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第15話〜超大型ダンジョン〜


 肌を瞬時に凍らせる、極寒の風が轟々と吹き荒れていた。

 鈍色の空から降り落ちる雪は、暴風に運ばれ弾丸のように攻略者の肌に突き刺さり、鋭い痛みを延々と与え続ける。

 

 猛吹雪は止むことを知らず、攻略者の歩みを決して認めようとしない。

 “そこ”に足を踏み入れてしまえば、零度を遥かに下回る温度で身体の末端は凍え、痺れ、たちまち感覚はなくなるだろう。耳を出していようものなら、数分も経たず凍りつき、音も痛みもなく取れるのは当然のことだ。


 眼前から襲いかかる吹雪が攻略者の行く手を遮り、視界は不明瞭。辺りの景色を頼りに進むもうとするが、地平線まで続く純白の大雪原が広がるばかり。目標になるものなんか、そこには存在しない。

 自分がどれほど歩いたのか、自分はどこにいるかすら見失ってしまう。

 通ってきた道も、瞬時に吹雪が掻き消す。


 ダンジョンが弱々しい人間で遊んでいるかのように、攻略者はダンジョンの猛威に翻弄される。

 少しでも落ち着こうと、慌てまいとその場に立ち止まれば最後……風の音と雪に隠れ、攻略者に近づいてくるは純白の死神達。


 地獄の環境で生き残るハンター達が、虎視眈々とその命を狙っているのだ。動く足を止めれば、チャンスとばかりにその爪を、牙を、能力を振われる。


 どれだけの人間が、肉塊に変えられただろうか。

 しかし、純白の景観が損なわれる事はない。飛び散る血は凍り、雪へ埋もれ、肉に臓物は純白の死神達の腹の中へ。断末魔は吹雪が掻き消して。


 この地は、地獄である。

 ここは――北海道ダンジョン。


 北海道“全域”がダンジョン化してしまった、超大型ダンジョンのひとつである。

 出現した近辺地域に環境変化をもたらすダンジョンであり、出現から一年……いまだ、“ダンジョンの入口”にすら辿り着けた者はいない。

 攻略に乗り出す挑戦者、その全てがダンジョン発生による環境変化に対応出来ず、ダンジョンに挑戦する道半ばで力尽きる。


 無論、超大型ダンジョンの周りに出現するモンスターは階級が高い。小型や中型など比べるに値せず、大型と比べても平均階級は高い。


 にもかかわらず、その魔境を……鼻歌を歌いながら“散歩”をするかのように歩く青年の姿があった。


 その身体はブレザー……学生服に包まれている為、歳の頃は15〜18のいずれか。

 身長は高く、がっしりとした体格で、その整った顔には微笑が浮かべられている。


 爛々《らんらん》と眼を輝かせ、彼はひたすらに北海道ダンジョン、その中心部を目指していた。

 


――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――



 ダンジョン出現による世界の侵食は、日本列島の“地形”すら変形させてしまう。


 その最たる例が、超大型ダンジョンのひとつである沖縄ダンジョンだ。

 沖縄に出現した超大型ダンジョンは急速に侵食の手を伸ばし、鹿児島を飲み込むにはじまり、現在は福岡までを沖縄ダンジョンが侵食している。


 広大な面積に膨れ上がった沖縄は猛烈な“熱”を放つ、北海道ダンジョンと同様の環境変化型。

 この沖縄ダンジョンに四季はなく、毎日が侵食により強化される過酷な太陽光と熱、大地から“漏れ出る”熱と合わさり、尋常ではない暑さと熱さが攻略者を苦しめる。


 流れる川も沸々と煮えたぎり、生い茂る草木さえ熱を持った灼熱地獄。

 ただでさえ高難度を誇る沖縄ダンジョンであるが、さらに追い討ちをかけるように沖縄ダンジョン特有と言える多種多様なモンスター群がさらに難易度を上げる。

 確認されているだけで数百種を超えるモンスターの対策は、現状ほぼ不可能だ。

 

 おおよそ人間が立ち入る事が不可能とも思えるその地“にも”、人間の姿があった。


 北海道ダンジョンにひとり歩いていたのは15〜18歳の男。

 沖縄ダンジョンにいたのは、黒髪を腰まで伸ばした、薄縁うすぶちの眼鏡が良く似合う知的な女性。

 クールと呼べる容姿は妙齢の女性のような妖艶ささえ感じるが、その身に纏っているのは校則を忠実に守り着用された黒いセーラー服であった。


 酷暑という表現すら生温い環境であっても眉ひとつ動かさず、彼女も黙々と沖縄ダンジョンの最奥を目指し歩いていく。



――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――


 

 人類が特殊能力スキルに目醒め、一年を超えた。

 破壊された街を闊歩するモンスターに怯えていた人間は、特殊能力により自分達を脅かすモンスターと互角に戦えるようになり、モンスターを己の身一つで倒せるまでに。


 そんな人間が、モンスター達が生まれ出ずるダンジョンを放置するはずがなく、攻略に乗り出すまでそう時間はかからなかった。

 ある人はソロで、ある人はチームで、ある人は強大な団体を結成して。


 そうやってダンジョンへ果敢に挑み、攻略を進める者達を人はいつのまにか“攻略者”と呼ぶようになった。

 

 先述した攻略者の団体はゲームやアニメーションに倣い“ギルド”と命名され、今や攻略者はどこかのギルドに所属することが生き残る為の最善手とされ、各地区にも複数のギルドが発足されている。

 

 中でも、ダンジョン攻略の最前線を征くギルドの名前は各地区の集会場にまで届く為、インターネットの消えた今の日本でもほぼ全ての生存者が認知しており、レベルを上げていつかはそのギルドの一員になることを目標にする攻略者は数多い。


 ――東北地方のダンジョン攻略に勤しみ、生存者保護に力を入れるギルド『聖護区域サンクチュアリ』。


 ――関東を主戦場とし、安全に暮らせる人間の街を取り戻そうと闘う、日々モンスターの討伐とダンジョン攻略に心血を注ぐ『血闘師ブラドデウス』。

 

 ――関西を根城に活動する、戦闘を好み日々狩りを楽しむ『戦闘主義者ウォー・モンガー』。


 現状、この三つのギルドが日本を護る要を担っているだろう。

 もしこの三つが発足していなかったら、今ある生活圏はとうになくなっていた。

 しかし、この三つのギルドをもってしても難航しているのが……大型、超大型の攻略である。


 まず立ちはだかるのは、大型ダンジョンの外にも出現する高い階級のモンスター達。

 ダンジョンの中に入ればさらに強いモンスター達がウヨウヨと彷徨っている。


 超大型ダンジョンに関しては環境すら変えてしまう力を持っている。

 いくら強力な力に目醒めた人間とて、容易に攻略出来る存在ではなかった。


 ゆえに、際立つ。

 各ギルド、総員数百名を超える高レベルの攻略者がつどっても攻略が難航する魔鏡に、単身で挑み、なおかつ涼やかな顔を浮かべていた――あの二人。


 方や、極寒地獄を鼻歌を歌いながら。

 方や、灼熱地獄を眉ひとつ動かさず。


 その両方が。尋常ならざる力を持つ、その二人が。

 示し合わせることもなく、偶然に。

 同じ言葉を呟いた。




 ――【モンスターマスター】を、探さなくては……と。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] なんか面白い小説ないかな〜って思って探してたら見つけました。現在15話まで読んだのですが、ヒロインの性格がめっちゃ好きすぎる。ブックマーク押しときますd(ゝω・´○)
[一言] 最後の伏線にワクワクが止まらないです!とても面白かったです!ありがとうございます!!
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