第18話〜上板橋ダンジョン挑戦〜
上板橋ダンジョンは、地下深くに続く穴が出現するタイプのダンジョンだ。
遠くから見れば街の一角に巨大な風穴が空いているように見えるが、近くに寄ってみれば良くわかる。
“穴”とは言っても、垂直に地下深くへ続くようなモノではない。
穴の壁面は傾斜になっていて、先がずっと続いている。
上板橋ダンジョンは穴型というイメージが先行して、壁面をロッククライミングしなくちゃいけないと思うだろう。
実際、見てみればなんてことはない。ようは角度のある坂道だ。
登るのは苦労するだろうが、降りるのには全く苦労しないだろう。
「いよいよ、ダンジョン攻略……!」
「ぅぅ……な、なな、なんか、か、風が……」
穴の最奥から、生温い風が舐めるように肌を通る。
いやらしい挨拶だ。逆に身が引き締まるってもんよ。
「ま、戦うのは俺じゃあないんだけどね」
隣に立つボタンちゃんの“黒い体毛に覆われた”太い二の腕を「頼むぞ」という意味を込めポンポンと叩く。
そうすると、ボタンちゃんの腕の筋肉が膨れ上がる。
これは「任せろ」という意味だ。頼もしい限り。“ハイ・オークに進化したから”か、前以上に頼り甲斐がある。
以前は安っぽい赤茶の体毛だったのが、進化を機に硬質で威圧感のある黒に体毛が生え変わった。
俺達を囲む、いつもの面々も――すっかり様変わりしていた。
一太郎達はゴブリン・エリートからゴブリン・ジェネラルに。
ヨシコ達はコボルト・ウォーリアーからワーウルフへ。
E+級進化の為に数匹は進化させずにレベ上げを続行させようと思っていたが、カーくんが進化した時にE+の進化先は残っていたので戦力増強を優先として全員E級に進化させた。
もう壮観というか、圧が凄い。進化毎にデカくなりやがるコイツ等。
ゴブリン・ジェネラルは俺より少し背が低いから170cmくらいだろうが、ガタイはゴブリン・エリートの比じゃない。ゴリゴリだ。
それでも単体の力はE級にしては弱い。しかしゴブリンとは群で力を発揮するモンスター。
進化をしたことで、その力はさらに磨きがかかっている。
ワーウルフは、もうコボルトの小型犬らしい可愛さとかそういう面影はまったく残っていない。
俺よりデカいから180は有に超えているだろう。
ウルフというだけあり、狼の顔に人型の身体。
強さとしなやかさを兼ね備えた超一級の肉体。
チームとして活動出来る10体のE級。ほぼ全員が近接戦闘という偏りがあるけど、まぁしょうがない。
いずれは支援、中距離、遠距離と潤わせていこう。
「ダンジョンの中にいてくれるのが手っ取り早いんだけどな」
ダンジョン攻略用に用意した匣水晶。その数40。ダンジョンボス捕獲用に、数少ないが黄色匣水晶も2個用意してある。これはボスを弱らせてから使いたい。
あとは複数個の回復用ポーション、状態異常緩和の薬用ポーション。あとは懐中電灯を数個。と、その電池。
ダンジョン攻略に辺り、使えそうな物はセンセーの能力で集めてある。
時刻も深夜0時。センセーの能力で、半径750m以内にアイテムを所持した人間が居ない事も把握済み。
今なら人に見られず、攻略を進められる。
「……よ〜し、やり残しはない。行くぞ、お前等っ」
深夜なので声はあまり上げられないから、各々手を掲げるなどして反応をしてくれる。
すぐさま俺はヨシコの背にしがみつき、センセーはボタンちゃんの腕に抱えられて、ダンジョンの傾斜を降りはじめた。
俺達の静かなダンジョン攻略が、とうとう幕を開けたのだ。
――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――
上板橋ダンジョンに足を踏み入れて、5分程が経過しただろうか。
月明かりがなくなり視界が真っ暗になったので懐中電灯の光だけを頼りに進んでいるが、一向に状況は変わらない。
モンスターも出てこず、ただただ急な坂道をくだっている時間が続いてるのが現状だ。
