、指示を頼む」
「は、はぃぃ……」
センセーにアイテムまでの方向を指示してもらうこと数分。
肌で感じ取れるほど、場の空気が変わった。
ヒンヤリとした空気に、ピリピリと痺れる肌。思わずゴクリと音をたてて唾を飲み込む。
「センセー……アイテムまでの距離は?」
「ぇ、ぇと……も、もう50mもな、ないです」
「じゃあ、やっぱり入ったんだな。上板橋ダンジョンの奥地に」
探索すること1時間。ようやくか。
タブレットにしまっておいた匣水晶を3つほど取り出しておいて、いつでも投げれるようにしておこう。
心なしか、一太郎達の顔も引き締まっている気がする。
「センセー」
「は、はぃっ。ゆ、弓、構え、てますっ」
「流石ですわ」
弓を構えておいたほうが、って言おうとしたらその手には矢を添えた弓を既に構えていた。
この場の空気に当てられ、いつもより震えてはいるけど顔は凛々しい。
ゴブリン相手にビビる、萌美優理の姿はもうそこになかった。
こんな時でも弓を構えれるようになったセンセーに感動しているのも束の間、ヨシコが「グルル……!」と唸り敵の接近を知らせてくれた。
全員が臨戦態勢をとり、ボタンちゃんは俺とセンセーを守れるように構えている。
「ガウッッ!」
天井を睨み、吠えるゴンザレス。
急いで目を天井へ向けると――、
「シャァァァッ!」
天井から俺達を見下ろしていたのは、紫色の鱗と黒という毒々しい縞模様の大蛇だった。
大蛇といっても、動物園で飼育されている蛇とは格が違う。
その3、4倍はあるであろう身体のデカさに、太さも桁違い。
口を大きく開き、鋭い2本の牙から半透明の液が垂れている。
「間違いなく毒だッ! 液にも触れるな! 捕まえるから殺すつもりじゃなくていい、ヒットアンドウェイでちょっかいだけかけろ! センセーと俺はもっと離れるぞ!」
「は、はぃ!」
大蛇から目を離さず、ジリジリと距離を離していく。
蛇が噛みつく速度は異常だ。あの巨体でも、たかだか数m程度じゃ全く安心出来ない。
人間の味を知っているのか、俺とセンセーから視線を外さず、執拗に注意を向けてくる。
バカ、それを見逃すほど俺のパーティは甘くないぞッ!
ワーウルフのヨシコは俊敏性を活かし壁を蹴ることで勢いをつけ飛び上がり、大蛇の横っ面めがけてその拳を叩き込む!
「ッッ⁈」
鈍い音を立て頭が弾かれた大蛇は衝撃に驚いたのか、天井からずり落ちてきた。
これが外のモンスターならリンチして終わりなんだが、やはりダンジョンモンスター。
落ちてから体勢を立て直すまでが早く、一太郎達が攻め込む前にとぐろを巻き、牙を向いて威嚇してくる。
とぐろを巻いている状態で、一太郎達より頭の位置が高い。かなりデカいな、あの蛇。
その巨体でさえ脅威なのに、その牙を向けながら太い尻尾も鞭のようにしならせて空を切っている。
アレの直撃は、ゴブリン種ゆえに素のステータスが低い一太郎達にはキツイ。
お互いが攻めあぐねる膠着状態――になると思ったか? こっちには空から魔法を撃てる奴がいるんだよ!
「カーくん!」
「ガァァッ!」
俺の頭上をホバリングしていたカーくんは勢い良く飛び出すと、その翼に緑色の淡い光を纏わせる。
流石に空中を舞う鳥には狙いをつけずらいのか、大蛇は視線をキョロキョロと泳がせていた。
「ガァ!」
大蛇の上をすれ違う時、翼を大きく羽ばたかせて翼に纏った緑光を叩きつける。
あれは【初級魔法・風】Lv.5で覚えるウインドブレイクという、斬属性の風の塊を叩きつける攻撃魔法だ。
初級というだけありダメージは然程期待出来ないけど、大蛇のヘイトを稼ぐには充分。
カーくんに狙いを定めた大蛇の懐に上手く潜り込んだゴブリン隊は、新たに手に入れた武器である大鉈をデタラメに振り回し傷を作り、血を大量に流させる。
「そうだ! 傷を作って血を流せ! ッ! 下がれぇ!」
「シャアララララッ!」
鬱陶しい! と言わんばかりの咆哮を上げながら、大蛇は一太郎達に大口を開けて襲いかかる。
「ブルァァアアッッ!」
「ッッッ⁉︎」
しかし、一太郎達に攻撃した隙を猪助は見逃さなかった。
お馴染みの武器である道路標識を両手で大きく振りかぶり、ホームランバッターの如き一振りで大蛇の脳天に一撃。
どうだ、これが俺のパーティだ。
誰かにヘイトを向けたが最後、その隙を突き誰かしらがデカい一撃をブチ込むって作戦よ!
