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 独裁者の恋人たち  作者: T.under
3/5

雨の街

 ひどくじめじめとして、服の袖先からあっという間に雨に濡れた。男もひどく濡れていたが、あまり寒そうな感じではなかった。私は足先の感覚がなくなるほど寒い思いがした。

男は私を見つめずに、スッと口を動かした。


 「おい、お前、、、、。」


 とても不快であった。しかし、男の声は雨で掠れて、幾分かましであった。


 「なんでしょうか、、。」


 「お前は、エドワルド公爵の娘か。」


 私は、ぎょっとした。なんだか、足元をすくわれた気がした。男は、先ほどまでとは変わり、私をじっと見つめていた。雨はまだ、降り続いている。


 「どうして、、、。」


 「やはりお前、彼の娘だったのか。」


 「どうしてその事を知っているの!!?」


 忘れかけていた思い出が、思い出したくないものがものすごい勢いで甦る。そのありったけの不愉快を男に投げ掛けるように言いはなった。


 「お前のそのネックレス、確かエドワルド公爵の

家紋だ。」


 「それに、お前の顔を一度、彼の屋敷で見たことがある

気がしたんだ。」


 恐ろしい男だと思った。たった、2つの証拠しかない中で、私をエドワルド公爵の娘だと当てたのだ。しかも、それを確かめるためにこんな雨の中で、いつ仕事が終わるのかも分からない私を待っていたのだ。


 男のコートはひどく濡れていた。夜の灯火が優しくコートを撫でるように照り、私と男しかここにはいなかった。


 「私は、確かにエドワルド公爵の娘だけど、、、。」


 そういうと躊躇いもなく男は付け足した。


 「隠し子か、、、。」


 私は驚きでひょうとした顔になってしまった。


 「実子だったら、今頃屋敷でお休みしているだろう。

それに、はじめて屋敷であった時もなんだか、周囲に隠されているような感じだったしな。」


 男の推理にただ呆然と立ち竦む。もう、滑稽でしかなかった。男はしばらく黙ったままだった。


 「それで、、。」


 「私に何のようなの!??」


 私には、変えられない過去のことを暴かれることよりも、この男が私をエドワルド公爵の娘と知って、何か事を起こすことの方がよっぽど恐れるべきものだった。


 万が一、男がこの事実を世間に知らせたら、只でさえ、

エドワルド公爵及びその親類にとって疫病神な私は余計、嫌悪されるだろうし、母が粛々と隠れて生きてきたことを無駄にしてしまうだろう。私は男の表情をなぞった。


 「別に。」


 「気になっただけだから。」


 「えっ!!」


 「じゃあ、俺はこのまま帰るから。」


 「本当に、、、。」


 「本当に何もしないの、、、!?」


 男の冷たい目とは裏腹に何も悪意は感じなかった。男は私をあの目で見ていたが、今度は違って見えた。


 「何もって、俺が何かすると思った?」


 「例えば、世間に事実をばらすとか、、。」


 男はにんまりとしていたが、まるで私が考えていることが分かるかのように感じた。超能力の類いかもしれない。


 「超能力じゃないからな、、。」


 私は思わず吹いてしまった。男もつられてほんの少し

笑む。あまり政治ごとに関心はないが、男は相当すごい人なのかもしれない。ふと、先ほどの女たちの声が引っ掛かる。


 「あなた独裁者なの??」


 「そうだが、それが!??」


 男はまた、真剣な声に戻った。


 「良ければ、家に来ませんか!?」


 ひどく濡れている男に私はそんな言葉しか掛けられなかった。男は黙っていた。しかし、私が動き出すとその後ろで影のようについてきた。それを私は承諾と受け取った。先ほどのランプはもう月の光に混じって蒼くなっていた。


家につく頃にはすっかり雨は止んでいた。

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