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第11話〜到着〜


 ――時は、遡ること十数分前。



 *************************

 

「いや〜、着いた着いた。お疲れ〜みんなぁ」


 労いの言葉と共にみんなの様子を見れば、流石にモンスターの身体と言えど疲労の色が滲んでるな。基本的に雑魚処理とは言え、あの数だ。

 ゴブリン隊とコボルト隊の仕事量はかなりあったし、かなり強引に推し進んでしまったからな。

 

「でも、そのおかげで……」


 頭上を見上げると、視界いっぱいでも収まりきらない巨大樹が――そこにあった。

 早朝すぐに出発して、11時を少し過ぎた頃。どうにか昼前には到着出来て良かった。


 遠目で見ても異様なデカさに驚いたけど、いざ目の前に来るとより一層このデカさに驚愕する。

 なにより、この大樹の幹に埋もれる建造物の数々。


 巨大樹のちょうど真ん中辺り、マンションが一棟半ばまで幹に埋もれていた。

 マンション一棟まるまる飲み込んで成長したのかこの樹。

 嬉しい誤算というか、あのマンション半分は木の中に埋もれてるけど部屋は生きてる可能性がある。


「高さはかなりあるけど……」


 樹の表面を見るとかなりゴツゴツしていて、手を引っ掛けるのにも、足場にも困りはしない。

 触った感じ、通常の木とは比にならないくらい頑丈だぞコレ。岩だ岩。

 こんだけ頑丈なら、登ってる最中に崩れて落ちるってことはなさそうだ。


「ボタンちゃん、俺を背負ってここ登れる?」

「ブフォウ」


 発達した上腕二頭筋を俺に見せつけ「誰に言ってんだ?」という圧を感じる。

 大型バイクを持ち上げ、そのまま投げることも出来る握力と筋力だ。つるっつるの絶壁ならともかく、この樹なら簡単に登れるだろう。

 

「だよな。俺もボタンちゃんならイケると思ってたよ。目的はあのマンションだ。疲れたら途中で猪助に変わってもらおう」

「ブルァ」

「いらん、ですか。流石っす。よ〜し、じゃあみんな、一旦休憩だ! 水晶に戻れ!」


 ゴブリン隊とコボルト隊を水晶に戻す。悪いがカーくんとすーちゃんはあのマンションに辿り着くまで、無防備な俺達を護衛してもらう。


「よし、頼むぞボタンちゃん、カーくん、すーちゃん!」


 ボタンちゃんの首に手を回して、おぶってもらう形で背に張りつく。

 待ってましたと言わんばかりに筋肉を隆起させて、ボタンちゃんは樹の肌に手をつけ、驚くことに猿のような身軽さでひょいひょいと登っていく。


「おっ、おっ、おお」


 若干揺れはあるが、まぁ許容範囲だ。

 にしても勢いが良いっ。もう地面が遠いわ。ちょっとキツイかなと思ったけど、モンスターの力をまだ舐めてたかもしれん。

 

 背中で揺られること、僅か数分。

 なんのアクシデントもなく、もうマンションまで登ってきてしまった。


「おぉ、期待以上の良物件。樹に埋もれてるだけで、侵食がほとんどされてないぞ。こりゃあ住めるな。大当たりだぞボタンちゃん」

「ブルァ!」


 とりあえず、一番入りやすい端部屋のベランダに降り立つ。

 護衛をしてくれたカーくんとすーちゃんに礼を告げ水晶の中へ。ずっと空を飛んで偵察役に徹してもらったから、ゆっくり休んでもらおう。


「いや〜、さんきゅーボタンちゃん!」


*************************


 そして時間は今へ。



「あぁ〜……びっくりしたぁ。まさか先住民がいるとは」

 

 勢い良く開け離れたカーテンに度肝を抜かれたかと思えば、“貞子”が出てくるなんて。

 長い髪で顔のほとんどを覆ったその人は、かろうじて身体付きで性別を判断出来た。

 

「てか、大丈夫かこの人」


 数秒ほど動かずジッとこっちを見ていた女性は、グラリと揺れたと思えばそのまま大の字で倒れていった。

 盛大に倒れ込んだ女性はピクリともせず、倒れたままだ。


 チラリと隣に立つオークのボタンちゃんを見ると、ボタンちゃんも同時に俺の方を見た。

 指で自分を指差し「私?」と問うてくる。


「ん〜、かもしれん。まぁ、この人には悪いけど鍵を壊して入らせてもらおう。打ちどころが悪かったらポーションを使わないといけないし。流石に目の前で逝かれるのはキツイ」

「ブル」


 了解、といった声を出して窓に手をかける。

 肩周りと腕の筋肉が倍ほどに膨れ上がり、カタカタと窓が震え出す。

 10秒も経たずにバギンッという甲高い音を立てて鍵は破壊され窓が開かれる。


「失礼しま〜す」


 開かれるや否や、靴を脱ぎ急いで女性の元へ駆け寄る。

 肩を揺するが、反応はない。息は……してるな。

 でも万が一があると困るので、回復用ポーションを詰まらないように少しずつ口に流し込んでおく。

 

