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第14話〜依存〜


 今日のレベ上げ兼アイテム集めも無事に終わり、すっかり見慣れた拠点である萌美センセーの家で、みんなくつろいでいた。


 言葉が通じているのは知らないけど、ゴブリン3体、コボルト3体、オーク2体、カラス2体。みんな仲良く話し込んでいる。

 少し前はあの半分がこじんまりとした体型だったのに、今じゃみんな一人前のガタイになっちゃってまぁ……。

 

 ステータスを見ても、随分様変わりしたと感じる。

 最初に捕まえた一太郎なんて、一桁台のステータスとかあったのに。

 今じゃ3桁のステータスばかりだ。

 オマケに、この前進化させる時に特殊能力スキルを覚えさせておかなくて後悔したので、魔獣結晶を大盤振る舞いし全員に特殊能力を覚えさせている。


 とは言っても、魔法系特殊能力の素材が今は集まり辛いから覚えさせてはいない。身体的ステータスを上昇させる特殊能力だけだ。

 これで進化させる時に特殊能力の格も上がってくれれば万々歳。

 もうすぐカーくんが進化出来るから、どうなるかが分かる。

 

 早くて明日とかには行けるんじゃないかな〜と、カーくんのステータスが映るタブレットとにらめっこをしていると、隣に座っていた萌美センセーが話しかけてきてくれた。


「ぁ、あ、の」

「ん? なんぞ?」


 萌美センセーの方を向けば、センセーは俺のタブレットを見て呟く。


「……そ、の。ずっとき、気になって、たんです、けど。智さんの、特殊能力スキルで、あの子達、仲間にしてるん、ですよ、よね?」

「そうだけど、それが?」

「わ、私的には、凄く強い特殊能力スキルだと、思っ、うんですけど……他にも、いたんです、か? も、モンスター、テイムをしてる人」

「あぁ〜。俺も最初は他にも居ると思ってたけど、モンスターをテイムしてるって奴は見たことないなぁ。動物を使役するって特殊能力は聞いたことあるけど」

「じ、じゃあ、あれ、ですね。私の、能力みたいに、し、知られると……」

「危ないかもねぇ」


 センセーに言った通り、俺みたいに育成補助盛り盛り、特殊能力付与可能みたいな性能はなくても、モンスターを使役するだけの特殊能力はあると最初は思っていたんだが……この一年、モンスターを使役している人間を俺以外に聞いたことも見たこともない。


 都内だけの極々小さな情報網でしかないから真実は分からないけど、少なくとも練馬集会場にモンスターを捕まえて使役してるなんていう人間は確認出来なかった。

 俺みたいに念の為モンスターを隠して人前に出ている可能性があるから絶対に居ないとは言えないけど。


 だから俺はヨシコやカーくん達にモンスターだけでなく、もし人間も近づいてくるようだったら教えるようにと言ってある。

 もし見つかって一太郎達が野生と間違えられて殺されたらたまったもんじゃないからな。


 ぶっちゃけ、萌美センセーと鉢合わせた時に猪助を見られて「やべぇ」と思ってたんだよねぇ。

 成り行きでどうにかなったけど、あれからはもっと注意を払うようにしてある。

 

「そ、その、私、絶対、いい、言わない、のでッ……!」


 両手をぐっと握り締めて、澱んだ眼でジッと見つめてくるセンセー。

 苦笑いを浮かべて「お、おう」と礼を告げた。

 一月も同じ家に住んでいればセンセーの人と成りもなんとなく分かってくるもので、この人なら俺の能力を無闇矢鱈に言いふらしはしない。

 というか出来ないだろう。


 初めて会った時の、1時間くらいパニックを起こしたセンセーを脳裏に思い浮かべれば、まず他人に話しかけるのすら出来るか怪しい。

 センセーが言うとも思ってないけどね。


 なんだかんだ懐いてくれてるし。

 こうやって話しかけてくれるくらいに、距離が縮まったのが嬉しくなる。

 ビクビクして近づいて来なかった子犬が、やっと膝に乗ってくれるようになってくれたかのような可愛さがある。

 

 見ろ、この髪の隙間から覗く濁った眼をギラリと光らせて、引きりながらも頑張って浮かべる笑顔。

 護りたい、この笑顔。



――◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇――



 萌美優理は――依存していた。

 

 自分も含まれる、暖かい団欒だんらんの輪。結束して戦い、勝利する快感。他人から気持ち悪いと言われる自分の言動をモノともしない智の言動。

 長らく人と接することを閉ざしてきた萌美にとって、それは劇薬に等しかった。


 無意識下で、人と触れ合い、語り合いたいという想いを募らせていた際に起きた出会い。

 その出会いは、初対面の男である智を自分の家に住まわせるという暴挙を容易に行わせるほど彼女を狂わせた。

 藁にもすがりたい、まさにそんな精神状況だったのだから。


 そこに現れたのが、自分の作品を好いている、自分の産み出したモノで涙を流してくれる熱心なファンで、自分の言動を気にせず接してくれる。一年以上、孤独を強いられていた極限状態の人間が依存するには絶好の相手だった。

 

 今まで一度も女性から好かれてこなかった男に、清純な美女が自分にひたすら優しくしてくれたらどんな男でも簡単に心を許すだろう。

 それと同じ。彼女は日を追うごとに智に溺れ、依存していった。


 智は気づいていない。どれだけ、萌美優理という人間が暗内智という人間に溺れきっているか。

 色んな状況が重なりに重なり、奇跡的に出来上がってしまった依存度。


 愛とか、恋とか、そんなものとは比べ物にならない黒く粘着質な感情が、彼女の胸中を支配していた。


 だから、彼女は彼を縛ろうと必死に努力した。


 教えられた事は何度も何度も反芻して、無理矢理に頭へ叩き込んだ。

 彼が読みたいと思う物語をひたすらに書き連ねた。

 はじめての戦いに恐怖を覚えたが、それ以上にやっと手に入れた関係と空間を失うかもしれないと思えば、彼女は戦えた。

 戦力の一部になれるよう、弓の技術を磨いた。特殊能力の使い方も考えた。


 少しでも“一緒にいてもいい”と思ってもらえるように。


 もし、智から「家を出る」とか「離れよう」という言葉が彼女に向けて言われれば、はたしてどうなるだろう。

 胸中を支配する黒い感情で、彼女が壊れるのかもしれない。言い切れるのは、決して良い結果には成り得ないということだけだ。


 智は可愛い妹が出来たみたいとこの関係を気に入ってはいるが、彼等の関係は、脆い、薄氷の上で成り立っていることに気づいていない。


 この心の齟齬が、近い未来の悲劇を――生むかもしれないし、生まないかもしれない。

 それは、神のみぞ知ることだ。

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