グラリと頭を揺らす大蛇に、俺の目がキラリと光る。
ポケットから匣水晶をすぐに取り出し、
「みんな、下がれ! ソイツに一発かますからよぉ!」
俺の強肩が唸る! ブオンッッと空気を裂きながら振るわれる俺の腕から、150km/hを越える匣水晶が投げられた。
「ジャッ」
コンッという間抜けな音が大蛇の眉間から鳴る。と同時、匣水晶から放たれる光が大蛇の身体を瞬時に覆い尽くし、水晶の中へとその巨体を吸収する。
大蛇を吸収した匣水晶は地面に落ち、激しく揺れ動くが……数秒もすれば観念したのか、動くことをやめた。
「……捕獲、完了〜」
「す、凄い……」
「センセーは捕獲の瞬間を見るのはじめてだもんな。どうよ。本当に捕まえられるだろ」
匣水晶の元に歩み寄り、付いた砂埃を払って手に取る。
「毒ありってのもあって、中々手強かったな」
奥地に入り、すぐさま襲いかかってきたダンジョンの洗礼。
モンスターの階級が突然跳ね上がった。
確かに、この奥にはこのレベルのモンスターがウヨウヨ居るのだと思うと、普通なら進むのを躊躇ってしまうな。
ゲームじゃない。死んだら終わり。慎重に攻略を重ねるのも頷ける。
本来なら一太郎達の立ち位置は俺が立つ場所であり、襲いくるモンスターと戦闘を重ねることで消耗し、状況は過酷さを増していくのだから。
だが、俺にはそれがない。
脅威であるモンスターは、心強い仲間と同義。
見ての通り、普通に戦えばまだまだ時間がかかりそうだった大蛇は今や俺の手の中。
見るからに毒持ち。状態異常を与えられるモンスター。
間違いなくこれからのダンジョン攻略に貢献してくれるだろう。
「すまん、コイツのステータス確かめるから周囲の警戒頼む」
いそいそとステータスタブレットを取り出し、捕獲モンスターのステータス一覧を……あった!
「怪蛇パイソンベイ……コイツだ!」
新たに仲間になったコイツのステータスをタブレットに映し出す。
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・種族名/名前/怪蛇パイソンベイ/未名
・性別/♂
・階級/E
《身体的能力》
・Lv.41
・HP2555/3050(状態異常・脳震盪)
・MP0/0
・攻撃力=380(+30)
・守備力=278
・俊敏性=290(+20)
・攻撃魔力=0
・支援魔力=0
・守備魔力=260
《特殊技能》
・【毒噛・麻痺(遅効)】
・【とぐろ撃ち】
・【攻撃力上昇・Lv.3】
・【俊敏性上昇・Lv.2】
・【毒噛・麻痺(速攻・軽度)】(Lv.46に到達で取得)
・【攻撃力上昇・Lv.4】(Lv.50に到達で取得)
・【毒噛・酸性】(Lv.54に到達で取得)
《装備》
・なし
《レベルアップ必要経験値》
・2860/5400
《進化》
・Lv.54到達=大怪蛇ヴェノ/階級E→D
・Lv.54到達=俊敏性600以上/攻撃力600以上=毒蜥蜴/階級E→D
・Lv.65到達=攻撃力1200以上/守備力900以上/150体のモンスターに毒状態を付与させる=双頭毒蛇リドム/階級E→C
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強っ。E級かよコイツ。
センセーが魔獣結晶(中)がいくつか落ちてるって言ってたのは、E級のモンスターが死んだ結果か。
E級が(中)クラスの魔獣結晶を落とすなら、外のモンスターをいくら倒しても手に入らない訳だ。
うわぁ、E級のモンスターは仲間にもしたいけど魔獣結晶も回収したい。
どれくらいE級のモンスターとエンカウント出来るかが問題だな。
俺の育成補正がなくてもこの優秀なステータスだ。
あと数体は仲間に加えたい。
帰りの時間を考えると、探索の時間はあまり残っていない。
ヨシコ達にモンスターの匂いがする方へ行ってもらい、もう一体くらいE級を捕まえて帰ろう。
「よし、待たせた! ヨシコ、ゴンザレス、六郎。今からはモンスターがいる方へ積極的に進んでくれ。あともう一体ほど強いモンスターを捕獲して、夜が明ける前に帰ろう」
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