第16話〜黒鳥ダリス〜
「……ッ」
いつも通り眼は澱んでいるけど、ワクワクというオノマトペが萌美センセーから見えてくる。
かく言う俺もワクワクです。前髪のカーテンの向こうの悪い目つきがさらに悪くなっているだろう。
それもそのはず……宵闇烏のカーくんが進化可能レベルである44に到達したのだっ。
「ガァー!」
「ゴブォ〜」
「アォ〜ン」
「プギィ〜」
カーくんはソファーの手すりに立ち、バッサバッサと羽根を広げて「やったやった」と大喜び。
それをソファーの下から見上げるように、一太郎達が拍手で祝っていた。
E級到達かぁ……長いようで、あっという間だったなぁカーくん。
はじめて出会ったお前は、俺の家の前で呑気に日向ぼっこしてたね。そして、容赦なく俺がカーくんの頭に匣水晶をブチ当てたんだよな。
このマヌケが! 呑気に日向ぼっこしてんじゃねぇ! と言った記憶がある。興奮すると口が悪くなるんだ。ゲーマーの性だ、許してなカーくん。
「あぁ、そんなカーくんが今……!」
ステータスタブレットに輝く《進化》の文字を押して、能力を行使。
前回の進化同様、赤い光がカーくんの身体を覆っていく。
「センセー、はじまるよ」
「はぃぃ〜……!」
フンス、と鼻息荒くカーくんを見つめるセンセー同様、俺もカーくんを見つめる。
前回の進化でも随分と様変わりしてしまったんだ、E級ともなればさらに変わっても可笑しくはない。
光が強くなり、カーくんの身体の輪郭が徐々に変わっていく。
「お、おぉ、おお……ッ」
コイツ、デカイッ。
ちょうど俺の腰あたりにカーくんの頭が来そうだ。俺の身長が178だから、1m前後もある。
前が大鷲程度の大きさだったのを考えたら倍以上に身体が大きくなっているな。
そこまで身体が成長すると次第に光は落ち着いていき、消える。
そのあとには、漆のような艶を放つ羽根を広げる巨鳥が鎮座していた。
「これが、黒鳥ダリス……」
猛禽類を思わせる力強い眼光。宵闇烏の頃より遥かに純度の高い漆黒の羽根に、羽毛。
一本だった足はとうとう二本になり、鋭い爪がソファーの手すりに食い込んでいる。
改めて近づくと、その大きさに驚く。今までは肩に乗せても余裕があったけど、こりゃあもう無理だな。
優しく顔を撫でると、嬉しそうに目を細めて顔を俺の手に押し付けてくる。これは変わらないんだなぁと、少しほっこり。
「ふぁ……本当に、ぜ、全然、違う…姿に…」
息を呑み、まじまじとカーくんを色んな角度から眺めるセンセー。
それを見たカーくんはドヤ顔で胸を張り、カッコをつける。
カッコいいカッコいいと萌美センセーに褒められて、さらにカッコいいポーズをとるカーくんに“男の子”だなぁ、コイツ……と少し呆れながら、センセーに相手を任せて、俺は手に持っていたステータスタブレットに目を向ける。
こっちの進化も楽しみだったんだ、俺は。
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・種族名/名前/黒鳥ダリス/カーくん
・性別/♂
・階級/E
《身体的能力》
・Lv.44
・HP2180/2180(進化時+790)
・MP311/311(進化時+141)
・攻撃力=183(進化時+94)
・守備力=175(進化時+96)
・俊敏性=465(+50)(進化時+200)
・攻撃魔力=275(進化時+154)
・支援魔力=0
・守備魔力=268(進化時+136)
《特殊技能》
・【俊敏性上昇・Lv.2】↑UP!
・【俊敏性上昇・Lv.3】↑UP!
・【擬態・夜】
・【夜の眼】→【怪鳥の眼】NEW!
・【怪鳴】NEW!
・【初級魔法・風】Lv.MAX→Lv.6↑!