「ヨシコ、足に負担は?」
俺の問いに力強く顔を横に振るヨシコ。軽快な足取りは変わらず、なんの問題もないと言いたげだ。
コボルトの時は俺が抱える側だったのに。
娘の成長を感じて少し寂しくなる父のような気分だ……。
「ぁ、さ、智さん……!」
「ん? ……おっ!」
ヨシコの首筋の体毛に顔を埋めていると、センセーからの声。
なんだと顔を上げると、進行方向の少し先から明るくなっている。
不思議な光景だ。ある一線を境に壁自体が淡く発光して、その空間だけが真昼のように明るい。
そしてこの発光の境から徐々に壁面の幅が狭まってきている。
今までは外見の穴の幅そのままに広い空間が続いていたが、今はその半分くらいに狭まったか? 最初が広かっただけに、ずいぶん窮屈になったように感じる。
「広かったら逃げ場所が増えてしまうから、みたいな感じか?」
そんな俺の言葉に返事をするように、“壁の横穴から4体のオークが飛び出してきた”。
突然の急襲に俺はビビるが、一太郎達は既に戦闘態勢を整え、迎撃を開始。
4体のオークは武器を持っておらず、素手で一太郎達に掴みかかるが……飛んで火に入る夏の虫だ。
都合よく一太郎達に“誘い込まれた”1匹のオークは、ゴブリン・ジェネラルの特殊能力【同胞激励】によりバフがかかった一太郎達により瞬殺。
【同胞激励】は仲間のゴブリン種にバフをかける能力。流石は将軍。それっぽい能力だ。
一太郎達がオークを瞬殺し、次の獲物に手をかける中、ゴンザレス達ワーウルフ組もオークを倒していた。
首が胴体から切り離されたオークの身体が、ちょうど魔獣結晶に変わった所が目に入ってくる。
コボルト・ウォーリアーの時からだが、ワーウルフになったことでさらに攻撃力に磨きがかかった。
ワーウルフは素手での格闘を好むらしく、【徒手空拳】という特殊能力を新たに覚えた。
武器を装備せず、素手の時に攻撃力を底上げする特殊能力だ。
でもワーウルフには鋭い牙に鉤爪があるから、言ってしまえばアレが武器。
なのに攻撃力底上げって言うんだから少しズルい。
見ろよ。その爪に喉を引き裂かれ、底上げされた攻撃力で頭が飛ばされるあのオーク。
瞬く間ってこういう時に使うんだろうな。
急襲とは言ったが、終わってみればこちら側の蹂躙に終わった。
センセーもボタンちゃんの腕の中で弓を構えていたが、打つ隙もなかったな。
一太郎達が回収してくれた魔獣結晶を受け取ると、魔獣結晶(小)が2つ混じっていた。
外でのレベ上げなら、(小)クラスの魔獣結晶なんて1日に1、2個くらいしか取れないのに。
やっぱり、ダンジョンのモンスターはレベルが高いな。
どういう条件で大中小と分かれてるのか正確には知らないけど、おおよそモンスターの階級とレベルに関係しているとは思っている。
ダンジョンのモンスターは外に出現するモンスターと比べて強い。つまり、レベルが高い。
センセーの能力で上板橋ダンジョンの中で拾えるアイテムを探ってもらった時に、魔獣結晶(小)が多かったから気付いた。
だから、もっと奥に進んで行けば……魔獣結晶(中)も確保出来るのでは? と考えている。
奥へ奥へ進んで行けば行くほどに厳しくなるのがダンジョンらしいし。
最悪、進めるだけ進んで距離を稼ぎ、センセーの特殊能力でアイテムだけ確保して帰るのもアリだからな。
「ムフフ、先が楽し……む! みんな、ワイルドボアだ! 避けろ!」
オーク達を倒したのも束の間、すぐさま2体のワイルドボアがダンジョンの奥から俺達目掛けて突進してきていた。
モンスターの攻撃に次ぐ攻撃。ダンジョン攻略がはじまったのだと、肌がピリピリとひりつくな!
だが油断はするなよ、俺。楽しくなっても、ヘラヘラしていても判断を誤るな。
俺が間違えば、全員を巻き込むことになるのだから。
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