 流石に床に放置は出来ないので、ソファーまで運んでそこに寝かせる。

 

「応急処置はこれで良いとして……どうするか。このまま放置は人としてアレだし、起きるまで待つか。ボタンちゃん、見張りは猪助にやってもらうから休んでてくれ」

「ボゥ」


 ボタンちゃんを水晶に戻し、代わりに猪助を出してベランダで待機してもらう。

 この高さにもなればモンスターが襲ってくるとは思えないけど、一応の用心としてな。

 

「いや〜景色良いなぁ」


 俺も一緒にベランダへ出て、景色を一望する。

 どれほどの高さにこのマンションがあるかは知らないけど、かなり高いなぁ。

 緩やかに吹く風が頰を撫でる感触が心地いい。


 視界いっぱいに広がる景色を楽しむ余裕すらある。

 そんな景色の一角に、不自然に空いた巨大な大穴。


「あれが上板橋ダンジョン」


 数あるダンジョンのタイプのひとつ、穴型ホール

 穴を下降し、下へ下へ攻略を進めるダンジョン。

 あの穴へ誘われ、二度と出てこれなかった攻略者がどれだけいるのだろうか。


 中型と言えどダンジョン。モンスターずる根源。

 外のモンスターを倒せるからと調子に乗れば、ダンジョンでは格好の餌となる。

 

 ダンジョンの中は異形モンスターの巣窟であり、外に出てくるモンスターよりダンジョンの中にいるモンスターの方がレベルが高い。さらに深層へと進めば進むほど、高レベルのモンスターが集まっている。

 普通なら、進めば進むほどに辛くなるのがダンジョン攻略というものと数々の攻略者の話で耳にした。


 が、俺は違う。


 俺は――ダンジョンのモンスターを捕獲しながら攻略を進めていく。

 俺の場合、進めば進むほど俺の仲間は強くなっていくって寸法よ。

 その為に魔獣結晶を貯め、匣水晶を何十個とストックしてある。

 最初はなから、正当な手段でダンジョンを攻略しようなんて考えちゃいない。

 

 折角そこに強いモンスターが居るんだから、利用しなきゃ損だろ。


 名付けて、ダンジョンモンスター大量捕獲作戦。

 その極め付けが……ダンジョンの最深部に座するダンジョンの頂点、ダンジョンボスの捕獲。


「とは言うけど、上板橋ダンジョンのボスがどんなモンスターなのかっていう情報は全く出回らないんだよなぁ」


 ゲームならともかく、これは現実。一度死ねば終わりだ。

 小型のダンジョンなら気楽に挑めると言うが、中型の規模にもなれば攻略は探り探りの慎重なものになってしまう。

 中型とは言うが、見た目は十分に巨大。

 大型と超大型が規格外なだけで、中型でも人類の脅威に変わりはないんだ。


 その脅威モンスターを、自分の仲間に出来るという安心感よ。

 さっきの敵は今の仲間ともってな。

 強ければ強いほど、脅威であれば脅威であるほど、捕獲出来た時のリターンはエグいことになる。


 やっぱり、“倒さなくても”捕獲が出来るっていうのはチートだ。

 これはつまり、本来倒さなくてはいけないという手順を省略できるってことよ。

 時間短縮に加え、戦力増強。


「最初のモンスターを捕獲するまでが大変だったとはいえ……ここまで来れたらチート能力だな」


 既に9体のF級モンスターに、G級飛行系モンスター1体。

 超大型、大型ダンジョンに近づきさえしなければ十分に生きていけるパーティが組めている。

 しかもただのF級ではなく、ステータス上昇補正により普通のF級より間違いなく強くなっている。


 このまま順調に進めば、いずれC級やB級、A級のモンスターすら俺の手持ちにと夢を見てしまうな。


 【モンスターマスター】。こんな世界で、こんな特殊能力スキルに目醒めたんだ。

 男の子なら最強のモンスター軍団というものに夢を見て当然だろう。


「なぁ、猪助。お前も男なら最強を夢見るだろ?」

「ブルァ!」

「そうそう、その意気だ。いつかなろう、最強に」


 猪助と男の子談義に花が咲いていると、気を失っていた女性から「うぅん……」といううめき声が。


「……あ、れ? 私……」

「……あ〜、どうも。すいません、大丈夫〜……ですか?」


 後頭部を押さえながら起き上がる彼女に、窓の外から声をかける。


「……ひッッッ」

「あ、ちょっ、待って、待ってください! 怪しい者じゃないです! いや、勝手に部屋に入ったのは申し訳なかったですけど、本当に怪しくないので!」


 こちらが見ても心配になるほど震え出した彼女に、俺は「怖くない怖くない」と必死に言い聞かせるのだった。

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