・【シューティング・クロウ】(Lv.46に到達で取得)
・【初級魔法・影】(Lv.48に到達で取得)
・【俊敏性上昇・Lv.4】(Lv.54に到達で取得)
《装備》
・なし
《レベルアップ必要経験値》
・0/5350
《進化》
・Lv.54到達=黒怪鳥アンダリス/階級E→D
・Lv.54到達/俊敏性500以上/攻撃魔力350以上=麗鳥ラフーラ/階級E→E+
・Lv.64到達/俊敏性1200以上/攻撃魔力880以上/【初級魔法・風】Lv.9以上=風鳥シルフE→C
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「うわぁ」
思わず声が出てもうたわ。全部のステータス爆伸びしてるんだが。
G級からF級に進化した時は、大体20〜30くらいしか進化時のステータスアップはなかったよな。
今回、最低でも100近くのステータスアップ。HPとか790も上がってやがる。
嬉しいことに、進化をさせる前に取得させておいた【俊敏性上昇・Lv.1】も進化に伴いLv.2へ昇格している。
やっぱり、進化をすれば覚えている特殊能力はワンランクアップすると考えていいな。
【初級魔法・風】はLv.5がMAX値だったけど、さらに上がるようになるのか。簡単に中級にはさせてくれないって訳ね。理解。
レベルアップで覚える特殊能力も進化をする度に増えてるし、やっぱひとつ階級が変わるだけで全く別物だなぁ。
俺の能力でステータスも底上げしてるから野生の、特にダンジョンの外を出歩いてる同階級のモンスターと比べれば強いと言っても、野生のE級もこれに近しいステータスではあるだろう。
そりゃあ、階級がひとつ違えば強さは別格とか言われる訳だわ。
F級からE級でこれだ。これがDなりCになれば、どうなっちまうんだか。
「そのD級とC級すら、もう進化の視野に入ってきてるんだけどな」
まさかまさか、だ。D級とD+級とかが進化先にあるとは思っていたけど、C級の進化先が現れるのは想像もしてなかったぞ。
C級。現状、確認されているモンスターの“最高階級”。
C級が最高階級な理由? 単純に、“見つかっていない”からだ。想定されるA級やB級の脅威に該当するモンスターが発見されていないらしい。
じゃあ、今見つかってるモンスターだけでA級B級を決めりゃあ良いのにと思うが、危険度を示す階級だから厳しく付けてるのかもしれないな。
だから攻略者の間では、このC級が事実上の最高階級ということになっている。
一時期、なぜC級以上のモンスターを1匹も確認出来ないのか、という話が巷で流行っていた。
その中で有力視されていた一説は、強いモンスターはダンジョンの外に出てこない。つまり、まだ見ぬ高階級のモンスターはダンジョンのさらに深層、しかも超大型の深層に潜んでいるんだと言う話だった。
まぁ、確かに。一理ある。
俺もそうじゃないかなぁと思ってる派閥だ。でもひとつ、背筋がゾクリとする話がある。
その話の内容は実際の所、B級以上に該当するモンスターに遭遇した人間はいるだろうという話だ。
なら、なぜその情報が出回らないか? それは――遭遇したら最期、そのモンスターに殺されるからだ。
死んだ人間は情報を持ち帰ることは出来ない。見つかっていないから、居ないというのは早計だと。
色々とそれらしい話が続き、最後の締め括りとして語られるのが、人間が遭遇しても生きて帰れるモンスターの階級はCが限界……ということ。
その話を聞いた時は、俺の住むこの街のどこかにそんなモンスターがいるのかもしれないと震えたものだ。
だが今、俺は別の意味で肌を震わせている。
俺は……そのB級へ、手を伸ばせば届く距離にまで来れているということに震えているんだッ。
少なくともD級への進化はほぼ確定。C級への進化条件はかなり高いが、ゴリゴリに特殊能力でステータスを盛れば達成出来ない数値じゃなくなってきた。
勿論、魔獣結晶の消費はかなりするだろうが……その魔獣結晶を集めるのに、おあつらえ向きな場所がすぐ近くにあるでしょうよ。
そう――上板橋ダンジョン。
もうじき他の面子も進化が可能になる。盤石も盤石。中型の上板橋ダンジョンなら油断さえしなければ充分に戦える戦力のはず。
「狙うか。ダンジョン攻略に、C級への道……ん?」
最高潮に達するやる気と興奮に燃えながら、タブレットを消そうとしたらタブレットに通知が。
これは……【モンスターマスター】の能力Lvが2に上がった時に来た……まさかッ⁈
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